現在2018年7月18日14時57分である。
「昨日、腕時計を買いたいと言ってきたけど」
うん。
やっぱり何でも、相談する習慣を付けようと思ってね。
「なぜ?」
私の父も、家を買うときとか、スピーカーを買うときとか、パソコン買うときとか、必ず母に相談していたんだ。
私の友達の家なんか、
『主人が勝手に、家、買っちゃって』
なんて、奥様が怒ったりしているのが当たり前の時代からのことなんだ。
「太郎さん。案外、お父様のこと、見習ってるのね」
『数Ⅲ方式ガロアの理論』を、読んでいくと、第7章で、
『何によらず,臨機応変という事が肝要だ.』
という言葉に出会う。
私は、硬直した思考を持たないように、いつもこの言葉をかみしめている。
「それで、腕時計は?」
前回と、同じ時計にした。
ただ、前回は、灰色のベルトだったんだけど、今回は、黒いベルトのモデルにした。
黒いところに金色の文字が書いてある方が、綺麗に思えたんだ。
「まったく同じ時計だったら、またベルトが切れない?」
切れてもいいんだ。1年半使えるなら、1,980円でも、高くないよ。
この時計は、電波時計で、自動的に時刻が合う。デジタルで、秒の出る時計で、金属のベルトのものは、ひとつもなかったんだ。仕方ない。
「太郎さん、秒まで書くものね」
そうなんだよ。
「秒を測れる時計って、いつ頃からあったか、知ってる?」
カルダノのころなんだよね。16世紀後半。
でも、江戸時代の『遠山の金さん』に、お鶴さんは出てくるけど、振り子時計は、出てこないね。
「鶴じゃないわよ」
おかめさんだっけ?
「怒るわよ。おたねです」
『いつかこの雨がやむ日まで』と、並行して撮影なんて、髪型とかどうするんだろう。と、思ってたら、かつらなんだってね。ヘアカラーをピンクにして、楽しんでますって、『SWEET』(8月号)読んだよ。
「黒い髪にこだわるのもいいけど、ピンクとかにする女の子の気持ちも少し分かったわ」
うん。優等生ばかりやってないで、色々楽しんでごらん。
この世界のすべての価値観を疑って、全部ゼロから築き直した方が、自信を持って生きられる。
度胸を付けたいんでしょ。
自信を持てば、度胸はつく。
「度胸を付けるには、価値観を疑って、全部築き直して、自信を持てばいいのか。太郎さんは、簡単に言うわね」
これが、私からのアイディア。生かすのは、麻友さん。
「それじゃ、『アイディアの変遷を追って』始めますか」
若菜と結弦、いらっしゃい。
若菜「私も、髪染めてみようかしら」
「あなた、中学2年生でしょう」
結弦「お母さん、中学2年の時、どんなだったの?」
あの当時、一世を風靡した、AKB48(あきはばらフォーティーエイト)というアイドルグループで、デビューしたばかりだったんだ。
結弦「わーっ、カッケー」
若菜「学校はー?」
成績も優秀だったんだよ。
若菜「アイドルやりながら、学校行ってたの?」
「そうだったのよ。だから、こうして数学の本のレポーターもできる」
結弦「ガロア理論の冒険か」
「さあ、始めるわよ」
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第1章 ガロアの遺書を読む
天正10年(1582年)6月2日は本能寺の変で,
1832年6月2日はガロア葬儀の日である.
そこで,彼の遺書をひもとく事とする.
ヘンな絵だナ.誰がかいたの,叔父さん───引っ越しの手伝いに来ている,与次郎である.静かだと思ったら,油を売っている.
広田 どれどれ,ここにサインがあるだろう.
佐々木 それはワカッてる.でも,読めない.
広田 ───ガロア.
佐々木 ガロアって,誰だい?
広田 20歳で死んだ,数学者.
佐々木 若いね.
広田 不滅の業績を残した,天才だ.
佐々木 僕と,三つしか違わない!
広田 この間,鹿児島大学へ行った.
学生食堂がある.その名前を公募したそうだ.その結果「軽食堂ガロア」となっている.
学生活動家としても,有名なのだ.数学に通じない者も,ガロアだけは知っている.
佐々木 もっと詳しく話してくれよ.
