女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

整数環(その5)

 現在2018年4月7日15時06分である。

 麻友さん、昨日のダブミーのブログ読んだよ。

「私、忙しくて、本当に、余裕ないの」

 『アメリ』の準備で、大変なのは、分かる。

 5月から6月にかけて、渡辺麻友の名が、世の中に通るかどうかの勝負所なのは、確かだ。

 私からのオファーに、応えるかどうかは、『アメリ』が、完全に終わってから、返事をくれるので、もちろんいい。

「2カ月先まで、待ってくれる?」

 今まで、3年間待ったんだよ、2カ月くらい、どうってことないよ。

「あっ、3年前の今日ね」

 そう。私が、クロード・モネの『日傘をさす女』の前に、麻友さんを立たせて、写真を撮ったのを、ブログに張り、『ファンになった理由を書きました』と、URLをツイートしたのは、2015年4月7日21時36分。

「3年かー。そういえば、太郎さんが、冷蔵庫に2本だけ、取ってあるなんて書いたから、本当に、ワンダエクストショットなくなっちゃったわね」

 あれは、アサヒ飲料に、無理させないように、宣言したんだよね。

「無理って?」

 売れないもの、作り続けさせちゃ、悪いと思って。

「ほんと、正直っていうか、太郎さんは、自分が損させられることなんて、ないと思ってるのね」

 麻友さんの1月27日のフジテレビネクストの番組で、根本宗子(ねもと しゅうこ)さんとの対談で、

『すっごい運がいい人の役で、運が余りにも良すぎて、なんか毎回勧誘とかにあって、なんかお金とか払っちゃうけど、運がいいから絶対戻ってきて、悪いことにあったと思ってない。というような、コメディも、やってみて欲しい』

って、言われてたよね。

「太郎さん。本当に、スカパーに、お試しで入って、見てくれてたのね」

 スカパーの番組は、録画規制がかかっているから、ダビング10が、できないのね。だから、『麻友』のブルーレイ1枚にだけ、きちんと録画してある。

「私、あの取材の時、『お姫様の役ができる人少ないですから』なんて言われて、舞い上がっちゃって・・・」

 私、あの時、ふたりを見比べていて、麻友さんものすごく、手を振り回すなぁ、と気付いた。

「あっ、身振り手振りで話すってこと?」

 そう。

 実は、私も、そうなんだ。

 数学の話し始めると、手を振り回す。

 女の人と、男の人、ってことで、共通点って、なかなかなかったんだけど、やっとひとつ見つけたな。

「とんでもないこと、言い出すわね。それにしても、全部、プラスに考えるのね」


 今日は、マイナスの話。つまり、引き算の話をしようと思ってたんだけどね。

「『安浪京子VS松田太郎』の3回目ね。引き算で、どんな話ができるの?」

の本で、例えば、{8-6=} ならば、簡単だよね。

「もちろん、{8-6=2} よね」

 そう。

 これを、間違えるようじゃ、先に進めない。

 次に、{18-6=} というのは、どうだろう。

「これも、{18-6=12} となるのは、常識ね」

 うん。

 そこで、ちょっと、変化球。

 {12-7=}

というのは?

「ああ、繰り下がりの計算ね。でも、12から7を引いたら、5というのは、当たり前じゃないかしら?」

 そうか、特待生は、ここまで、常識になっているか。

 じゃあ、

 {51-3=}

としてみたら?

