読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。

躍るアトム(その5)

 現在2016年2月16日22時07分である。

「昨日は、ブログは早く止めたけど、私にツイートしてきたのは、4時47分だったわよ。」

 さすがに、麻友さんも、最近は、言葉ではなく、数字で、物事を捉えるようになってきたね。

「褒めたって、ごまかされないわよ。どうして寝られないの。」

 簡単に言うとね、面白い数学の問題が、解けかかっているとき、そのままにして眠ろうという気になれないんだ。

「じゃあ、昨日、また、数学やってたの?」

 麻友さんとの会話って、ある意味、数学の問題と同じくらい、私には、楽しいんだ。

「でも、私は、昨日の3時、4時には、寝てたけど。」

 ツイッターで、お父さまとのこと書いたでしょう。

「書いてきてたわね。」

 麻友さんとお父さまのことを想像して、二人の会話を思い浮かべて、あのツイートに結実するまでの過程を楽しんでるんだよ。

「でも、現実は、大分違うわよ。」

 現実と違うということは、分かっているんだ。

 でも、私の心の中にできあがった麻友さんのイメージは、現実の麻友さんが元になってできたものだから、まったくめちゃくちゃじゃないんだ。

「分かってるけど、太郎さんの妄想している渡辺麻友は、私とは、ものすごく違ってるのよ。」

 大丈夫なんだよ。

 二人が今すぐ結婚するのなら、問題も起こるだろうけど、二人が『お手手をつなぐ』のが、2年後で、結婚式は、さらに先でしょう。

 二人の間の溝を埋める時間は、いっぱいあるんだよ。

「じゃあ、今は、何をやっているわけ?」

 共通の思い出を、いっぱい作っているんだよ。


「共通の過去か。そういえば、昨日は、広島の高校の編入試験に落ちたという話だったわね。」

 お互いに、情報交換しなきゃね。

 不合格になったよ。

「でも、広島で高校へ行ってたって、言ってたわよね。」

 うん。さっきのは、私立だったんだ。

 県立高校の編入試験を受けて、今度は、受かった。

「それで、広島から、京都へ、という道が開けるのね。」

 単身赴任というのは、辛い。

 なぜ、それが、分かるかというと、私の父というのは、非常に優秀な技術者であると共に、内面的にもかなり完成された人だったんだ。

 その父が、三次に行っていたとき、

『お昼ご飯のお弁当が、楽しみなんだ。』

と言ってきたんだよね。

 母が、慌てて、

『お父さん、可哀想だ!』

って言って、三次に行ったのを今でも覚えている。

 前から、私は、本当に幸せな家庭に生まれたんだ、と話しているけど、こういうところにも、それが、現れているでしょう。

 普通、単身赴任のご主人が、

『お昼のお弁当が、楽しみだ。』

と言ったとしても、奥さんは、

『美味しい、お弁当が出てるのね。』

ってなもんだよ。

 でも、あの、ある意味気難しいほどの父が、仕事中、お弁当だけが楽しみになっているとしたら、これは、異常事態なのだ。

 下手をすれば、若い社員に、心を奪われかねない。

 まあ、これは、私の場合の心配材料かも知れないけど・・・

 とにかく、その危険信号を、見落とさないのが、私達家族の、素晴らしいところだったのだ。

「でも、そんな家族だったのに、どうして、太郎さんは、統合失調症なんかになっちゃったの?」

 これは、多分、麻友さんと私が結ばれて、二人できちんとしたことができるようになったとき、初めて原因が分かることなのだと思う。

「太郎さんは、今でも、私と、結ばれると、信じているの?」

 もちろん。

「身を引くことは、できないのかしらね。」


 さて、広島の話は、自慢話のために、持ち出したんじゃない。

 実は、次の話をしたかったからだ。

 麻友さん。麻友さんは、日本のあちらこちらで、コンサートやってるけど、コンサートの場所によって、日没時刻が違うというのに気付いたことあるかな?