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結弦「ちょっと、ストップ。ガロアは出てきたけど、数学の話が、全然ないじゃない」
「そうなのよ。この本、7ページまで行かないと、数式が出てこないの。しかも、本当に始まるのは、第2章からなのよ」
結弦「どういう本なの?」
こういう本だから、冒険していくのが、楽しみかな? と、思うんだ。
第1章は、ドラえもんの大長編の冒険で、今まさに冒険が始まろうとしているところなんだよ。
若菜「じゃあ、出来杉君が、出てきてるあたりね」
結弦「そういうことか。出来杉君は、いつも、冒険の最初だけ出てくるんだよね。そうすると、第1章には、難しくても、後で使わないから分からなくていいことも、出てくるのかな?」
まさに、その通りなんだよ。麻友さん、分からなかったろ。
「後で出てくる、ガロアの遺書は、さっぱり分からなかったわ。でも、『専門の数学者にも,分からない事がある』というのを読んで、安心したわ」
そう。そういう読み方で、いい。
分からないことは、ゼミに出てから、みんなで考える。という姿勢も大切。
「ひとつ、調べたのよ。 の、 が、何の略か。」
おお、えらいね。
「 なのよ。しかも、フランス語での正確な発音は、エヴァリスト・ガロワみたいね」
よく調べてきたね。
実は、日本語の文献でも、ガロワって書いてある本もある。例えば、新しいのでは、
草場公邦『ガロワと方程式』(朝倉書店)
- 作者: 草場公邦
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結弦「古いのでは?」
表紙には書いてないけど、
- 作者: 高木貞治
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の中には、『「ガロワ」群』『「ガロワ」体』という言葉遣いが見られる。
若菜「カチャカチャ『高木貞治』。高木貞治(たかぎ ていじ)って、私達より150年くらい前の人なのね」
「高木貞治って、何年生まれ?」
結弦「カチャカチャ。1875年生まれだ」
若菜は、2028年生まれだから、確かに150年経ってる。
「高木貞治って、すごいの?」
うーん。私には、正確には評価できない。
でも、少なくとも、明治、大正から、昭和35年(1960年)に死ぬまで、日本の数学を牽引していたことは、紛れもない事実。
結弦「2042年の世界にも、『初等整数論講義』って、あるよ』
おお、そうか。さすがだなあ。
「これね」
- 作者: 高木貞治
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結弦「紙じゃないけど」
高木貞治は、数学上の業績は、『クロネッカー青春の夢』という数学上の予想の解決のために類体論(るいたいろん)と呼ばれるものを建設したことなどであるが、一方日本のために、レヴェルの高い数学書をいくつも書いてくれたことが、或る意味最大の功績とも言える。
若菜「『クロネッカー青春の夢』って、何ですか?」
若菜や結弦は、まだ群(ぐん)とか体(たい)というものを、習っていないことに、なってる。だが、この『数Ⅲ方式ガロアの理論』を読み終える頃、それらとお友達になっているだろう。そうなったとき、やっと意味の分かってくる、抽象代数学(ちゅうしょうだいすうがく)というものでの、クロネッカーという数学者の予想なんだ。
『虚2次数体上(きょにじすうたいじょう)のアーベル方程式は虚数乗法(きょすうじょうほう)を持つ楕円関数(だえんかんすう)の変換方程式(へんかんほうていしき)で汲(く)み尽(つ)くされる』はずだ、と、30歳の若きクロネッカーが夢を描いた。と、数学者の間では、言い伝えられている。
結弦「30歳って、若いの?」
「そうねえ、小学生から見たら、おじさんよね。でも、私が恋をしたとき、太郎さんは、43歳だったのよ」
若菜「お母さん、どうして、お父さんのこと、好きになったの?」
「悪い中年男に、だまされちゃったのよね」
中年って言えばねえ、
『クロッカワー中年の夢』
っていうのも、あるんだ。
結弦「何だそりゃー」
黒川信重(くろかわ のぶしげ)という日本の数学者の言い出したことなんだ。
若菜「分かったー。お母さん、お父さんのこういう面白い数学の話に、丸め込まれて、好きになっちゃったんでしょ」
「数学だけじゃ、なかったのよね。物理学とか分子生物学とか音楽とか。私、四面楚歌だったのよね」
よく言うよ。麻友さんのファンは、100万人もいたのに。
結弦「ファンが、100万って、すごいなー」
100万は、いいけど、本能寺の変は、調べた?
若菜「調べた? って?」
「もちろんよ。天正(てんしょう)10年6月2日は、正しい。でも、西暦では、1582年6月21日なのよね」
結弦「6月21日なの? どうして?」
特待生、答えてくれ。
「歴史をひもといてみると、何種類かの暦(こよみ)が、使われている」
「今、日本で使われている暦は、和暦の平成と、西暦。これらは、何年というところは違うけど、月日は同じよね」
若菜「ここは、平成なんだ」
あっ、お前たちの時代、元号は、何になってる?
