女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

整数環

 現在2016年12月29日15時57分である。

「前回の投稿では、『整数環と有理数体』とするっていってたけど」

 うん。そうだったんだけどね。麻友さんに、もっと丁寧に説明しようと思って。

「整数は、分かるけど環って付くのは?」

 高校までの数学だと出てこないんだけど、足し算やかけ算の定義できる集合を、群(ぐん)とか環(かん)とか体(たい)と呼んで、まとめて性質を調べるんだ。

 整数は、その中で、環というものになってるんだ。

「そんなものを考えて、役に立つの?」

 いいんだよ。麻友さん。私には、何を質問しても。

 私も、同じように、疑問に思った。

「いつ?」

 高校1年生のとき。

横浜翠嵐高校のときね」

 そう。

 図書室で、『代数学辞典上』という本を見つけ、その本の巻末の『代数学小史』というのを読んでいたときだった。

「何を読んだの?」

 アーベルとガロアのことを読んだんだ。

「太郎さんの好きなアーベル」

 そう。ここで、アーベルが、5次方程式には、代数的な一般解が作れないということを証明した人だと知った。

「そこで、アーベルだと知ったということは、5次方程式が解けないということは、既に知ってたの?」

 うん。父が小学校のとき買ってくれた、ライフ人間と科学シリーズには、『数の世界』という本もあって、中学2年生のとき、これで読んで、知っていた。

 このシリーズの影響は、相対性理論だけじゃないんだ。

「お父さまは、本当に何重にも、種をまいていたのね」

 だから、京都大学を中退してきたとき、

『もう、学者になんかなれないんだから、諦めろ』

なんて父が言うのは、お門違いなんだよね。自分がまいた種なんだから。

「それで、アーベルと環とがどう関係するの?」

 『代数学辞典上』によると、5次方程式に代数的一般解がないことをアーベルが証明した。その死後、ガロアが、群論というものを発見し、どういうとき5次方程式が解けるかを判定する必要十分条件を、見つけた。と書いてあった。

「さっきの群ね。群を発見したのは、ガロアなの」

 それは、正しい理解なんだけどね、高校1年生のときの私は、そう取らなかったんだ。

「どう取ったの?」

 群論とかいうような、抽象的なものを考えたから、5次方程式が解けないなんていう結論が出てきたのだろう。私が、5次方程式の一般解というものを見つけてやろうじゃないか。と思ったわけ。

「太郎さんって、本当に勇ましいというか、向こう見ずというか・・・」

 でも、この説明ができるのは、私くらいのものだよ。

「この説明って?」

 環なんてものを考えて、役に立つの?という問いに、真正面から答えられるの。

「そこにつながってくるのか。どうなってるの?」

 横浜翠嵐高校の図書室で、5次方程式のことを知って以来、私は、5次方程式を解こうと努力し始めた。

 まず、2次方程式は、麻友さんでも解けるでしょ。

{ax^2+bx+c=0}

は、答えはどうなるんだっけ?

「もう4年も、使ってないのよ。でも、確か、

{\displaystyle x=\frac{-b\pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}}

だったような・・・」

 さっすが、特待生。忘れてるかと思った。

「小さい頃やったことって、覚えてるものね。やっぱり、早期教育って、重要なんだわ」

 だから、若いうちに大学へ行っておけって。

「分かってるけど、現実は厳しいのよ。一度、引退するってのは」

 その気持ちも分かるけど。

「それで、2次方程式が解けたら?」

 次は、3次方程式でしょ。

「3次方程式の一般解ってどんなものなの?」

 簡単には、書けない。

「どんなものかだけ、見せてよ」

 じゃあ、

{ax^3+bx^2+cx+d=0}

で、

{\displaystyle x=y-\frac{b}{3a}}

とおくと、

{y^3+py+q=0}

という、2次の項がない方程式に変形できる。

 この係数から、

{\displaystyle t_1=-\frac{q}{2}+\sqrt{\biggl(\frac{q}{2}\biggr)^2+\biggl(\frac{p}{3}\biggr)^3}}