「段々、変化が、激しくなってくるわね。まず、51の1のくらいが、1で、3より小さいから、引けないのよね」

「こういう場合、10のくらいから、10をひとつ、借りてくるのよね。そうして、{10+1=11} から、{3} を引く」

{11-3=8} だから、1のくらいに、8がたつ。そして、10をひとつ借りてきているから、10のくらいは、4になる」

「よって、{51-3=48} となる」

 模範解答だね。

「太郎さん、これにいちゃもんつける気?」

 いちゃもんつけるつもり。

「えー、こんなのに、どうやって?」

 私が、小学校3年生の12月から、公文に通っていた、という話は、したよね。

「そうだったわね。お父様が、『たのしい算数』のクイズを続けるのが、困難になって、専門家に任せるといったのよね」

 そう。

 公文というのは、ひたすら問題を解いて、計算を空気のようにできるようになるのが、目標。

「空気のように?」

 数学の女王と、私達が呼んでいるオイラーは、

オイラーは、人が呼吸するように、またワシが風に身を任せるように、はた目には何の苦労もなく計算をした』

と言われた人で、公文もこれを、目指す。

「でも、太郎さんは、ちっとも計算が、速くならなかったのよね」

 その理由を、解明するんだ。

「理由?」

 数学の計算で、{51-3=48} のような計算をしなければならないことは、非常に多い。

 私は、公文で、このような計算をしているうちに、ある法則に気付いた。

「えっ、どんな?」

 1のくらいの1と3を見たとき、そこから8を思いつく、法則。

「全部の組み合わせ、この場合だったら、10かける10で、100通り、全部暗記したの?」

 オイラーなら、やったかも知れないけど、私は、覚えることは極力少なくが、モットーだ。

「じゃあ、どうするの?」

 51の1のくらいの1から、3を引こうとするから、難しいんだ。

 私は、3から1を引いた。

「そんなことして、意味があるの?」

 3から1を引くと、2だ。

「当たり前じゃない」

 あわてるな。この2を、10から引いてごらん。

「えっ、{10-2=8} だけど」

 その8、どこかで見なかった?

「エッ、計算結果の48の8。ウソッ、偶然よ」

 私も、最初、偶然だと思った。

 だが、公文で、引き算をするたびに、これを、試していて、1度として、失敗したことはない。

「ちょっと待って。じゃあ、

 352
- 89
____

というのは、どうやるの?」

 まず、9から2を引く。7だ。これを、10から引く。すると、3だ。だから、1のくらいは、3だ。

 352
- 89
____
   3

 次は、8から5を引きたくなるだろうが、私は、繰り上がりや繰り下がりの1は、書かない主義だった。

 2より大きな9を引いたのだから、5からひとつ10が引かれていることを思い出し、10のくらいは4から8を引く。

 さっきの法則を使い、まず、8から4を引く。4だ。これを、10から引く。すると、6だ。だから、10のくらいは、6だ。

 352
- 89
____
  63

 10のくらいの計算で、3からひとつ100が引かれていることを思い出し、100のくらいは、2だと分かる。

 352
- 89
____
 263

「うわー。何よこれ。太郎さん、こんな必殺技、使ってるの? 太郎さん、引き算、ものすごく速いんでしょ」

 小学生の、まだ引き算、習いたての子よりは、速いけど、普通の人よりのろいよ。

「どうして?」

 私、引き算するとき、上より下の方が大きいときは、必ずこの方法使うけど、使った後、本当に大丈夫かな? って、普通の人と同じように上の桁から10借りてきてという計算をしてみて、ああ合ってるな、と確認するから、逆に他の人よりのろい。

「どうして、そんな、もったいないことするの? 太郎さん、本当なら、ものすごく計算速いはずなのに」

 正確さのためだよ。

「正確さ?」

 二通りの方法で、同じ答えが出たのなら、信頼できる。

「そんな、・・・。太郎さんは、実際には、どういう風に唱えてるの?」

 声には出さないけど、

 352
- 89
____
 263

の場合だったら、

『9 2 7 3 で、3』

『8 4 4 6 で、6』

というように、口ずさんでいる。

「『9 2 7 3』というのは?」

 『9 2』と、下から、読み上げて、9から2を引く。そうすると、7だよね。

 次に、10から7を引くところを思い浮かべて、3というわけ。

 口ずさんでるとおり書くと、

『きゅう、にー、なな、さん』

と言って、3を、解答欄に書く。上の桁も同じ。

「ちょっと待って、こういう場合どうするの?

 470
-  3
____

計算できる?」

 大丈夫だよ。

『3 0 3 7』とやって、1のくらいは7。上の桁から10引くことだけ、忘れなきゃいいんだ。

「じゃあ、

 108
-  6
____

は?」

 あはは、ひっかけようというの?

 上の方が、下より大きいときは、普通に、引き算していいんだよ。

 108
-  6
____
 102

 臨機応変にね。

「ウウッ、どうして、みんな太郎さんのような方法に気付かなかったのかしら?」

 気付いてるよ。

「いつもの太郎さんの、計算の得意な数学者は気付いてた?」

 いや、そういうことじゃなくて、そろばんって、これを利用して、計算してるんだよ。

「そろばん? 太郎さん、そろばんできるの?」

 いや、できないけどね。以前、お茶の水女子大卒で、東京大学大学院の工学部の修士にいた、さっちゃんという人に、この話をしたら、その人のお母様が、そろばんで同じことやってるって、教わったんだ。

