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女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。

相対性に破れたスパイ作戦(その2)

 現在2016年9月29日22時16分である。

 前回書けなかった、本文を、書いて行くよ。

「2日間、待ち遠しかったわ。」

 よし。それでは。


 相対性に破れたスパイ作戦


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1.

なうてのスパイXは鋭い眼光を黒めがねの奥にひそませ、世界最大の原子力発電所を爆破するという悪魔のような計画を実行に移すため、これから乗る相対性特急を指さしている。列車内には、発電所の前を通過する瞬間に爆発するよう巧妙にしかけた時限爆弾が隠されている。爆発の瞬間には、列車は光速の4分の3にあたる秒速22万キロあまりというその列車の最高速度に達するはずである。Xは自信満々だった。さて、そのなりゆきやいかに。


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2.

相対性特急列車に積まれた正確無比の時計を見て、Xは「すべては時間しだいだ」とつぶやく。この時計こそ、彼の運命を左右する。時計が、列車が原子力発電所を通過する予定時刻1時30分をさす瞬間に、時計のなかにしくんだ爆弾が爆発することになっている。彼のよこしまな陰謀が成功するかどうかは、その精密な時計と、信頼できる列車にかかっている。どちらかが1秒遅れると、爆弾は目標を22万キロずれて爆発してしまうのである。


3.

Xはひそかに地図をひろげ、計画を再確認した。列車の時計は線路わきの親時計(MASTER CLOCK)に合わせられる。しかし、念のため発電所近くの時計塔(STEEPLE CLOCK)の前を通過するとき再度確認するつもりである。その間、仲間の見張り(LOOKOUT)は列車を見守る。それが終わると、仲間の1人がジェット推進の逃亡用の車を飛ばしてきて、陸橋(OVERPASS)のところでXと落ち合う手はずである。列車は破滅へ向かってひた走る。


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4.

相対性特急が親時計の前を通過するとき正午の時報をうち、列車の時計と一致する。「ぴったりだ」とXはほくそえむ。この調子でいけば時限爆弾のしかけは正確だと、Xは自分にいい聞かせる。ところが、その列車の速度では相対性の効果が作用することを、Xは計算に入れていない。時計塔の奇妙な形がその手がかりだが、Xは気がつかない。さすがの策士スパイXも手こずるにちがいない。そして高い授業料を払ってそれを学ぶことだろう。


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5.

しかしふと、Xはなにかおかしなことが起こっていることに気がついた。肩幅が広くがっしりしているはずの見張りの男は、なんとひょろ長いやせ男ではないか! もっと奇妙なことには、ベンチや樹木も変な形だ。男がもっている逃走の連絡用の小型無線ラジオだけが、彼が仲間らしいと思わせる。Xは打ち合わせどおり手を振るが、男がはたして本当に仲間かどうか自信がない。この相対性との最初の出会いはXをおおいに動揺させる。


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6.

見張りの男はずんぐりタイプだが、その男もまた走る列車を見てびっくり仰天する。列車は流線型だと聞いていたにもかかわらず、市街電車をつぶしたような不格好な形だ。しかも車輪といったら! なんと楕円形ではないか。彼もまた、運動中の物体は相対性の効果で短く見えるという知識がない。しかしついに彼は列車の後部で気ちがいのように手を振るゆがんだ男を見つける。彼が親分のXだろうという直感にしたがって車であとを追う。


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7.

疑惑の目をこすりながら、Xはふたたび地図をひろげる。次の目じるしは時計塔のある町である。「正確な塔の時計を通過するとき、列車の時計を調べてみよう、それが最後だ。正確なその時計と列車の時計が合ってさえいれば爆発計画は成功だ、合っているにきまってるさ。そして列車から飛びおりるんだ。」しかし、自信家のXも、いまや不安感にとらえられている。なぜ見張りの男は奇妙に見えたのか? なにか異様なものが計画を妨げている!


8.

なにかがまちがっているという証拠は、列車が時計塔の前を通過するとき、線路ぎわにいたおばあさんが見い出した。列車の速度はこうした絵のなかでしか表現できないほど速いが、なんと彼女は目ざとく、列車の時計を読んだのである。それは12時40分をさしていた。「まあ奇妙なこと! いま1時ちょうどなのに。あたしが小さいころから時計塔は狂ったことがないから、列車の時計が遅れているに違いないわ」と彼女はひとりごとをいう。


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9.