{\displaystyle t_2=-\frac{q}{2}-\sqrt{\biggl(\frac{q}{2}\biggr)^2+\biggl(\frac{p}{3}\biggr)^3}}

という2つの数を計算し、これらの3乗根のうち、その積が、

{\displaystyle -\frac{p}{3}}

となるものを、

{\root 3 \of t_1}

{\root 3 \of t_2}

とする。

 このとき、はじめの3次方程式、

{ax^3+bx^2+cx+d=0\ \ \ (a\ne 0)}

の解は、

{\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} \displaystyle x_1=-\frac{b}{3a}+\root 3 \of t_1+\root 3 \of t_2 \\ \displaystyle x_2=-\frac{b}{3a}+\root 3 \of t_1\omega +\root 3 \of t_2\omega^2 \\ \displaystyle x_3=-\frac{b}{3a}+\root 3 \of t_1\omega^2 +\root 3 \of t_2\omega \end{array} \right. }

である。ただし、

{\displaystyle \omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}}

である。

「えっ、これが、3次方程式の一般解なの?」

 そう。

「使えないじゃない」

 うん。コンピューターで数値計算した方が、速い場合もある。

 でも、16世紀には、コンピューターなんてなかった。

「これが、見つかったのって、16世紀なの?」

 1535年頃、イタリアのニコロ・フォンタナという人が、解いたといわれている。

「じゃあ、フォンタナの解法なの?」

 本来なら、そうなるはずだけど、この解法をフォンタナから教わって、それを本に書いて出版した、カルダノの名を冠して、カルダノの解法と呼ばれている。

「どこの世界にも、有名になると得する人がいるのね」

 でも、歴史には、きちんと刻まれている。


「3次方程式が、分かったのが、高校1年生というのは、確かなの?」

 実は、私は、この頃から、新しく知ったことがあったとき、その日時を記録するようになった。

「じゃあ、その頃から、ノートがあるの?」

 最初は、B5のルーズリーフに記入していた。

「今でも、残ってるの?」

 うん。

「じゃあ、3次方程式の解法を知ったのは?」

 私のルーズリーフに、



3次方程式 一般解の理解 1987.9.18

     教職数学 代数 が引き金

             (中2に読んだタイムライフ数の世界からか)



と書いてある。

「わあ、本当に書いてある。その頃は、時間までは、書いてなかったのね。教職数学というのは?」

 これは、私が、高校の数学の先生が勉強する本を、翠嵐の図書室で読んでるということなんだね。

「レヴェルが、違いすぎるわけね」

 数学に関してはね。

「それで、3次方程式の次は、4次方程式よね」

 うん。

 ルーズリーフで、



トリチェリの実験の完全理解  1987.10.18

  ぼくらはガリレオ が引き金(物理が好きにな本も参考になった)
           (中2の時からの問題)
   針の直径1mmの10cc注射針の計算も役にたった。



