現在2022年7月5日19時43分である。(この投稿は、ほぼ2934文字)
麻友「一体、何の話?」
私「数学の試験の答案でとか、数学の本での説明を、読んだり書いたりするとき、私の中で、今、どのレヴェルで、書いているな、読んでいるな、と、いつも、意識している」
若菜「それで?」
私「そのレヴェルの主なものを挙げると、まず、難しさ6.これは、数学の論文レヴェル。有名な例で、20世紀の代表的な数学者のひとり、ダフィット・ヒルベルトは、論文を書いたんだけど、何年も経って、他の人が分からないところがあって、質問したのだけど、他の分野に移ってしまっていたので、自分が書いた論文なんだけど、なぜそう書いたか、想い出せなかったそうだ。永田雅宜さんの『可換体論』も、このレヴェルだ」
結弦「誰だったら、読めるの?」
私「若い、バリバリの俊英だったら、読める」
若菜「なるほど」
私「次、難しさ5.これは、丁寧にノートを取りながら、読んで行けば、数学科の優秀な学生なら、ギャップが埋められて、意味が分かるレヴェル。藤﨑源二郎さんの『体とガロア理論』や、浅野啓三さんと永尾汎さんの『群論』のレヴェル。これらは、最近の本では、桂利行さんの『群と環』『環上の加群』『体とガロア理論』の三部作が、挙げられる。東京大学出版会の本で、十分歯ごたえがある。
結弦「お父さんにも、読めるということ?」
私「私に辛うじて読めるレヴェルだ」
麻友「えっ、ブルバキは、入らないの?」
私「ブルバキは、むしろ、もうちょっと易しいんだ」
若菜「お父さんが、ブルバキを、大事にするのは、それでなのね」
私「さて、難しさ4.論理的なギャップが、ほとんどなく、もしギャップがあっても、具体例で、橋渡ししていたりして、理解できる本や文献のレヴェル。松本幸夫さんの『多様体の基礎』や、杉浦光夫さんの『解析入門Ⅰ・Ⅱ』など。それから、ブルバキ『数学原論』も、含まれる。これらが、一応真面目に、数学や物理学を、勉強する人が、読む本」
結弦「オーッ、杉浦さんの本は、このレヴェル。僕達は、今、レヴェル何なんだろうね?」
私「それでは、難しさ3.これは、私が、読む人が理解できるよう、気を付けながら、数学の証明を書くレヴェルで、私自身が、『この人、同じレヴェルで書いてるな』と思うのは、横田一郎さんの『群と位相』、『群と表現』の2冊。物理の本だが、高橋康さんの『量子力学を学ぶための解析力学入門』も、十分丁寧に書いてある。こういう本で、足腰を鍛えてから、難しさ4.の本に挑戦するのでも良い」
若菜「お父さんが、このレヴェルで証明書くのが、通常ということは、お父さんは、私達の前で、かなり気を遣って、書いているということですか?」
私「もちろんだよ。麻友さん達の前で、ギャップがあったら、警告するとか、少しでも初等的に話すとか、気を遣っている」
私「そして、難しさ2.ノートを取らなくても、どんどん読んで行かれるレヴェル。このレヴェルの本が、結構あるのに、それすら読めない人がいるのは、嘆かわしい。結城浩さんの『数学ガール』が、代表的な本だよ」
結弦「僕達、これも、ひとりでは、読めないものなあ」
若菜「お父さんみたいに、大学で勉強した後で、腕試しでこれを読める人が、羨ましいです」
麻友「そうすると、難しさ1.は、どうなるの?」
私「最後に、難しさ1.これは、世の中の大半を占める、高校を文系で卒業した人が、読めるレヴェルの数学的叙述。つまり、麻友さんが分かるレヴェルだよ」
麻友「ああ、そうかあ。一昨日、『イプシロンデルタ』を、読もうか、とか言ってたじゃない。あの本は、どのレヴェル?」
私「私が、高校2年で読んだとは言っても、難しさ1.では、もちろんない。でも、私は、高校時代を通じて、数学書を、ノートを取りながら、読んだりしなかった。この本も、同様だ。だから、難しさ2.だと思う。『現状に甘んじず、上を目指して、進んで行く』麻友さんは、挑戦してみるべきではないかい?」
若菜「お父さんの証明を書くレヴェルという、難しさ3.というのは、お父さんは、いつも、そうやって、ノートを、書いているのですか?」
私「試験中ではないから、時間制限はない。だから、よっぽど焦っているときでもなければ、その丁寧さで、書いている。『ここ、分からない』とか、『ギャップが有る』という、警告も、書くようにしている。例えば、こんなことも、書いてある。
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読者注)
素通りしてしまったが、本文p.34下からl.6の、
“ 測度有限な集合”
という言葉は未定義である.ここで、定義を与えておこう.
定義 測度有限
測度空間 において、 が 測度有限とは、 でないことと定義する.
定義終)
これで安心。
注終)
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伊藤清三『ルベーグ積分入門』の古いノート、『ルベーグ積分入門3』の134ページ)
2012年3月28日のノートでのことだ」
麻友「私に会う前。私を意識してなくても、ギャップを埋めてる。太郎さんに取っては、当たり前なんだ」
若菜「その頃だと、手が震えていたりするんですか?」
私「このノート、そんな箇所ばっかり。2014年に入院して、やっと、世界が、元に戻った」
麻友「そして、私に会ったのね。会ったばかりの頃みたいな、飛ぶ鳥を落とす勢いはなくなったけど、普通になった太郎さんも好きよ」
若菜「引き際を、心得るのも大切です。これで、今日は、終わりましょう」
結弦「6つのレヴェルの話、面白かったよ」
麻友「じゃあ、おやすみ」
若菜・結弦「おやすみなさーい」
私「おやすみ」
現在2022年7月5日22時04分である。おしまい。