現在2018年9月17日17時19分である。
今週の金曜日(9月21日)、清水まで会いに行くからね。
「チケットは、届いているの?」
うん。9月6日に、届いた。
「どの辺りの席?」
あの日、郵便局の本局まで、行って、発表から3時間以内に、現金で振り込んだファンは、数えるほどだろうと、麻友さんが言ってたけど、そのお陰か何か、前から2列目が取れたんだ。24番っていうから、端のほうかも知れないけど。
「えっ!1階2列24番?」
ポンッ、ポンッ。
「本当に? それ、中央の前から2番目よ。ほとんどVIP並に良い席よ」
中央なの? じゃあ、席が48番まであるってこと?
「もう、数学者は、座席が1番から並んでるものと、思っちゃってるんだから。マリナート清水の大ホールは、2列目は9番から始まるのよ」
あっ、じゃあ、本当に中央なんだね。
「太郎さん。これが、どういうことか、ちゃんと意味を考えてね」
ややこしいよねえ。
そもそも、『シティ・オブ・エンジェルズ』は、麻友さんが主演のミュージカルでは、なかった。
チケットを取ろうと思っていたら、東京公演は1時間で完売。
静岡で行われる公演のみ、麻友さんのファンクラブの特権で、座席を申し込めた。
これしか方法がないと分かって、直ちに申し込んだ。
抽選に当たると、すぐにチケット代を振り込んだ。
『アメリ』と異なり、主演でない麻友さんが、良いチケットを、私にくれようと努力しても、手は出しにくかったはずだ。
麻友さんというより、麻友さんの周りの人が、私と麻友さんを近付けてくれようと、しているのだろうか?
「本当に、太郎さんって、おめでたい人ね。他の人が、太郎さんなんかのために、良いチケット割り当ててくれるわけないでしょ」
そうなのか。
でも、そうだとしたら、麻友さんは、私のために、多大な犠牲を払っているのか?
「まあ、そんなこと、考えながら、今度の金曜日、清水へ来てよ」
東海道線で、行くんだから、時間はたっぷりある。
麻友さんのこと考えながら、楽しく行くことにするよ。
「さあ、ガロアのゼミよ」
結弦「お母さんとお父さんって、まともに見つめ合ったことすらないんだね」
若菜「どうしてそこまで、禁欲的にならなければ、ならなかったのですか?」
その理由の一つは、私が、障害者だったからだ。
若菜「障害者が、結婚できるためには、どんなハードルを越えなければならないか、という教科書も、書いていたんですか?」
「教科書を書くというほど、カッコいいことじゃないけど、太郎さんは、働けない障害者でも、真心を交わし合えば、健常者と結婚できるということの、模範をひとつ示したかったのね」
結弦「模範的な恋愛とか、障害者の結婚の模範とか、お母さんやお父さんは、模範を示さなければならない、使命があったの?」
「私は、アイドルだったわけでしょう。しかも、王道アイドルなんて言われて、アイドルになろうという女の子たちのお手本のような役を担ってた。当然、模範を示さなければならなかったわ。太郎さんは、そんな私の立場を分かってくれて、太郎さんらしく、とんでもない提案をしてくれたりして、でも、真面目に付き合ってくれた。2人とも、お手本を示すのが、そんなに嫌じゃなかったのよね」
結弦「使命と思わなくても、できたんだ」
それが、ふたりが続いた理由だよ。
禁欲的と感じないままに、ふたりはふたりなりに、恋愛を楽しんでたんだ。
若菜「幸せですね。アーベルも、こんなだったのでしょうか?」
アーベルの恋愛は、もっと貧しくて、そして、生まれてくる数学のアイディアを、なんとかしなければならないと、必死だったと思うよ。
若菜「お父さんは、アーベルのような数学者になりたいと言ってらっしゃいましたけど、アーベルのような人生は送りたくない?」
当然だよ。麻友さんを残して死んだりしたくない。
結弦「ガロアも、早世するんだよね」
今日は、その話だ。
「じゃ、始めるわよ」
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広田 1830年には,いわゆる,7月革命が起こる.これが,革命児ガロアを生む,直接の切っ掛けとなる.
共和主義の側に立ち,過激運動へと走る.
佐々木 それからは・・・
広田 それからは,放校・逮捕・再逮捕.そして,1832年5月29日に,仮釈放されたのが,最後となる.
佐々木 最後って?
広田 5月30日の早朝,決闘にたおれる.
佐々木 どうして,決闘なんかしたの.
広田 真相は,よくは,わからない.