回転方物体の球積の考察    1987.10.22



{\displaystyle \frac{4}{3}\pi r^3} の考察  1987.10.23



4次方程式 フェラリの解法の理解    1987.11.27

                代入する変数が1つであることに驚く。
                判別式{D}を使うとは。



とある。

「うわー。太郎さん、どんどん発見してる。私が、いなくても、大丈夫なんじゃない」

 そういう発想をしちゃだめだよ。麻友さんは、大切なんだから。

「この調子で、5次方程式も解いちゃったの?」

 そんなに、この世界は、甘くない。

 私は、5次方程式が、解けないというアーベルの証明を見たくなる。

「当然よね」

 私は、『ガロア理論入門』という本を、横浜SOGOの本屋さんで、覗いてみた。

 当時は、東京図書から出版されていたが、絶版にしてしまったために、現在では、筑摩書房から出ているこの本。

 そうしたら、第1ページに、

『体の概念は既知としている・・・』

と、書いてあったのだ。

「あっ、さっきの群と環と体のうちの体ね」

 私は、そのとき、体の定義を一応知っていたが、群や環や体などのない数学を築こうとしていたのだから、この本は許せなかった。

「買わなかったの?」

 うん。

「えーっ、じゃあ、どうやって勉強するのよ」

 本は、1冊しかないわけではない。

「他の本を探したの?ガロア理論の本。えっ、ガロア?太郎さんの愛読書ナンバー3って・・・」

 そう。そうやって見つけたのが、『数Ⅲ方式ガロアの理論』なんだ。

「その頃は、新装版ではなかったんでしょ」

 うん。

 ハードカバーだった。

 でも、新装版は、最初のところに1ページ著者の矢ヶ部巌(やかべ いわお)さんが書き加えているけど、内容は同じ。

 私のは、こんなになってしまった。

f:id:PASTORALE:20161003055430j:plain

「それで、それで、体がなくても、数学はできるの?」

 実は、この本は、群も環も体もない、高校3年生のところから始まる。

「いつ買ったの?」

 この本には、購入日は書いてないんだ。

 まだ、当時は、買った本に日付を記入する習慣は、なかったんだ。

「読み始めたのは?」

 1988年3月には、読み始めてる。

「それは?」

 翠嵐で、お別れ会をしてもらって、新幹線で広島へ向かう車中で、読み始めようとしているからなんだ。

「高校2年生になる頃、もう読み始めてるのね。予備知識は足りてたの?」

 実は、私の翠嵐での数学の先生が、授業をゆっくりやったために、数Ⅰの範囲にあったにもかかわらず、三角関数の授業をまったくしないまま、学年末を迎えてしまったんだ。

「じゃあ、みんなはどうしたの?」

 2年生になってから、

三角関数知らないっていって、すっごく困った』

って、クラスの人みんなから、ハガキをもらった。

「太郎さんは、当然困らなかったのよね」

 うん。中学2年のとき、この前ツイートした、『数学がみえてくる』という本で、読んであったし、公文でもやってたから。

「イヤミねー。数学での苦労が、ほとんどないんだもの」

 そんなこというけど、麻友さんも、今、発表になったけど、ちゃんと『夢の紅白選抜』で選ばれている。

 麻友さんが、落選することを心配するファンは、ひとりもいないし、麻友さん自身も、自分が落選する心配なんてしてない。

 他のメンバーが、選ばれるかどうかだけ気にしてる。イヤミよねー。

「私達は、そういう意味で、選ばれた人間になっちゃってるわね」

 まあ、小学校のときからの、麻友さんの努力をけなす人はいないから、これからも、その上に築いていったらいい。

「高校のときの太郎さんが、まだまだだったというのは、さっきのノートにも表れてるわね」

 あっ、気付いた?

「うん。『物理が好きにな本』は『物理が好きになる本』だし、『回転方物体の球積』は『回転放物体の求積』が、正しい。5行で3箇所も、文字を間違えてる」

 そうだね。

「それで、あんなにボロボロにして読んで、体は、必要なの?」

 あの本では、5次方程式に挑み、次々に武器を開発していく。そして、置換(ちかん)というものを定義する。実は、これが、後になって、置換群(ちかんぐん)と呼ばれるものになることが分かり、群というものは、必要なものなのだと、私にも分かった。

「だとすると、環も体も、必要というわけ?」

 うん。そういうことだ。

 私は大学に入る前の、高校2年生で、そこまで分かってた。クラスのみんなが、どうしてあいつが、と思ったのは当然だね。

「それが、原因で、統合失調症を発病するなんて・・・。でも、私に会えたのか」

 そうだよ。そういうふうに、前向きに考えなきゃ。

「今日の話は、環という概念が、必要だ、という予告だったのね」

 そう。

 今日は、まだ、『環』とはどんなものか、話してない。

「太郎さんに取っては、中学2年の頃から、こんな感じだったのね」

 そう。麻友さんにとっては、一月以内に、内容も分かる。私と同じではない。

「今日も、応援してくれて、ありがとう」

 大晦日も、健康で。

「おやすみ」

 おやすみ。

 現在2016年12月29日22時39分である。おしまい。