結弦「元号なんて、もうないよ。2019年に平成天皇が退位して、平成が終わったところで、元号は、廃止されたんだ」
若菜「あまりにも、煩わしいものだったようで、一部、文房具とかで、需要があったようですが、もうやめましょうということになったようです」
「うわー、私、最後の元号生まれ」
私なんて、平成の前の昭和だ。
結弦「じゃあ、その元号の何年というところだけでなく、月日もずれてた頃が、あるんですか?」
「そうなのよ。だから、世界史をきちんと勉強してみると、色々勘違いが見つかったりするの」
そのとき、木下宙(きのした ひろし)さん、という先生が、
『レフ・トルストイの『戦争と平和』という小説の中で、ロシアとフランスの暦が違うので、同じ戦いのことを、双方が別の日付で呼んでる』
と、話してくれた。
若菜「『戦争と平和』って、映画を観たことあります。オードリー・ヘップバーン綺麗ですね」
綺麗だよなあ。
「そうなのよ。この人は、いっちばん最初にURLをツイートしてきた、相対性理論のブログの『2人の素敵な女の人』という投稿の中で、私のことを、『マイフェアレディ』のオードリー・ヘップバーンのようだ。と書いてきたのよ」
結弦「それ、お世辞じゃないと思うけどなあ」
若菜「お父さんは、その『戦争と平和』という小説を、読んだことあるのですか?」
600ページくらいの文庫本4冊だったから、大学時代に2巻の真ん中くらいまで、病気になって帰ってきてから、残りを2年くらいかけて読んだ。
まあ、普通の小説と同じように、面白いところがあちらこちらあるから、そんなに飽きない。
面白かったのは、主人公のアンドレイ公爵のお父さんが、数学が好きで、娘(アンドレイ公爵の妹)に、幾何学を教えるんだけど、マリヤ(妹)がさっぱり理解できないというくだり。
あれは、トルストイが数学で苦労してなければ、書けないと思う。
「ほら、また、いやみ。太郎さんの文章には、数学が分からなくて苦労する人の気持ちは、微塵も描かれてないものね」
結弦「2042年の世界では、数学で苦労する人は、いないよ」
若菜「それで、トルストイは、『戦争と平和』という長い小説で、何を描きたかったのですか?」
それね、良く分からないんだ。少なくとも、
『平和がいい』
というような、単純なことを言いたかったわけではなさそう。
この世界には、様々な人がいる、ということを、描きたかった。というのは、十分あり得る。
若菜「それで、いつ頃の世界を描いているんですか?」
1805年から1813年頃。
若菜「えっ、じゃあ、ガロアの頃」
そうだよ。1804年にナポレオンがフランス革命で皇帝になり、1812年ロシア遠征をするも失敗、敗退していくフランス兵を追撃して、捕らえられていたアンドレイ公爵が戻ってくるところまでの小説。
トルストイがロシア人だから、ロシア側から描かれている。
ガロアは、その中の、1811年に生まれる。激動の時代だ。
若菜「『学生活動家としても,有名』というのは、革命に参加した?」
いわゆる『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネットを倒すフランス革命ではないけど、7月革命に参加する。
若菜「小説だったら、面白いですね」
結弦「でも、本当のことなんだろ。それで、本能寺の変との関係は?」
「矢ヶ部さんが、こじつけたのよ。ガロアは1832年の6月2日に死ぬのでしょう。本能寺の変は1582年の6月2日のはずだった。実際は天正10年6月2日だけど。だから、250年後なわけよね。織田信長も、ガロアも気性の荒い人だった。他人を傷つけて、逆に殺されてしまったガロアの遺書を、ひもときましょうと」
結弦「そういうことか」
若菜「どうでもいいことかも知れませんが、なぜ、鹿児島大学の食堂なんでしょう」
ほー、面白いことに気付いたね。
矢ヶ部巌さんって、九州大学理学部数学科卒で、九州大学の数学の先生なんだ。
若菜「あっ、だから、鹿児島」
「ゆきりんが、喜ぶわ」
若菜「柏木由紀さんですね」
「あらっ、今から24年も経って、まだ結婚してないの?」
結弦「夫婦別姓は、2042年では、常識なんだよ」
そうなのか。
柏木由紀さん、幸せになってるかい?