「さっちゃん? 幼稚園の時の?」

 いや、別な人だよ。

 麻友さんの精神衛生上言っておくけど、ガールフレンドじゃないからね。その人には、彼氏がいたし。

「ほんっと、太郎さんの女の人好きは、どうしようもないわねぇ。それで、いつもの流れだと、この後、集合論とか出てくるんだけど」


 麻友さんと私は、自然数というものを作って、次に整数を作ったのだった。

「『1から始める数学』の最後のところね。あそこは、きちんと、定義をしなかった」

 少し、復習しようか。

「まず、座標を使い始めたのよね」

 そう。

 じゃあ、座標の定義から始めようか。



 定義 26 座標

 {A,B} を自然数とするとき、

 {(A,B)}

のように、括弧(かっこ)でくくって、2つの自然数を書いたものを、自然数に値(あたい)をとる座標(ざひょう)という。

 {(A,B)=(C,D)}

の時には、

 {A=C かつ B=D}

が成り立っているものと、約束する。

 定義 26 終わり



「『成り立っているものと、約束する』というのは?」

 つまり、{A=C かつ B=D} の場合以外は、{(A,B)=(C,D)} と書いてはいけないということだよ。

「なんか、当たり前ね」

 当たり前と思うことは、覚えなくていい。

「次は、傾き1の直線よね」

 それを、やるためには、どうしても、自然数全部の集合を、とらえなくてはならない。

自然数全部の集合って、考えちゃいけないの?」

 いけないかどうか、というより、問題なのは、自然数全部の集まりが、集合になるかという問題なんだ。

「そりゃ、集まりなんだから、集合でしょ」

 大学へ入学したての頃は、私もそうだった。

 若々しくて、いいねぇ。

 じゃあ、とりあえず、自然数全部の集まりは、集合だ。



 公理 27

 自然数全部の集まり、

{\mathbb{N}=\{X|\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) \} }

は、集合である。

 公理 27 終わり




「公理にしちゃうの?」

 だって、証明できないだろ。

「そういうものかしら?」

 私達は、とりあえず今、これが成り立っていることが、どうしても必要だが、証明はさしあたってできない、というとき、それをとりあえず、公理として取り入れ、後でそれが定理として証明できれば、その公理は、必要なかったとして、取り除くという立場を取る。

「で、なんか自然数なら、natural number で、{\mathbb{N}} っていうのも分かるけど、右辺のだらだらっというのは、何?」

 これ、自然数の集合のきちんとした表し方なんだ。

「どう読むの?」

 まず、

{\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) }

を、切り出し、さらに、その括弧の中を見ると、

{1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)}

と、なっている。

{\wedge}

というのは、『かつ』という記号だ。だから、{1 \in Y} かつ {\forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)} が、成り立つというわけだ。

「つまり、{Y} には、{1} が入っていて、全部の {Z} について、{Z \in Y} ならば、{Z+1 \in Y} が、成り立つということ」

「あっ、そうか。1が入ってて、1が入ってれば、1+1も入ってて、1+1が入ってれば、1+1+1も入ってて、というように、自然数全部が、入ってることになるのか」

 実は、細工はそれだけではない。

「他に何か?」

 {Y} についての条件は、 {\forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)} だから、いきなり誰かが、{Y} に、{\pi} も加えろといって、加えた場合、{\{\pi ,\pi+1,\pi+2,\pi+3, \cdots \}} というのも加えると、条件を満たしてしまう。

「あっ、そんな無茶な」

 無茶でも、可能だ。

「でも、自然数に、そんなのが入ると困る」

 そこで、

{\mathbb{N}=\{X|\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) \} }

では、外側に、{\forall Y (\cdots  \Rightarrow X \in Y)} というのがある。

 {\mathbb{N}} の元、{X} というのは、1を含んでいて、その中の元に1足した元を含んでいるような集合を、{Y} とするとき、すべての {Y} に含まれているような元だけである。

となる。

「つまり、全部の、{Y} の可能性の共通な部分ということかしら?」

 そういうことだね。

 集合論の、『{\forall} (エニ)』や、『{\in} (要素)』や、『{\Rightarrow} (ならば)』など、良く覚えていたね。

「太郎さん、手加減しないものね」


 さて、自然数の集合を考えることで、傾き1の直線上の点を、表したいのだった。

 麻友さんには、もうできるよ。

「じゃあ、例えば、{(3,1)}{(4,2)}{(5,3)},・・・、という線だったら」

{\{(X+2,X)|X \in \mathbb{N}\}} という感じかしら」

 素晴らしいねぇ。

「私達は、この集合を、整数の2として、扱うのよね」

 そうだ。

 一気に、定義を書くと、



 定義 28 正の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X+n,X)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数の {n} と呼び、混乱の恐れのないときは、これも、{n} と書く。

