現在2016年12月29日15時57分である。
「前回の投稿では、『整数環と有理数体』とするっていってたけど」
うん。そうだったんだけどね。麻友さんに、もっと丁寧に説明しようと思って。
「整数は、分かるけど環って付くのは?」
高校までの数学だと出てこないんだけど、足し算やかけ算の定義できる集合を、群(ぐん)とか環(かん)とか体(たい)と呼んで、まとめて性質を調べるんだ。
整数は、その中で、環というものになってるんだ。
「そんなものを考えて、役に立つの?」
いいんだよ。麻友さん。私には、何を質問しても。
私も、同じように、疑問に思った。
「いつ?」
高校1年生のとき。
「横浜翠嵐高校のときね」
そう。
図書室で、『代数学辞典上』という本を見つけ、その本の巻末の『代数学小史』というのを読んでいたときだった。
「何を読んだの?」
アーベルとガロアのことを読んだんだ。
「太郎さんの好きなアーベル」
そう。ここで、アーベルが、5次方程式には、代数的な一般解が作れないということを証明した人だと知った。
「そこで、アーベルだと知ったということは、5次方程式が解けないということは、既に知ってたの?」
うん。父が小学校のとき買ってくれた、ライフ人間と科学シリーズには、『数の世界』という本もあって、中学2年生のとき、これで読んで、知っていた。
このシリーズの影響は、相対性理論だけじゃないんだ。
「お父さまは、本当に何重にも、種をまいていたのね」
だから、京都大学を中退してきたとき、
『もう、学者になんかなれないんだから、諦めろ』
なんて父が言うのは、お門違いなんだよね。自分がまいた種なんだから。
「それで、アーベルと環とがどう関係するの?」
『代数学辞典上』によると、5次方程式に代数的一般解がないことをアーベルが証明した。その死後、ガロアが、群論というものを発見し、どういうとき5次方程式が解けるかを判定する必要十分条件を、見つけた。と書いてあった。
「さっきの群ね。群を発見したのは、ガロアなの」
それは、正しい理解なんだけどね、高校1年生のときの私は、そう取らなかったんだ。
「どう取ったの?」
群論とかいうような、抽象的なものを考えたから、5次方程式が解けないなんていう結論が出てきたのだろう。私が、5次方程式の一般解というものを見つけてやろうじゃないか。と思ったわけ。
「太郎さんって、本当に勇ましいというか、向こう見ずというか・・・」
でも、この説明ができるのは、私くらいのものだよ。
「この説明って?」
環なんてものを考えて、役に立つの?という問いに、真正面から答えられるの。
「そこにつながってくるのか。どうなってるの?」
横浜翠嵐高校の図書室で、5次方程式のことを知って以来、私は、5次方程式を解こうと努力し始めた。
まず、2次方程式は、麻友さんでも解けるでしょ。
は、答えはどうなるんだっけ?
「もう4年も、使ってないのよ。でも、確か、
だったような・・・」
さっすが、特待生。忘れてるかと思った。
「小さい頃やったことって、覚えてるものね。やっぱり、早期教育って、重要なんだわ」
だから、若いうちに大学へ行っておけって。
「分かってるけど、現実は厳しいのよ。一度、引退するってのは」
その気持ちも分かるけど。
「それで、2次方程式が解けたら?」
次は、3次方程式でしょ。
「3次方程式の一般解ってどんなものなの?」
簡単には、書けない。
「どんなものかだけ、見せてよ」
じゃあ、
で、
とおくと、
という、2次の項がない方程式に変形できる。
この係数から、
という2つの数を計算し、これらの3乗根のうち、その積が、
となるものを、
とする。
このとき、はじめの3次方程式、
の解は、
である。ただし、
である。
「えっ、これが、3次方程式の一般解なの?」
そう。
「使えないじゃない」
うん。コンピューターで数値計算した方が、速い場合もある。
でも、16世紀には、コンピューターなんてなかった。
「これが、見つかったのって、16世紀なの?」
1535年頃、イタリアのニコロ・フォンタナという人が、解いたといわれている。
「じゃあ、フォンタナの解法なの?」
本来なら、そうなるはずだけど、この解法をフォンタナから教わって、それを本に書いて出版した、カルダノの名を冠して、カルダノの解法と呼ばれている。
「どこの世界にも、有名になると得する人がいるのね」
でも、歴史には、きちんと刻まれている。
「3次方程式が、分かったのが、高校1年生というのは、確かなの?」
実は、私は、この頃から、新しく知ったことがあったとき、その日時を記録するようになった。
「じゃあ、その頃から、ノートがあるの?」
最初は、B5のルーズリーフに記入していた。
「今でも、残ってるの?」
うん。
「じゃあ、3次方程式の解法を知ったのは?」
私のルーズリーフに、
3次方程式 一般解の理解 1987.9.18
教職数学 代数 が引き金
(中2に読んだタイムライフ数の世界からか)
と書いてある。
「わあ、本当に書いてある。その頃は、時間までは、書いてなかったのね。教職数学というのは?」
これは、私が、高校の数学の先生が勉強する本を、翠嵐の図書室で読んでるということなんだね。
「レヴェルが、違いすぎるわけね」
