現在2018年7月8日7時15分である。
「朝早くから、張り切ってる~」
前置きが、長すぎると、挫折するから、一気にゼミ始めよう。
若菜にもらったスマートフォンの電源を入れて。スピーカーから声を出す設定にしよう。
結弦「おはようございます」
おはよう。
若菜「おはようございます。昨日の千葉県沖の地震は、大丈夫でしたか?」
「最大震度は、震度5弱だったけど、横浜は、震度3だったわ」
「お二人とも、おはよう」
結弦「僕たち、若いお母様や、若いお父様を、なんと呼んだらいいでしょう」
私達も、『若菜』『結弦』と呼ぶから、『お母さん』『お父さん』としてしまったら、どうだろう。
若菜「お父さん。どんな、冒険をするのですか?」
「ああ、違和感ないわね。じゃあ、『お母さん』で、いいわ」
それでは、早速なんだけどね。今回は、矢ヶ部巌(やかべ いわお)『数Ⅲ方式ガロアの理論』(現代数学社)という本を中心として、数学の冒険をしたいんだ。
結弦「『数Ⅲ』って、なんですか?」
「あっ、そうよ。結弦は、小学校6年生なのよ」
そうだったね。この本の書かれた時代の高校では、1年生、2年生、3年生、と上がるにつれて、数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲと、名前が付いていた。
『数Ⅲ方式』
とは、高校3年生の教科書レヴェルで書いてある。という意味なんだよ。
結弦「じゃあ、僕は、6年分、飛び級ですね」
若菜「私も、4年分飛び級。すごい冒険に、なりそうですね」
「太郎さんが言うには、ゼミとかゼミナールという形式で、議論したら良いということなの」
若菜・結弦「Googleで、カチャカチャ『ゼミ』ポンッ。ゼミって、専門分野のゼミナールという意味と、『代々木ゼミナール』とか『進研ゼミ』という使い方がありますけど、前者ですね?」
あっ、確かに、『早稲田ゼミナール』とかそういう使い方もあるな。そう、前者だよ。
普通、大学で、ゼミをやる場合、途中で挫折することも考えて、問題の本を図書館で借りて、前半20ページ位を、人数分コピーするのが、よくある姿だ。
だが、人間というものは、どうしても、先が知りたくなるもので、熱心な人ほど、その本自体を、購入することになる。
「太郎さん。私も、コピーでは嫌だわ」
全員分、本、用意してある。
特に、レポーターの麻友さんには、改めて新装版を、購入してある。
- 作者:矢ヶ部 巌
- 発売日: 2016/02/25
- メディア: 単行本
若菜と結弦には、私と同じ旧版のこちらを、渡しておこう。
若菜「内容は、同じなのですか?」
誤植も、そのままなんだ。だから、私達で、誤植リスト作ろう。
結弦「内容が同じなら、古い版でもいいか」
あらかじめ言っておくけど、数Ⅲ方式なんて言ってるけど、この本は高校3年生には難し過ぎるほど難しい。
ゼミという形式を取るのだから、気になったところがあったら、バンバン質問して欲しい。
分からないところだけでなく、
『これで、いいんだよね』
という発言も、歓迎する。
結弦「レポーターは、お母さんだけなの?」
実は、小学生の結弦と、中学生の若菜には、これを読むことすら、無理に思える。
それから、私が、レポーターをやらないのは、3人に、論理のトレーニングをするために、『現代論理学』という本のレポーターをするためだ。
若菜「論理学って、ロジックでしょ。2042年の世界では、面白い教材がいっぱいあって、みんな楽しんでるのよ」
昔は、大学では、論理学、心理学、倫理学、と、哲学は、単位を取るのが難しいから、科目登録しない方がいい。
『三理一哲は、取るな』
なんていう言葉も、あったほど。
時代は、変わったなあ。
『現代論理学』は、この本ね。
安井邦夫『現代論理学』(世界思想社)
「じゃあ、太郎さんの本を借りて、私が読んできたところを、レポーターとして、やってみるわ」
「太郎さん、ものすごく書き込みがあるわね。一体何回読んだの?」
2回は、通読している。
読み始めるのは、14回目かな?
結弦「うわー」
「じゃあ、はしがきから始めるわね」
*************************************
数Ⅲ方式ガロアの理論
アイデアの変遷を追って
矢ヶ部 巌
はしがき
活きてる数学を,死んだ教科書で封じ込めちゃ,助からない──この本を貫くスローガンである.
「建築が落成した後に足場が残るようでは見っともない」と,ガウスはいう.積極的に足場を見せ,どのように建築されたかを再現しよう,というのが,この本の立脚点なのである.