「あっ、それある。コンサートの時間っていうのは、普通決まっているんだけど、特に野外ステージの場合、北海道と沖縄では、空が全然違うのよね。」

 気付いてたか。

 実は、高校2年生の春に、広島井口高校へ、転校して、春は気付かなかったんだけど、秋になって、

『あれっ?』

と思ったんだよね。

 普通、

『秋の日はつるべ落とし』

というくらいで、秋はすぐ日が暮れるんだけど、広島では、夕方遅くなっても、子供達が外で遊んでる。

 中学校で、科学部天文班だった私は、気付いたんだよね。

『広島は、東京より、西にあるから、日没が遅い。』

 本当に、30分近く。理科年表で見ると横浜より広島が28分日の入りが遅い。

「えっ、でも、なんで、そんなことが、起こるの?」

 そこが、今日のポイントじゃない。

「ポイント?」

 地球が、まるいってこと。

「エーッ、どういうこと?」

 地球がまるいから、順々に明るくなって行って、順々に暗くなって行くんだよ。

「あーっ、でも、それに合わせて時刻を進めるわけには行かないの。」

 もちろん、地球規模では、各場所で、時刻が違う。

 でも、日本国内では、兵庫県明石市にある標準子午線の真南を太陽が通るとき、12時と決めて、日本全国一律に、それで計っているんだ。

「つまり、私達のコンサート時間も、学校の開始時間も、深夜バスの時間も、すべて東京でのものの、押しつけなのね。」

 そう。東京に首都があるというのが、日本全体に影響を与えているんだね。

ということも大事なんだけど、地球の大きさを実感するのが、目標なんだ。

「どうやって?」

 麻友さんは、広島へ行ったことがあるとは言っても、飛行機でだろうけど、新幹線で行ったどこかで、思い浮かべてね。

 広島は、さいたまより、日没が28分遅い。つまり、大体30分遅い。

 もっと西の地点を思い浮かべていって、360度地球を回ったら、元に戻るわけだから24時間経ったわけだ。

「それ、論理的に正しいの?」

 厳密に言うと、元に戻るから24時間だ、というのは、論理的にギャップはある。でも、これが、ギャップだと認めた上で、推論を進めよう。

 360度が、24時間ならば、何度が30分に相当するだろう。

「あっ、それくらいなら、分かるわ。360度を48で、割れば良いのよね。」

 さすが、AKB48の人!

「太郎さんのようにやるには、まず360を12で割るのよね。」

 そう、そう。

「そうすると、30になる。これを、4で割るのよね。」

 完璧に、吸収してる。

「15割る2は、7.5だから、30分に相当するのは、7.5度ね。」

 お見事。

 それで、思い浮かべて欲しいのが、まるい地球の7.5度ぶんが、さいたま広島間の距離だ、ということ。

 というより、さいたま広島間の麻友さんの感覚を、48倍すると、地球の全周になる。

「ああ、分かった。選抜総選挙の順位の関係で、16の倍数は、分かるのよ。地球ってさいたま広島間の48倍か。少し分かった。」

 そこで、だめ押し。

「えっ、?」

 今、麻友さんの手の中に、直径5cmのりんごがあったとして、それを、48倍で分かった、地球の大きさまで押し広げたとき、押し広げたりんごの中の原子は、大体、押し広げる前のりんごくらいの大きさだよってこと。

「あーっ、うん。言いたいことは、大体分かった。つまり、1オングストロームという長さを、肌で感じられるようにしてくれたわけね。」

 えっ、原子に、麻友さんの肌に触ることを許したの?

「なに、バカなこと言ってるのよ。私の体だって原子なんでしょ。」

 その、返球でいい。

 よし。これで、『躍るアトム』のりんごの話、おしまい。

 最後にもう一回、復習しておいて。

 読めば読むほど、ファインマンの文章は、深い意味が隠されていることが分かってくるんだ。

{\mathrm{The\ atoms\ are\ 1\ or\ 2\times10^{-8}cm\ in\ radius.}}

{\mathrm{Now\ 10^{-8}cm\ is\ called\ an\ }angstrom\ \mathrm{(just\ as\ another\ name),}}

{\mathrm{so\ we\ say\ they\ are\ 1\ or\ 2\ angstroms\ ( \overset{o}{A} ) \ in\ radius.}}

{\mathrm{Another\ way\ to\ remember\ their\ size\ is\ this:}}

{\mathrm{if\ an\ apple\ is\ magnified\ to\ the\ size\ of\ the\ earth,}}

{\mathrm{then\ the\ atoms\ in\ the\ apple\ are\ approximately}}

{\mathrm{the\ size\ of\ the\ original\ apple.}}


『原子は、{1\times10^{-8}\mathrm{cm}}から、{2\times10^{-8}\mathrm{cm}}くらいの半径である。』

{1\times10^{-8}\mathrm{cm}}という長さを、(別名)オングストロームと呼ぶ。』

『そこで、原子は1ないし2オングストローム(Å)の半径であるといえる。』

『これらのサイズを思い出せるもう一つの方法が、これである:』

『もし、りんご1個を、地球のサイズまで、押し広げたとする、』

『そうすると、押し広げたりんごの原子の大きさは、大体、』

『押し広げる前の元のりんごの大きさくらいである。』


 じゃあ、今日は、0時くらいに寝るよ。

「毎日、そうしなきゃ、だめよ。」

 分かっているんだけどね。

「バイバイ」

 バイバイ。

 現在2016年2月17日0時08分である。おしまい。