数学に関してはね。
「それで、3次方程式の次は、4次方程式よね」
うん。
ルーズリーフで、
トリチェリの実験の完全理解 1987.10.18
ぼくらはガリレオ が引き金(物理が好きにな本も参考になった)
(中2の時からの問題)
針の直径1mmの10cc注射針の計算も役にたった。
回転方物体の球積の考察 1987.10.22
の考察 1987.10.23
4次方程式 フェラリの解法の理解 1987.11.27
代入する変数が1つであることに驚く。
判別式を使うとは。
とある。
「うわー。太郎さん、どんどん発見してる。私が、いなくても、大丈夫なんじゃない」
そういう発想をしちゃだめだよ。麻友さんは、大切なんだから。
「この調子で、5次方程式も解いちゃったの?」
そんなに、この世界は、甘くない。
私は、5次方程式が、解けないというアーベルの証明を見たくなる。
「当然よね」
私は、『ガロア理論入門』という本を、横浜SOGOの本屋さんで、覗いてみた。
当時は、東京図書から出版されていたが、絶版にしてしまったために、現在では、筑摩書房から出ているこの本。
そうしたら、第1ページに、
『体の概念は既知としている・・・』
と、書いてあったのだ。
「あっ、さっきの群と環と体のうちの体ね」
私は、そのとき、体の定義を一応知っていたが、群や環や体などのない数学を築こうとしていたのだから、この本は許せなかった。
「買わなかったの?」
うん。
「えーっ、じゃあ、どうやって勉強するのよ」
本は、1冊しかないわけではない。
「他の本を探したの?ガロア理論の本。えっ、ガロア?太郎さんの愛読書ナンバー3って・・・」
そう。そうやって見つけたのが、『数Ⅲ方式ガロアの理論』なんだ。
「その頃は、新装版ではなかったんでしょ」
うん。
ハードカバーだった。
でも、新装版は、最初のところに1ページ著者の矢ヶ部巌(やかべ いわお)さんが書き加えているけど、内容は同じ。
私のは、こんなになってしまった。
「それで、それで、体がなくても、数学はできるの?」
実は、この本は、群も環も体もない、高校3年生のところから始まる。
「いつ買ったの?」
この本には、購入日は書いてないんだ。
まだ、当時は、買った本に日付を記入する習慣は、なかったんだ。
「読み始めたのは?」
1988年3月には、読み始めてる。
「それは?」
翠嵐で、お別れ会をしてもらって、新幹線で広島へ向かう車中で、読み始めようとしているからなんだ。
「高校2年生になる頃、もう読み始めてるのね。予備知識は足りてたの?」
実は、私の翠嵐での数学の先生が、授業をゆっくりやったために、数Ⅰの範囲にあったにもかかわらず、三角関数の授業をまったくしないまま、学年末を迎えてしまったんだ。
「じゃあ、みんなはどうしたの?」
2年生になってから、
『三角関数知らないっていって、すっごく困った』
って、クラスの人みんなから、ハガキをもらった。
「太郎さんは、当然困らなかったのよね」
うん。中学2年のとき、この前ツイートした、『数学がみえてくる』という本で、読んであったし、公文でもやってたから。
「イヤミねー。数学での苦労が、ほとんどないんだもの」
そんなこというけど、麻友さんも、今、発表になったけど、ちゃんと『夢の紅白選抜』で選ばれている。
麻友さんが、落選することを心配するファンは、ひとりもいないし、麻友さん自身も、自分が落選する心配なんてしてない。
他のメンバーが、選ばれるかどうかだけ気にしてる。イヤミよねー。
「私達は、そういう意味で、選ばれた人間になっちゃってるわね」
まあ、小学校のときからの、麻友さんの努力をけなす人はいないから、これからも、その上に築いていったらいい。
「高校のときの太郎さんが、まだまだだったというのは、さっきのノートにも表れてるわね」
あっ、気付いた?
「うん。『物理が好きにな本』は『物理が好きになる本』だし、『回転方物体の球積』は『回転放物体の求積』が、正しい。5行で3箇所も、文字を間違えてる」
そうだね。
「それで、あんなにボロボロにして読んで、体は、必要なの?」
あの本では、5次方程式に挑み、次々に武器を開発していく。そして、置換(ちかん)というものを定義する。実は、これが、後になって、置換群(ちかんぐん)と呼ばれるものになることが分かり、群というものは、必要なものなのだと、私にも分かった。
「だとすると、環も体も、必要というわけ?」
うん。そういうことだ。
私は大学に入る前の、高校2年生で、そこまで分かってた。クラスのみんなが、どうしてあいつが、と思ったのは当然だね。
「それが、原因で、統合失調症を発病するなんて・・・。でも、私に会えたのか」
そうだよ。そういうふうに、前向きに考えなきゃ。
「今日の話は、環という概念が、必要だ、という予告だったのね」
そう。
今日は、まだ、『環』とはどんなものか、話してない。
「太郎さんに取っては、中学2年の頃から、こんな感じだったのね」
そう。麻友さんにとっては、一月以内に、内容も分かる。私と同じではない。
「今日も、応援してくれて、ありがとう」
大晦日も、健康で。
「おやすみ」
おやすみ。
現在2016年12月29日22時39分である。おしまい。