 定義 28 終わり



「一応、聞いておきたいんだけど、集合を表す、{\{\ |\cdots \} } というのは、{\cdots} の部分に条件を書いて、その条件を満たす、{X} とかなんかの集合という意味よね」

 良く分かっているね。

 条件が、具体的なときは、分かるけど、抽象的になると、分からなくなる、という声は、よく耳にする。

 例えば、

{\{x|3 \leqq x \leqq 5\} }

という集合は、3以上5以下の数の集合だ。

「それは、自然数で、考えてるの? それとも実数?」

 おー、特待生の冴え、バッチリじゃない。

 実は、上の書き方では、自然数なのか実数なのか、はたまた有理数なのか、曖昧なんだ。

 実数の場合には、正確には、

{ \{ x \in \mathbb{R} | 3 \leqq x \leqq 5 \} }

とするか、

{ \{x| x \in \mathbb{R} \wedge (3 \leqq x \leqq 5) \} }

としなければ、ならない。

「正解が、2つあったりして、いいの?」

 数学も、このレヴェルになると、正解が何通りもある、なんてのが、ざらにある。

 あまり、神経質にならないで。


「ところで、座標と言っているのに、前回のように、座標が表す平面が、出てこないわね」

 あっ、そうだね。実は、あの平面に相当するのは、座標 {(A,B)} の {A} と {B} に、自然数の全部の組み合わせを入れたものなんだ。それを、自然数全部の集合 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)という。



 定義 29 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)

{\mathbb{N \times N}:= \{(m,n)|m \in \mathbb{N} \wedge n \in \mathbb{N} \} }

と、定義して、左辺を、自然数 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)という。{\mathbb{N}^2} とも書く。

 定義 29 終わり



 この前の写真を持ってくると、

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f:id:PASTORALE:20160910000807j:plain


などだね。

「まだ、ゼロを定義してない」

 そうだ、そうだ。



 定義 30 整数のゼロ

 以下の集合を、整数のゼロと呼ぶ。

{0:=\{ (X,X) |X \in \mathbb{N} \}}

 定義 30 終わり



「まだ聞いてなかったと思うんだけど、{:=} というのは、左辺を右辺が表すもので定義するという記号?」

 そう。

 分かってるじゃん。

「高校までだと、これをどう表したらいいんだろう、みたいに思ってたものが、集合論の記号を使うと、少しクリアーになるわね」

 そのために、麻友さんを、公理的集合論の門くぐらせてあげた。

「じゃあ、やってみるわよ」

「負の整数の定義、



 定義 31 負の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X,X+n)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数のマイナスエヌと呼び、混乱の恐れのないときは、これを、{-n} と書く。

 定義 31 終わり



どうかしら?」

 一応、整数の定義は、できたね。

 でも、足し算ができなきゃ、何にもならない。

「あっ、そうだったわね。こんな集合を、整数にしたのは、これだと足し算の定義が、ウェルデファインドになるからだった」

 良く覚えてたね。

「これだと、足し算が、簡単なのよ。




 定義 32 整数の加法

{(X,\cdots}


 上手く書けないわ」

 うん。麻友さんの語彙では、それは、無理だね。

 あの時、言葉だけ教えた、『同値類(どうちるい)』という概念を使わないと、書けない。

 まず、自然数の直積、{\mathbb{N \times N}} のうち、例えば、{(4,2)} という座標の点は、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } という集合に属している。そして、同時に2つのこういう集合に属していると言うことはないね。

「傾き1の直線が交わることはないから、確かにそうね」

 そういうとき、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } のような集合のひとつひとつを、同値類と言って、{(4,2)} は、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } の同値類に属すという。

 そして、これが重要なんだけど、{(4,2)} の属す同値類のことを、大括弧でくくって、{[(4,2)]} と、表すんだ。

「代表だけで、全体を、表しちゃうの?」

 これはねぇ、最初は、すっごく気持ち悪いと思う。

 私も、大学に入学したばかりの頃、川口周君の『代数概論』のゼミに出ていて、どうしても分からず、困っていたとき、川口君が、

{\mathbb{Z}/n \mathbb{Z}} というのは、{ \{ \overline{0},\overline{1},\overline{2},\cdots,\overline{n-1} \} } みたいなものなんですよ』