ちょうどそのころ、Xも時計塔を目にして、ドアへ突進し、列車の時計をのぞいて見る。こちらはたしかに12時40分、時計塔は1時ちょうど。「いったいどういうことだ!」と彼はさけぶ。「時計塔がまちがっているにちがいない! すすんでいるか、ちゃんとセットされてないんだ! 駅を出るとき、列車の時計は親時計にたしかに合わせている・・・・・・。」計画はすべてあぶなくなっている。Xはたまりかねて、車掌に時計が狂っていると訴える。


10.

「時計は両方とも正しいのです」と、相対性理論をわきまえた車掌は笑って説明する。「どちらの時計も、相手の時計よりゆっくり動いているのです。塔の時計はわたしたちから見れば動いていますから、針の刻み方は列車の時計よりもおそくなります。ところが、地上の人からは反対に列車の時計がのろのろ進むように見えるのです。それに、この考え方からいえば、塔の時計と親時計は、けっして同調しません。地上のだれかにそう見えてもね。」


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11.

ここへきて、Xに残された望みはただひとつ、相対性によって生じた時間のずれを計算して時限爆弾をしかけなおすことである。Xは列車の時計が1時0分をさすとき発電所を通過することを車掌からたくみに聞き出した。それに合わせて時限装置を調整しなおさなければならない。Xは客車を抜け出して、時計のある貨車へしのび寄る。居ねむりをしている警備の男を起こさずに時計に近づければ、相対性とのたたかいも結局勝てるのである。


12.

スパイXは時計のところにたどりついた。反対側では警備の男がねむっている。時計の扉をそっと開いて爆弾のしかけに手を伸ばす。Xが時限装置をなおそうとしている気配で、目をさました警備の男がはね起きた。万事休す・・・・・・。Xは仕事をほうり出して屋根に飛び上がり、逃亡を試みた。「ちぇっ、計画は失敗だ。こうなったら吹っ飛ばされないうちに逃げるが勝ちだ」と捨てぜりふを残したXのコートに、警備の男が飛びついてぶら下がる。


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13.

Xはコートを脱ぎ捨てた。背中には用意周到にも、光速の2分の1の速度で走れるロケットがくくりつけてある。Xは「成功だ! 列車が光速の4分の3の速度で走っているから、おれは光速の4分の5の速さで走っているはずだ、どんな弾からも逃げられるぞ」と、大喜びして走りに走る。もしXが相対性をよく理解していれば、どんな物体でも絶対に光速に達することがないとわかったはずである。Xは実際には光速の11分の10で走っている。


14.

この列車の上の騒動を、鉄道保安官が目ざとく発見した。彼は列車が陸橋を通過する前にそこへかけつけた。秒速約22万キロというスピードで疾走する列車を見てからそうできるのも、この絵物語ならではのことである。彼の手にはレーザー銃が握られており、列車が下を通るときXに向かって光と同じ速さの光線を発射できる。スパイXは相対性の効果にはばまれている。彼はまだそんなことは知らないが、はたして彼は逃げきれるだろうか?


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15.

スパイXが相対性特急の屋根からロケットで飛び立とうとするところをねらって、橋の上にいる保安官と列車の上にいる警備の男が、同時にレーザー銃を発射した。保安官の銃は静止しており、警備の男の銃は列車とともに動いているが、光の速度は光源の運動とは無関係に一定であるため、銃のレーザー光線は両方とも同時にねらいに命中した。不運なことに、もっとも苛酷な相対性のレッスンを受けたXは、2度にわたって射たれたのである。


16.

陰謀発覚の急報で、列車は急ブレーキをかけて停車し、警備の男はいそいで時計のなかから爆破装置を抜き取った。時限爆弾は1時30分にしかけてあったが、相対性特急の上ではそのときちょうど1時0分だった。列車の時計は地上と相対的に遅れて動いていたからである。かくして、相対性による時間の遅れのおかげで、原子力発電所は大爆発をまぬかれ、スパイXをやっつけることもできた。スパイXは、いまや彼のうしろに横たわっている。


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17.

勇敢で有能なスパイXも、相対性理論の知識がなかったために、とらわれの身となった。ふと見ると、最高速度で走っているときは列車の長さは電柱の間隔よりずっと短かったのに(『8番の図』)、いまは同じ長さで、車輪も丸くなっている。警備の男が「そう深く考えるな。列車上ではなんでも地上と相対的におそく起こるから、君は30分だけ年が若くなったというのがせめてものなぐさめだよ」という声を聞きながら、Xはひきずられていった。





 おしまい。


 これは、これだけで、完結してるから、余計なものを、くっつけるのは、よそう。

「これを、1年生の時、お父さまに読んでもらったのね。長かったけど、面白かったわ。」

 じゃあ、おやすみ。

「おやすみ。」

 現在2016年9月30日2時39分である。おしまい。