死を予感したのか,5月29日の夜に,三通の手紙を書いている.2名の共和主義者の友人あてのもの,共和主義者全体へのアピール,そして友人のシュヴアリエあてのものと.
第一の手紙の中で,決闘を誰にも知らさない約束をしている事,恋愛事件が原因となっている事───を,したためている.
しかし,『ガロアの生涯』という伝記の作者,インフェルト氏の説では,警察の挑発となっている.
佐々木 歴史は,時間とともに,限りなく,その意味を変えるものだ.
広田 決闘の後,介添え人もなく,ひとりで路上に横たわっているのを発見される.コシン病院で,弟にみとられながら,31日午前10時に,息を引きとる.
佐々木 1832年───頼山陽他界の年だね.
広田 6月2日に,ガロアの葬儀が行われた.3000名もの共和主義者が参列して,モンパルナスの共同墓地に埋葬される.今では,そのあとはないそうだ.
佐々木 だから,彼の墓が何処にあったのかは,さだかでない.
広田 これが,ガロアのすべて───だ.
佐々木 それにしても,よく知ってるし,よく憶えてるね.さすが,歴史学者だね.
広田 叔父さんは,旧制高校時代に,数学の教師から初めて聞いた.それ以来,ヤミツキになった.
ガロアについての文献も集めた.この本(注)もその一つだ.
(注)
佐々木 さっきの遺書も載ってるの?
広田 無論.中学時代にリシャール先生に教わった,初等幾何の証明まで収録してある.シュヴアリエへの手紙は,173頁から始まる.
佐々木 数学者の遺書って,どんな事が書いてあるのかな.なんだかゾクゾクする.
叔父さん,ホンヤクしてくれよ.
広田 そうだナ.あらかた片付いたし,一息いれるか.
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若菜「こうやって、ガロアの遺書を、読み始めるのか。『数学ガール』もすごいけど、この本のつかみもすごいな」
最初のところにあったように、1830年にフランスに7月革命というものが起こる。
フランスの革命というと、前にも言った、まんが『ベルサイユのばら』に描かれた、マリー・アントワネットを処刑するいわゆるフランス革命を、頭に浮かべてしまうけど、ガロアの関わった革命は、これとは違う。
麻友さん。決闘の理由を、調べた?
「Wikipediaを読んだりしたけど、この本に書いてあるのとは全然違う説もあるみたいね」
そうなんだ。前回、加藤文元さんの話も書いたように、歴史を見直す動きが盛んだ。加藤さんの本は、これ。
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「女の人をめぐって、決闘して死んだと言われているけど、そうじゃない可能性もあるわね。太郎さんだって、あのまま京都で死んでいたら、失恋が原因で発病して死んだみたいに、言われたかも知れないけど、太郎さんを狂わせたのは、他の原因がいくつもあるんですものね」
そうだね。
それから、細かいことだけど、気付いたかな?
『シュヴアリエ』
と
『シュヴァリエ』
結弦「どこが違うの? あっ、アァ か」
若菜「えっ、どこにあるの?」
今日のテキストでは、大きい『ア』なんだ。
ところが、テキストの7ページのページ番号のところの見出しでは、小さい『ァ』になってる。
「良くそんなところまで、気付くわね」
それは、私が、この本を、全文写ししているからなんだ。
「書いていれば、大きいか小さいか、気になるわね」
この場合、他に文献も調べたけど、小さい『ァ』の方が、良さそうだと分かった。
インフェルトの本は、調べた?
「もちろん。
レオポルト・インフェルト『ガロアの生涯―神々の愛でし人』(日本評論社)
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だったわ」
インフェルトって、アインシュタインの助手だった人なんだ。
若菜「そうなんですか」
「後、私が以前、まだ分かってなくて、6月2日にガロアが死ぬのでしょう、と言ってしまったけど、6月2日は、ガロア葬儀の日だったわね」
うん、気付いたとき、言ってくれると助かる。
結弦「カチャカチャ。頼山陽が1832年に死んでいるのは、本当のようだ」
じゃあ、次回から、ガロアの遺書を読み始めよう。
結弦「誤植第3号第4号『◯シュヴァリエ,✕シュヴアリエ』(p.5 l.15)(p.6 l.5)
それでは、解散。
「太郎さん。ガロア、続いてるわね」
なんとか、続けようと思う。
それと、金曜日、麻友さんをしっかり見てくる。
「じゃ、おやすみ」
おやすみ。
現在2018年9月18日0時09分である。おしまい。