若菜「安心してていいです。それでは、そろそろ進めませんか?」
「分かったわ。じゃあ、続き」
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広田 1811年10月25日,パリ郊外のブール・ラ・レーヌという村で生れた.
1811年といえば,江戸時代も後期だな.
佐々木 翌年の1812年は,ナポレオンがロシヤ遠征に失敗した年だね.
広田 1815年には,座頭の高利貸禁止令が出ている.
佐々木 「必殺仕掛人」時代だね.
広田 お父さんは,そこの村長をした事もある教養人だ.お母さんも,有名な法律家の家柄の出身だ.独創的で探究心のはげしい,つよい性格の人だった───と,いわれている.
ガロアの性格の一部は,この母親から受けついだものらしい.
しかし,父方にも母方にも,数学方面にすぐれた人物がいたという記録は,ないそうだ.
佐々木 突然変異だね.何時頃から,数学的才能を発揮し出したの.
広田 1823年に,パリのルイ・ル・グランという中学校に入学している.ヴイクトル・ユーゴーも,この中学の出身だ.
この時から,ガロアにとって初めての,学校生活が始まる.それまでは,お母さんの教育を受けていた.
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「この辺りで、止めましょうかね」
結弦「ガロアが、生まれた」
若菜「小学校、行かなかったのね」
実は、ここから10ページくらい、たっぷりとガロアの話が、出てくる。
結弦「気前いい」
そういうのを、ぬか喜びという。
実を言うと、この本。第1章でガロアを出した後、いつまで経っても、ガロアが、活躍しない。
大変な第8章を読んでも、群の出てくる第15章を読んでも、5次方程式の代数的非可解性の第18章を読んでも、出てこない。なんと、アーベルが第23章で力尽きて初めて、ガロア参上となる。全部で29章の本で、第24章まで主役が現れないなんて、あんまりなのだが、そこまで読者を引っ張るために、第1章で、ガロアの魅力を語ってるんだ。
結弦「わー、きたないな。そういうことなのか」
若菜「でも、第2章でも、第6章でも、第14章でも、ガロア、ガロア、って、いっぱい書いてありますけど」
それは、つりなんだよ。
結弦「コマーシャルかい」
「えっ、じゃあ、太郎さん。第24章まで読まないと、ガロア理論自体に、触れられないの?」
それどころか、最後の第29章が、『ガロア理論ここに始まる』という題になっていて、詐欺のような本なんだ。
若菜「じゃあ、ガロア理論の本じゃないんですか?」
そんなことはないんだ。
ちゃんと、ガロア理論を味わえる。
ただ、ガロア理論は、小学生や中学生にはものすごく難しいから、準備が大変なんだね。
結弦「とりあえず、冒険は、続けてみるか」
若菜「本の中でも、ナポレオンのロシア遠征が、1812年とあるわね」
結弦「1811年って、何かあったけ?」
実は、おおありなんだな。
若菜「インターネットでも、それほどのものは・・・」
麻友さんと私の10回目のデート。ベートーヴェンのピアノ三重奏曲『大公』の作曲された年なんだ。
「10回目のデートはまだしてないけど、近々やるわけね」
そう。
結弦「ガロアの生まれた年なんだ」
芸術の神様も、学問の神様も、大張りきりだね。
若菜「『大公』トリオって、素晴らしい曲ですよね。私も、コンサート行きたい」
♪誰かがここに参加しようたって
♪3人以上じゃ何も始まらない
「♪分けられないものがあること」
「♪人はいつかわかって来るものさ」
結弦「あ、お母さんとお父さん、デュエットやってる」
若菜「あー、お母さんがアイドルだったときの歌ね」
「でも、デートに子ども連れて行くって、子連れで結婚する夫婦の場合、あり得るのかもね」
秋元さん、『分けられないものがあること』って、言ってるけど、そもそも、なんで、分けなきゃなんないんだろうな?
恋愛が、愛を分かつものだという発想じゃ駄目。何人いたって恋愛は恋愛。それで、いいじゃん。
若菜「じゃあ、次のデート、私達も行っていいのね」
なんだか、賑やかなデートになりそうだな。
結弦「さっきのは、なんていう歌?」
「『最初のジャック』という歌よ」
若菜「でも、パリ郊外のブール・ラ・レーヌって、東京郊外の埼玉とか横浜というのと、同じよね。芸術の都パリか」
麻友さん。新婚旅行は、パリにしようか。
「時間かかるわねー。ルーブル美術館とか。オルセー美術館とか」
お互い、アウトドアは、苦手だから、いいんじゃない?