と、書いてくれて、

『ああ、代表だけ取ってきたようなものですか』

と、分かったというわけなんだ。

「太郎さんでも、分からなかったのなら、安心ね」

 これは、実際に使ってみると、納得できるんだ。

 麻友さんが、書きかけた、加法の定義を書こう。



 定義 32 整数の加法

 2つの整数、{[(A,B)]} と {[(C,D)]} に対し、それらの和を、

{[(A,B)]+[(C,D)]:=[(A+C,B+D)]}

によって、定義する。これを求める算法を、加法という。

 定義 32 終わり



「ここまでくると、何が定義なのか、分からないわ」

 {A} や、{B} に、実際に、数字を入れてみれば、いいんだよ。

{[(7,2)]+[(3,6)]=[(7+3,2+6)]} としてみたわ」

「左辺は、5と-3だわね。だとすると、足して2になればいい」

「右辺は、{[(10,8)]} だから、おっ、確かに2になってる。ウェルデファインドの霊験あらたか」

 ほらね。具体的に数字を入れると、分かるんだ。

「でも、さっきは、ひとつの代表で、計算したでしょ、他の代表だったら、同じ答えになったのかしら?」

 特待生は、そういう質問しなきゃね。

 まず、同じ集合の代表だと、どういう共通点がある?

「正の整数でも負の整数でも、座標の前と後ろに同じ数が足してあると、共通の集合のはずなのよね。例えば、



 例 ***************************

 定義 28 正の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X+n,X)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数の {n} と呼び、混乱の恐れのないときは、これも、{n} と書く。

 定義 28 終わり

 *****************************



というのでも、そうなってる」

 そうだ。

 だから、他の代表に代えると言うことは、座標の前と後ろに、同じ数を足すか、座標の前と後ろから、同じ数を引くということだ。

「そっか、そっか、他の代表に代えたとき、例えば、座標の前と後ろから、3引いたのなら、2つの整数を足した結果の座標でも、前と後ろから、3ずつ引かれてるんだ。だから、結果の数自体は、変化しないんだ」

 良く分かったね。そうなるように、うまく仕組んであったんだよ。


「今日は、引き算の話だったけど」

 最後に、整数の引き算を、定義しよう。

「もう、簡単ね」

「まず、プラス、マイナスを反転させることを、定義しなきゃね。



 定義 33 マイナス

 整数、{n=[(A,B)]} に対し、

{-n:=[(B,A)]}

によって、マイナスエヌを定義する。

 定義 33 終わり



 これで、いいわね」

 マイナス1をかけた数を、数学では『加法の逆元』という。

「かほうのぎゃくげん?」

 そう。だから、{-n} は、{n} の加法の逆元だ。

「そうすると、




 定義 34 減法

 整数 {m,n} に対し、

{m-n:=m+(-n)}

を、エム引くエヌといい、この演算を減法という。引き算ともいう。

 定義 34 終わり




 この場合も、引き算がウェルデファインドかどうか、確かめなければダメ?」

 加法の逆元が、ちゃんと定まることだけチェックすればいい。

「どうして?」

 だって、麻友さん、もうウェルデファインドであること、確かめてある、足し算使って、引き算を定義したから。

「あっ、そうか」

 小学校では、{4-8=} など、計算できない引き算もあった。

 だが、私達は、0を作るとき、同時に整数全体も作った。

 計算できないことはない。

「整数全体は、なんと表すの?」

 {\mathbb{Z}} と、表すんだけど、これは、昔、『解析入門Ⅰ』の問題解いていたとき話したように、ドイツ語のZahlen(数)から、来ている。

「あの『解析入門Ⅰ』の問題、まだ解いてないわよ」

 うん。そろそろ、麻友さんに説明できるかなあ。

「聞くところによると、ものすごい難しい問題だったそうじゃない」

 高校生には、難しいけど、数学の中で、めちゃくちゃ難しい問題ではない。

「じゃあ、そのうちやってね」

 もちろん。

「それにしても、今日の引き算は、びっくりよ」

 これも、一度書いてみたい話題だったんだ。

「『安浪京子VS松田太郎』は、まだあるの?」

 あと、もう1回、小数のかけ算をやろうと思ってる。

「今日は、長かったわね」

 3日くらい書きためたから。

「ちゃんと、寝てる?」

 薬を飲む理由が分かったから、ちゃんと飲んで寝てる。

「太郎さんと、授業の動画作るの、楽しみにしてるわよ」

 こちらこそ。

「おやすみ」

 おやすみ。

 現在2018年4月9日21時28分である。おしまい。