女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

1から始める数学(その15)

 現在2016年9月7日23時07分である。

「前回は、数学の話だけで、終わったわね。」

 余計な文章があると、疲れるだけかな、と思ってね。

「確かに、余り長い投稿は、読むのが疲れるわね。」

 ドラマの話や歌の話がメインでなく、数学や物理学の話がメインの時は、それだけに集中しようと思う。

「分かったわ。」


「それで、今回の話は?」

 {0}(ゼロ)を、作る。

{0}を、作るって?{0}は、元々あるんじゃないの?」

 だって、我々は、{1}を定義して、{1}{+}で、{2}{3}を、作ったじゃない。

「分かった。{0}は、{1-1}と、定義するんでしょう。」

 かなり、良い線行ってる。

 それに近いことを、もっと厳密にやるんだ。

「これ以上に、厳密に?」

 どういうことをするかというとね、{0}だけじゃなく、負の数も含めて、整数全体を、定義しちゃおうと、思っているんだ。

 ところで、麻友さんは、座標って、知ってる?

「座標って、関数のグラフを書く時の、目盛りよね。」

 良かった。覚えてて。

{(4,8)}の点の{x}座標は{4}{y}座標は{8}、で良いのよね?」

 そう。その通り。

 今から、{xy}平面の座標が、自然数の点に注目する。

{(1,1)}とか、{(2,1)}とか、{(3,1)}とか、{(2,2)}などね。」

 良く分かっている。

 じゃあ、麻友さんを特待生と見込んで、高級な質問。


 問題

 次の写真にあるように、傾きが{1}の同じ直線上にある点どうしを結びます。このとき、同じ直線上にある点どうしには、どういう関係があるか、答えなさい。

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 ヒント

 例えば、{(2,1)}と、{(5,4)}は、同じ直線上にありますが、{(2,1)}と、{(5,4)}には、共通な何かがありますか?


{2-1}{1}だし、{5-4}{1}ね。前の数から後ろの数を引くと同じになるものが、同じ直線上に並んでるんじゃない?」

 そう。そのキレ。

 なぜそれを、思いつけたのか、自分でも分かってないけど、とにかく正解を思いついちゃう、特待生、麻友さんのキレがあってこそ、進軍できる。

「でも、どうして、傾き{1}の直線上の点どうしは、引いたものが、同じになるのかしら?」

 こういうことなんだよ。

 今、点{(a,b)}と、点{(c,d)}が、傾き{1}の同じ線の上にあるとしよう。

 傾きが、{1}ということは、{a < c}の場合、{a}から{c}まで{x}方向に増える量{c-a}で、{y}方向に増えた量{d-b}を割ったものが、{1}ということなんだ。

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 だから、

{\displaystyle \frac{d-b}{c-a}=1}

であり、よって分母をはらって、

{d-b=c-a}

となる。

 {c < a}の場合は、両方が順番逆になるだけで、

{b-d=a-c}

となる。

 どちらにしても、最後に、

{a-b=c-d}

と、移項するのは、簡単だね。

 これを、見れば、{x}座標から、{y}座標を、引いたものが、同じになることが、証明できてる。


「それで、こんなことを調べて、何をしたかったの?」

 麻友さんが、今まで想像したこともないことを、やって見せようと思ってるんだ。

「『最初に種明かしします』の精神に則って、きちんと説明すると?」

 同値類による類別という、大学レヴェルの数学の話題を話そうと思う。

「難しいの?」

 定義だけ聞くと、何言ってるか、さっぱり分からない。

 でも、具体例を、いくつも知ってからなら、ほとんど当たり前のことに思える。

 そして、非常に便利で強力な手段なんだ。

「必要なの?」

 大学になるまで数学で出てこないということは、これなしでもかなり数学ができるということだ。

「じゃあ、やめましょうよ。」

 さっきも言ったように、非常に便利で強力な手段なんだ。

 これを使うだけで、モヤモヤしていた霧が晴れる。

「私に、分からせてくれるなら、聞きましょう。」

 そうこなくっちゃ。


 やりたいことは、整数を作ることなんだ。

「普通なら、{1,2,3,\cdots}という自然数に、{0}を付け加えて、後は、{-1,-2,-3,\cdots}っていうように、自然数にマイナスをつけたものを、加えれば、整数よね。」

「どうして、これじゃ駄目なの?」

 麻友さん。私達にとって、例えば、『{3}』って、どういうものだった?