結弦「1815年の、『必殺仕掛人』って?」
ああ、座頭(ざとう)の高利貸禁止令(こうりかしきんしれい)か。
「1600年に関ヶ原の戦い。そして、1603年に江戸時代が、始まるわね。そして、ひとつやろうやで、1868年に明治維新を向かえるまで、続くのだけど、1815年じゃ、もう残り50年くらいで、かなり後期よね。だから、社会も腐敗して、賄賂だ賭博だとなる。こうなると、お金がどんどん必要になり、お金を持っていないものが、お金を持っているものに、借りに行くことになる。江戸時代には、目の見えない人が、『座頭(ざとう)』という位をもらって、お金を稼いでいたんだけど、目が見えないから、お金をあまり使わないでしょ。それで、余ったお金を、人に高利で貸して、ものすごく財産を築くような人も現れたの。それで、座頭を取り締まったらしいけど、私かなり調べたけど、1815年に『高利貸禁止令』というものが出たという証拠は、見つけられなかったわ」
そうだね。『高利貸禁止令』というのは、AKB48の『恋愛禁止令』と同じで、名前ばっかり有名になったけど、本当は、『恋愛禁止条例』という題の歌があっただけで、『恋愛禁止令』なんて、そんなもの明文化されてなかった、というようなものなのかも知れない。
若菜「そういう場合、どうするの?」
百科事典も、Wikipediaも、インターネット中も、探してもないんじゃ、これは、分からないこと第1号として、私達のゼミで、残しておこう。
「とにかく、世の中お金がすべての時代に、お金をもらって、世のため人のためにならない悪いやつを、斬る。という『必殺仕掛人(ひっさつしかけにん)』という時代劇が、1972年から1973年にすごく流行ったらしいのよ。『数Ⅲ方式ガロアの理論』の連載があった頃、その話で、持ちきりだったのだと思うわ」
結弦「『必殺仕掛人』って、ドラマなのか」
「そうよ。本当に、そういう人達が、いたわけではないの」
結弦「なーんだ」
若菜「ガロアのお父様、村長さんなのね」
「そこにも、ナポレオンが関係してるの」
結弦「どういうこと?」
「ガロアのお父様、ニコラ=ガブリエル・ガロアは、18世紀の人で、つまり、フランス革命気質があったのね。教養もあり、哲学を愛し、王制を強く憎んでたのね」
「ナポレオンは、ロシア遠征に失敗して、1814年失脚、エルバ島に流される。でも、1815年3月、エルバ島を脱出、パリに戻って、皇帝に返り咲く。でも、周り、敵だらけよ。よくこんなこと、できるわねぇ」
そんなこと言ったら、この高度情報化時代に、北朝鮮なんていう天然記念物みたいな国のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が生きてる方が、よっぽど信じられないよ。
「まあ、そうかも知れないけど、このナポレオンが戻ってきたとき、革命を愛するガロアのお父様は、村長に選ばれたのよね」
その通り。
「でも、ナポレオンの皇位は、百日天下で終わってしまう。正確には95日天下。ガロアのお父様は、ワーテルローの戦いで、ナポレオンが敗れ、今度はセント・ヘレナ島に流された後も、村長を続けていた。これが、後で、問題になるのよね」
よく調べてきたね。さすが、特待生。
若菜「お母様は、なんという名前だったの?」
「アデライード=マリ・ドマントよ」
結弦「ガロアは、パリの中学校へ行ってるのか」
ここなんだけど、テキストには、
ヴイクトル・ユーゴー
と、あるけど、
の方が、口の動きに合うと思う。
若菜「えっ、どこが違うの? ああ、イィ か」
「 は、ヴィクトルだわね」
結弦「じゃあ、誤植第1号としよう」
若菜「ユーゴーって、どんな人?」
『ああ無情』って、知らないかな?