この本の内容は,雑誌『現代数学』で連載したものに筆を加え,新しく二つの話題を付け加えたものである.この連載は,九州大学における《一般数学》の講義が基となっている.だから,予備知識としては,高校の数Ⅱまでしか,仮定していない.
代数方程式に関する,ガロアの理論を主題とする.ガロアは,どのようにして彼の理論を建設したのか──それを演出してみよう,というものである.
3次方程式・4次方程式の根の公式にさかのぼり,ラグランジュの思想へと到達する.そこから,ルフィニ=アーベルの結果,すなわち,「5次以上の方程式には、代数的解法による,根の公式は存在しない」という歴史的な業績へと導かれる.
根の公式は存在しないが,具体的に係数を与えると,代数的に解けるものはある.そこで,複素係数方程式の代数的可解性を,どのように判定するか,が問題となる.その判定法を,ガロアは達成する.それが,ガロアの理論である.
ガロアの理論は,彼以前の方程式論の集大成の上に立つもので,とくに,ラグランジュの理論の類比として得られること,を明らかにする.
ガロアの理論は、デデキントの手を経て,現在の「ガロア理論」へと成長する.その様を,最後の話題として,取り上げている.
可能な限り,原典にあたっている.それらの論文には「足場」は残されていない.演出者が代われば,別のドラマが展開されよう.著者の意図が,どの程度まで成功しているかは,大方の批判を待つしかない.
現代数学社の方々には,大変にお世話になった.心から,お礼を申し述べたい.
1976年1月
矢ヶ部 巌
************************************
「とりあえず、読んでみたけど、太郎さんが、『封じ込めちゃ,助からない』に、『封(ふう)じ込(こ)めちゃ,助からない』と、ふりがなを振ってるわね」
読み方を辞書で確かめた字には、ふりがなを振っているんだ。
結弦「建築とか、足場って?」
「私も、何言ってるか、良く分からないのよ。数学の話なのにね」
それは、この本のメインテーマなんだよ。
読んでいくうちに、分かってくると思う。
「太郎さんが、『新しく二つの話題を付け加えた』というところに、
『どの二つだろう』
と、疑問を呈してるわね」
これは、確認が取れなかったんだ。
『現代数学』という雑誌は、1968年5月に発刊されてるんだけど、横浜市の図書館にそんな古いバックナンバーは、なかったんだ。
大学の図書館にでも行かないとね。
若菜「ルフィニ=アーベルという人が、5次以上の方程式に、代数的解法による根の公式はない、ということを、証明したの?」
「読んでいくと、分かるけど、ルフィニという人と、アーベルという人が、いたらしいの」
おっ、準備してきたな。
そういう風に、自分の疑問点や、聴衆が疑問に思いそうなところを、できる限り、調べてきて。
結弦「今日は、はしがき、だけですか?」
あまり、最初から飛ばすと、息切れするからな。そんなところで、止めておこうか。
若菜「あっ、原典って、何ですか?」
この場合、著者の矢ヶ部巌さんが、出てくるひとつひとつの定理の、最初にその定理の発見を報告した論文や本を、実際に読んでいる、ということなんだ。
若菜「それって、当たり前じゃないんですか?」
普通数学者だって、教科書などで勉強する。元の論文で勉強するなんてのは、最先端のことの場合だけだ。19世紀のガロア理論の原論文を読むなんて、矢ヶ部巌さんはやる気があるね。
若菜「そういうことですか」
結弦「次は、『現代論理学』?」
時間になっちゃった。今日は、許して。
「太郎さん。この試み、上手く行くかしらね」
継続できるかどうかに、すべてがかかっている。
じゃあ、今日は、解散。
結弦「バイバイ」
若菜「またね」
スマートフォン止めてと。
「不思議な雰囲気になったわね。どうして、こんな形で、数学の冒険思い切って始めたの?」
つい最近、『まゆゆきりん「往復書簡」』の8通目で、
(ゆきりんの)羨ましいと思うところ?
そうだなぁ。
先輩との壁はあったけど、後輩とはその壁を取り払って、オープンにしているところかな。羨ましいっていうか、わたしにはできないから。
向こうから距離を縮めてくれない後輩とは、どこまでいっても、その距離は変わらぬままで・・・・・・。
それはそれで、やりにくさを感じているんだけど、でも、こればっかりは、どうにもならない。
わたしはそういう性格なので・・・・・・。
と、書いているのに気付いた。
『太郎さんも、自分から私との距離を縮めてくれないと、距離は変わらぬままよ』
とも取れるなと思った。
それでかな。
「私、太郎さんには、近づこうとしてる」
分かってるよ。
今日は、もう寝よ。
「おやすみ、太郎さん」
おやすみ、麻友さん。
現在2018年7月9日1時54分である。おしまい。