「えっ、『{3}』?・・・あっ、思い出した。『{1+1+1}』のことだったわね。」

「そうすると?」

 この書き方で、『{0}』を、書ける?

「だから、やっぱり、『{0=1-1}』と、したら?」

 そう。そのやり方を、貫くことも、できる。

 例えば、『{-3=1-4}』。つまり、『{-3=(1)-(1+1+1+1)}』とやれば良い。

 間違えたやり方ではないから、矛盾は出てこない。

「だったらいいじゃない。」

 でも、小さい数から大きい数を引くことを、定義する前から、それを使っている。

 自分が、正しいことを証明するのが、難しい。

 つまり、整数の定義が{\mathrm{wellーdefind}}であることを、証明しにくい。

「ああ、この前の、ウェルなんとかね。」

 ウェルデファインド。

「ここでも、それが出てくるの?」

 大学の数学では、めったやたらと現れる。

「それに、私を、慣らそうというわけね。」

 実は、そう。

「もう。いいわ。結論を言いなさいよ。どうやって、整数を作るの?」

 こうやるんだ。

 例えば、{(5,4)}と、{(2,1)}は、どちらも、{x}座標から、{y}座標を引いた数が、{1}だったね。

 だから、この直線上の点を、全部合わせて、この集合を、整数の世界での『{1}』だと定義するんだ。

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「ちょっちょっと、待ってよ。何が{1}ですって?」

 この斜めの線上の座標が自然数の点、全部の集合。

「じゃあ、{\{(2,1),(3,2),(4,3),(5,4),(6,5),\cdots \} }というような、無限個の要素からなる集合を、{1}だっていうの?」

 そう。

「それだったら、{(4,1)}なんかは、どうなるの?」

 {4-1=3}だから、{(4,1)}の乗っている直線上の点の集合は、整数の世界での{3}となる。

「それは、言ってることの意味は、分かるけどね。そんな集合を、{1}{3}にしちゃうのは、抵抗あるわね。」

 そこで、抵抗があるのはね、計算を実際にやってみないからなんだよ。

「どう、計算するのよ。集合なのよ。」

 集合だと思うから、気持ち悪いんだよ。

 1つやってみよう。

{(7,3)}の入っている集合は、さっきの約束で、整数の{4}のことだったね。{7-3=4}だから。

 それから、

{(9,2)}の入っている集合は、さっきの約束で、整数の{7}のことだったね。{9-2=7}だから。

「うん。うん。」

 ここで、2つを足してみよう。

「どうやって?」

 そのまま、足しちゃえば良いんだよ。

{(7,3)+(9,2)=(16,5)}

「えっ、こういうこと?」

 うん。どうよ。

「あっ、そうか。{16-5=11}だから、確かに、{4+7=11}の方と、一致してる。これって、まぐれ?」

「のわけないわよね。こうなるように、作ってあったのね。」

 図星。足し算の定義が、{\mathrm{wellーdefind}}になるように、うまーく仕組んであったんだよ。

「でも、太郎さんは、{0}を作るって、言ってたじゃない。」

 もう、分かるんじゃないかなあ。

「あっ、そうね。分かったわ。{ \{(1,1),(2,2),(3,3),(4,4),(5,5),(6,6),\cdots \} }という集合を、整数での{0}と、定義するのね。」