若菜「ああ、あれ書いた人」
結弦「あれ、変な題だよね」
原題は、『レ・ミゼラブル』で、…。あと、麻友さんの方が、よく知ってるね。
「『レ・ミゼラブル』は、悲惨な人々というような意味なんだけど、日本語に最初に訳した黒岩涙香(くろいわ るいこう)が『噫無情(ああむじょう)』と訳したから、そう呼ばれてるの。日本でもカタカナで、『レ・ミゼラブル』とした本や、ミュージカルもあるのよ」
麻友さんは、ミュージカルの『レ・ミゼラブル』が、とても好きなんだよ。
「太郎さんは、原作、読んだことあるの?」
いや、あれも、『戦争と平和』と同じくらい長いから、手を付けてない。
「太郎さんも、同じか」
ユーゴーが、『レ・ミゼラブル』を出版したとき、売れ行きはどうかと、出版社へ、『?』という手紙を送ったらしい。それに対する返事は、『!』だった。これが、歴史上、一番短い手紙だそうだ。
「太郎さんのブログ、長すぎるのよ」
若菜「あっ、夫婦げんか始めた」
してない、してない。
「でも、かなり長くなったわね。今、何字くらい?」
10,526文字だ。
「じゃあ、今日の獲物を、リストアップして」
若菜「分からないこと第1号『1815年に、座頭の高利貸禁止令が本当にあったかどうか』(p.2 下からl.12)」
結弦「誤植第1号『◯ヴィクトル・ユーゴー、✕ヴイクトル・ユーゴー(p.2 下からl.3)」
「ページのPは、大文字じゃなくていいの?」
英文では、P.と書くと、人の名前かと思われるのかも知れない。p.と、小文字で書くようだ。
「l.は?」
何行目か、つまり、 だよ。
複数書くときは、
pp. と読む。
ll. と読む。
を使う。
「いきなりそんな、太郎さんの習慣を…。」
段々慣れるよ。
これ、便利なんだ。
若菜「獲物なんて、そんなにどんどんあるのですか?」
ないない。この本は、多くの人が読んでるから、誤植も初期に潰されてるし、このインターネットの世の中で、分からないことなんて、滅多にない。
結弦「獲物のない冒険なんて、つまんないなぁ」
まあ、この冒険の恐ろしさは、もっと進んでから、語ってくれ。
じゃあ、今日は、これで解散。
「なんか、楽しくなったわね」
やっぱり、子供達、連れてきて、良かったね。
「でも、1日かかって、2ページよ」
数学の本というのは、そういうものだよ。
小説みたいに、1日に50ページとか読めたら、ブルバキだって2年くらいで、終わるとこだけど、そんなの絶対無理。
「じゃあ、想定通りに、事が運んでるのね」
本当は、『現代論理学』もやりたかったけど、ちょっと無理だった。
「そういうことか」
麻友さん、犬飼いたいのかい?
「ああ、Q&Aのね」
でも、麻友さんは、飼ったとしても、散歩に連れて行かれないだろうからなあ。
「いや、あのQ&Aで、一番知りたかったのは、太郎さんが、犬派か猫派かということだったの」
それなら、バッサリ、私は犬派だよ。
2015年の情熱大陸で、生まれ変わったら猫になりたい、なんて言ってたけど、私は、麻友さんは犬好きだと思って、接してきた。
「えっ、どうして? どうして?」
だって、ポムポムプリン君だって、犬じゃない。
「あっ、そうか。ポムポムまゆゆさん…。」
ああ、2017年10月20日に、がんで亡くなられた美咲さんね。10月31日の卒業コンサート、席を用意してあげたんだよね。
あっ、…。
麻友さんが、最近、ポムポムプリン君の話題をしないのは、アイドルで、なくなったからでなく、ポムポムプリンって言うたんびに、美咲さんのこと思い出して、辛いからなのか。
「うっ、でも、太郎さん。人は、生き返らせられるって。そうなのよね」
ドラえもんが、麻友さんのところへ来たのは、そのためじゃない。
麻友さんに取って、飼いたい犬は、ポムポムプリン君。
それは、ポムポムまゆゆさんで、美咲さんなんだね。
「普通の犬を、飼いたかったんじゃないのよ」
ところで、今年(2018年)の2月17日にカルッツ川崎で行われた、ソロライブは、どうしてネット上に情報がほとんど見つからないの?
いや、そもそも、出会った年、2015年のクルージング・ライブも、麻友さんが、『眠っててもいいですよ』と言ったほど、盛り上がらなかったとか聞くし、私が行かないと、麻友さん、ダメダメになっちゃうということ?
大アイドルって言われてるけど、この世界、どこまで信じていいの?
「大丈夫よ。太郎さんは、自分で思っているより、常識があるわ。だから、24年前、気が狂うなんてことになったのよ。正常だったからこそ、気が狂ったのよ。このブログで、常識をひとつずつ増やしていくんでしょ。続けましょ」
どっちが、しゃべってるのか、おかしくなったけど、とりあえず、今日は、もう寝よう。
「それがいいわ。太郎さん、おやすみ」
おやすみ。
現在2018年7月21日21時28分である。おしまい。