現在2016年8月28日11時43分である。
「今回は、『たのしい算数』の話も出て来るのよね。」
のっけから行こうか。
「うん。」
私が、父から、数(つまり正の整数)を、習った後、数日してからのことである。
『たのしい算数』は、問題集としての役目が主だから、父が説明しなければならない。
その日、父が、
『この問題やってみろ。』
と言った。
問題
次の数の大小を比べて、かっこに、や、を、入れなさい。
という様な、問題だった。
もちろん麻友さんは、解けるよね。
「当たり前よ。」
私は、こう書いたんだ。
私の解答
次の数の大小を比べて、かっこに、や、を、入れなさい。
これを見た、父が青ざめて、
『お前これ、0点だぞ。』
と言った。
『そんなはずないよ。』
と、私が言うと、父が、
『とで、どっちが大きいと思う?』
と、聞いてくる。
『だよ。』
と、私が答えると、ますます父は、頭を抱えた。
『お前、この不等号の記号、どう使ってるんだ?』
『こっちが、大きいよって、矢印向けてるの。』
これで、やっと父も、なぜ私が、全部間違えたのか、分かった。
私は、不等号『』を、『』の先だと思い、
『こっちが、大きい数だよ。』
と、大きい方にとがった先を向けていたのだ。
『この記号はなあ、大きく開いてる方と、すぼんでいる方があるだろ。大きく開いてる方が、大きい数の方にするんだ。』
『えっ、そうなの。』
「太郎さんでも、そんなことが、あったんだ。」
あったどころじゃないよ。
こういう風に、誰でも躓くところをみんな、父とのクイズで、失敗して学んであったから、学校で習った時は、すらーっと通れたんだ。
「確かに、聞けば聞くほど、太郎さんが、誰でも躓くところで、いつも躓いていて、それでいて躓くのが早いから、救われている、というのがあぶり出されてくるわねえ。」
そしてね、父は、そんなに苦労してないんだよ。
「どうして?」
だって、所詮、小学校の算数だもの。
「あっ、そうか。」
だからね。私が言いたいのは、中学ぐらいになって、大人でも難しい問題になってからでなく、小学校入る前に、小学校の算数を、子供に教えれば良いと思うんだ。
小学校低学年の算数なんて、中卒のお父さまお母さまだって、教えられるよ。
そして、小学校入学時に落ちこぼれなければ、後は、親がそんなに援助しなくても、子供は伸びる。
「一理ある意見ね。」
不等号ひとつとっても、こんなに真理が隠れている。
「ところで、私達の数学では、不等号は、どうするの?」
当然、定義する必要がある。
「どうやって?」
ある数が、別なある数より大きいというのは、どういうこと?
「別なある数の方を引き算できること。」
確かに、それは、正解なんだけどね-。
私達の自然数では、まだ引き算は、定義してなかったでしょ。
「じゃあ、引き算を定義したら?」
大きい小さいを比べられないのに、どうやって引き算できるかどうか、分かるの?
「あっ、そうか。じゃあ、足し算を使って、定義すれば良いのか。」
おっ、久しぶりに優等生の冴え!
「特待生じゃなかったの?」
しばらく、ご無沙汰だったから、ランクダウン。(笑)
「さっきの、とでは、に、を足すと、になるわね。でも、逆に、に何を足しても、には、ならないわね。」
そうそう。
「だから、太郎さんのようにやを使うのは、嫌だけど、
となる、自然数が、ある時、と書く、
と定義するのは、どうかしら?」
それで、合格だよ。
定義として書こう。
定義 15
とを、自然数とする。
このとき、となる、自然数が、ある時、
(エイ、しょうなり、ビー、と読む。)
と書くことに、定める。
また、となる、自然数が、ある時、
(エイ、だいなり、ビー、と読む。)
と書くことに定める。
定義 15 終わり
「定義として書いちゃうと、味気ないわね。」
そうでもない。慣れてくると、こういう定義を見ると、安心するようになる。
ところで、この定義は、これだけでは不十分なことに気付いた?
「なんか、言葉が見つからないけど、不完全ね。」
そう。その『不完全だ』というニュアンス大事にしてね。
「数学の文脈で、ニュアンス?」
この場合だと、自然数とについて、
との両方が、成り立ったらどうするか、
ということに、答えていない。
「あっ、そうよ。そこが、引っ掛かってたのよ。どうするの?」
こういうことが起こらず、ちゃんと定義が、意味を持つということを、
『この定義は、ウェルデファインド - である。』
と言うんだ。
きちんと、書くと、
定義 16
ある定義が、矛盾なくきちんと定義できていることを、
『ウェルデファインド - である。』
と言う。
定義 16 終わり
「 - の訳って、『良い定義』では、ないのね。」
そう。
『うまく定義されている。』
なんて、訳す人もいる。
私達は、- と、書くことにしよう。
「それは、そうと、やが、- になっていないわよ。」
どうやって、証明すれば良いと思う?
「今日は、とことん質問形式ね。」
問題の内容による。
「ちょっと、証明を思い付かないわ?」
ヒント。
『』と『』と『』のうち、2つが同時に成り立つことがあるだろうか?
「えっ、それは、常識的に言って、ないのでは?」
こういう場合分けのときは、易しいところから、手を付けるんだよ。
「じゃあ、まず、自然数とについて、のときを考える。」
「あっ、そうか。私達は、自然数は、が、並んだものとしていたから、ということは、そのの数が同じ。」
「つまり、みたいな状態だから、これのどちらかの辺に、自然数を足したら、が成り立たなくなっちゃうのか。」
そう。良く分かったね。
特に、私達の定義では、自然数はみたいな格好をしているということは、良く思いだした。
特待生に、ランクアップ。
「ウフフッ、褒められるって良いものよね。」
じゃあ、その勢いで、定理、証明してよ。
「分かったわ。
定理 17
自然数とについて、
ととの3つのうち、1つそして1つのみが、成り立つ。
証明
1)が、成り立つ時、自然数を持ってきて、とすれば、ではなくなるし、また、とすれば、やはりではなくなるので、のときは、やは、成り立たない。
2)でない時。
私達の自然数は、を並べたものに限られるので、左辺か右辺のどちらかが、が多いのである。
2)-1)右辺の方が、多かったとしよう。この場合、足りない数だけのを、用意し、でつなぎ合わせて、自然数を作ると、となる。この時、である。
ところで、この場合、よりの方が、の数が多いので、とは、ならない。
従って、この時、とは、ならない。
2)-2)左辺の方が、多かったとしよう。この場合、2)-1)の議論と同じようにして、が、証明される。
そして、この時、とは、ならない。
3)以上により、すべての場合がつくされていて、どの2つも重ならないことが証明された。
証明終わり
書いてみたわ。」
うん。特待生だけあって、模範解答。
「私、今ほど、不等号に自信持ったことなかったわ。」
そりゃー、完璧な証明をしたんだもの。
「算数って、馬鹿にできないわね。算数知らないと、数学できないんだもの。」
じゃあ、今日は、ここまでにするか。
「今日は、数学の話だけね。」
うん。ばいばい。
「バイバイ」
現在2016年8月28日16時45分である。おしまい。