 さっすが、特待生。

「私は、ただの優等生じゃないの。特待生なの。だから、こんなことも、できるわ。」

「マイナスの整数は、例えば、{-3}は、{ \{(1,4),(2,5),(3,6),(4,7),\cdots \} }なんていう集合と、定義すれば良いんでしょ。」

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 お見事。

 これで、整数が、定義できた。

 数学の普通の本だと、ここで、自然数での足し算が、整数でも拡張された形で成り立つ、とか、マイナスの数が、ちゃんと{\mathrm{wellーdefind}}であること、とか、かけ算は、とか、色んな事を書き並べておきながら、問いとして、『これらを、証明しなさい。』となっていることが、多い。

 こういうことをされると、読んでいる方は、やる気がそがれるし、そんな問いを一回は解いても、役に立つかも知れないけど、同じような問題を、何問も解いても、身につくものはない。

 だから、麻友さんには、以下のことを注意するだけで、整数構成は、終わりとする。


 今、整数{48}を、考える。

 これは、定義により、

{ \{(49,1),(50,2),(51,3),\cdots \} }

という集合だ。

 そして、麻友さんが、見つけたように、

 整数{-48}は、

{ \{(1,49),(2,50),(3,51),\cdots \} }

である。

 つまり、マイナスをつけると言うことは、{x}座標と{y}座標を、交換するということだ。

 ここから、麻友さん。重要なことに気付かない?

「マイナスのマイナスは、プラスってこと?」

 そう。さすが、特待生。

「うーん。でも、マイナスかけるマイナスが、プラスになるっていうのは、微妙に違うような・・・」

 さすが、鋭い。

 これは、マイナスかけるマイナスが、プラスということの証明ではない。

 そもそも、私達は、自然数のかけ算も、定義してないものね。

「そうよね。私達、自然数の引き算も、かけ算も、もちろん割り算も、定義してないわ。」

 うん。ただ、そういうその他もろもろは、メインストリートを、オスカルの乗るような、馬車で、堂々と行く時には、路傍の花として、放っておいても困らないものなんだ。

 麻友さんには、自分の数学を作ってね、と言った。

 結局、細かいところをどこまで丁寧にやるかは、それぞれの人のキャパシティの問題なんだ。

「じゃあ、私が、もっと細かくやれるだけの容量があったら、丁寧にやれば良いし、容量がなかったら、大体こうだろう、で、すっ飛ばして良いということ?」

 数学って、実は、そういうものなんだ。

「他の分野ならともかく、数学まで・・・」

 これは、こういう風に前向きに捉えるといいんだ。

『私は、今、数学の、この部分が、知りたい。そのためには、他のことを、どこまで知っていれば良いか。その必要なものだけを、研究しよう。』

 数学、全部を知る、というのは、そう簡単にはいかない。

 だったら、一番、好きな数学、やりたい数学、を研究した方が、精神衛生上よろしい。

 麻友さんと私は、物理学に応用する、数学をやりたい。

 1から始める数学は、その基礎を据えた。

 そして、ついに、{0}を作るところまで、来た。

 これで、お役御免である。

「今、思い出したんだけど、大学で出てくる概念を、1つ話してくれるって言ってたじゃない。」

 ああ、同値類による類別ね。

 傾き{1}の直線上の点を、ひとつひとつ集合にしたでしょ。あのひとつひとつの集合に分けることを、同値類に分ける、って言うんだ。

「ただ、それだけ?」

 今回は、具体的な場合だったから、分かっただろうけど、もっと複雑な場面になると、当たり前ではなくなる。

 この1回の投稿の中にも、後に必要になる概念の、分かり易い具体例が、いっぱい含まれているんだ。

「私には、全然、分かり易くなかったけど。」

 それは、申し訳ない。

「次回は、どんな話?」

 ちょっと、考えさせて。

 なるべく、面白い話題を見つける。

「じゃあ、おやすみ。」

 おやすみ。