女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

整数環(その2)

 現在2017年1月13日18時37分である。

「前回、グーグルクロームが、フリーズしちゃったのは、なぜだったの?」

 麻友さんへの投稿を書くときって、たくさんのページを開いて、あっちからあれ、こっちからこれ、というように、色んなことを参照してるんだ。だから、本文が長くなってくると、私のパソコンのように、性能の低いパソコンだと、全部を同時に扱えなくなるんだ。

「それで、疲れ切って、倒れちゃうわけ?」

 簡単にいうとそうだね。

「そうやって、検索してて、『AKB48中学社会』を、見つけたの?」

 あんなものがあること、知らなかった。

「これでしょう」

「それから、こんなのもある」

「理科もあるのよ」

 2011年8月30日刊だから、写真集『まゆゆ』の、気分が悪くなる顔から好きになった原因の顔への過渡期だね。

「私の、『知らないうちに』は、売れてるのかしら?」

 横浜のダイエーの上にある、あおい書店というところへ行ったとき、なかったんだ。

 それで、慌てて、ダイヤモンド地下街の有隣堂へ行って、苦労して探して、見つからなくて、検索機で、検索したら、分かりにくいところにあった。ただ、4冊並んでたから、需要があるのかも。

「慰めてくれなくても、いいわ」

「それで、消えちゃった、この前のは、復元できるの?」

 やってみよう。


 前回の投稿で、中学の頃の話を書いた後、

『ここまで色々書いてきたけど、1ヶ月以内という約束だった『環』というものの定義を、書いておかなきゃね』

と言って、環の説明を始める。


 まじめにやるよ。



 定義 18

 ものの集まりである『集合』という言葉を定義する。

 集合は、今は説明できないが、22個ほどの公理(約束事)を満たすものとして、定義される。

 まだ、証明できないが、あるものの集まりが、集合であることが分かっているとき、そのものの集まりのうちの集まっているものの一部だけを集めた集まりは、やっぱり集合になるということが、後に証明される。

 だから、集合の一部分は、集合だと知っていると役に立つ。

 この集合の一部分は、元の集合の部分集合という。

 こういう、集合という言葉を使うことを、認める。

 定義 18 終わり



「わー、なんか急に難しくなったわね」

 うーん。現代の数学を教えようとすると、どこかで、集合という言葉を導入しなければ、ならないんだよね。

 私が、大学に入学したときの話をしたとき、書いたように、具体的にやっていくことが、ピンチから脱する秘策。

 私達は、すでに、集合の具体例を知っているよね。

「AKB48の集合写真とか?」

 それも、集合には違いない。

 でも、具体例というときには、目の前に触れる形で持ってきたい。

「どんなふうに?」

 私達は、すでに、いくつか数を知ってるよね。

「ああ、{1}とか、{1+1}なんか?」

 そう。

 それらから、次のように定める。



 定義 19

 自然数{1}を、袋に入れたものを想像して、それを、

{ \{ 1 \} }

と、表す。

 これが、集合だと認める。

 これを、{1}を要素とする集合と呼ぶ。

 定義 19 終わり



「『これが、集合だと認める』じゃなくて、『これは、集合となる』じゃないの?」

 いや、『集合となる』と言うと、集合であることを、証明しなければ、ならなくなる。

 でも、私達はまだ、

{ \{ 1 \} }

が、集合であると、証明できるほど、武器を持っていない。

 だから、『集合だと認める』として、責任回避をするんだ。

「ふーん」

 自然数{1}を要素とする集合ができたら、次はどんなことをするか、麻友さんなら、分かるだろう。

「多分、こういうことね。



 定義 20

 自然数{A}{B}があったとき、{A}{B}を袋に入れたところを想像し、それを、

{ \{ A,B \} }

と表す。

 これが、集合だと、認める。

 これを、{A}{B}を要素とする集合と呼ぶ。

 定義 20 終わり



としてみた」

 いいんじゃないかな。

 ここらで、集合の例を、列挙してみよう。



 例 21

 以下のものは、集合である。

{ \{ 1+1 \} }

{ \{ 1,1+1 \} }

{ \{ 1+1,1+1+1 \} }

{ \{ 1,1 \} }

{ \{ 1,1+1+1+1+1 \} }

 例 21 終わり



「ちょっと!要素が2個のものばっかり。

{ \{ 1,1+1,1+1+1+1+1 \} }

のようなのだって、集合でしょ。」

 言うと思った。

「分かってて、書かなかったの?」

 実は、麻友さんの言ってるものは、集合かどうか分からないんだ。

「分からないって、どういうことよ?」

 集合かどうか、判定できない。

「判定できないって、どういうことよ?」

 集合だとしても、矛盾は生じないし、集合でないとしても、矛盾は生じない。

「そんな、

{ \{ 1,1+1,1+1+1+1+1 \} }

は、どう見たって集合よ。これが、集合でないなんて、可哀想・・・」

 麻友さんも、段々分かってきたように、私達がこれまで定義したものだけでは、

{ \{ 1,1+1,1+1+1+1+1 \} }

を、集合として構成することができない。なぜなら、私達は、2つの自然数から集合をつくることしか、定義していないから。

 つくれないんだから、それが集合かどうか、判定のしようがない。

「そういうことかぁ」

 そう。分かった?

「以前に、不完全性定理の話をしてくれたときのことが、ほんのちょっと分かったわ」

 それでは、・・・

「ちょっと待って、今までの定義だけでは、

{ \{ 1+1 \} }

も、集合にならないんじゃ、ないかしら。

{ \{ 1 \} }

は、集合だと定めたからいいけど、要素1個の、

{ \{ 1+1 \} }

は、集合として、構成されないはずよ」


 さすがに、特待生は、良く見ているね。でも、これは、集合なんだ。

{A=1+1}

{B=1+1}

とすると、

{A=B}

だから、

{ \{ A,B \}= \{ 1+1,1+1 \} =\{ 1+1 \} }

となるんだ。

「えっ、それは、おかしい。袋に1個

{1+1}

が入っているのと、2個入っているのは、違うはずだもの」

 うん。それくらい引っかき回すと、ゼミナール的になる。

「分かってて、やってるの?」

 麻友さんが、やったんじゃないか。

「それで、

{ \{ 1+1 \} }

は?」

 集合の要素を見るときは、同じものは、1つだけカウントするんだ。

「じゃあ、同じ

{1+1}

が2個あっても、ひとつあるものと、区別しないわけ?」

 そう。

「混乱したのは、太郎さんが、きちんと説明しないからよ。っていうか、太郎さん自身、

{ \{ 1,1 \} }

というの書いてるし」

 いや、

{ \{ 1,1 \} }

と書いたって良いんだよ。これが、

{ \{ 1 \} }

と同じだと、分かっている人が見れば。

「結局、この混乱の原因は、集合という言葉の定義で、『今は説明できない』って言ってる約束事が、公開されてないからよ。なんとかならないの?」

 そうだなあ、麻友さんは、特待生だし、私は知っていながら小出しにするってのも、卑怯だしなあ。

 じゃあ、微分積分も、エニとイグジストも知らない麻友さんだけど、公理的集合論というものの入り口を、入らせてあげようか。

「難しいの?」

 前から言っているように、具体例を自分でつくりながら進めば、迷うことはない。

「じゃあ、始めて」

 集合論というのは、前にツイートしたような、22個の公理からなる。

「公理っていうのは、約束事ね?」

 そう。

 まず、公理第1番。



 公理 22(I.集合になるための十分条件

{\forall X \forall Y ( X \in Y \Longrightarrow m(X))}

何かの要素になれば、集合である。

 公理 22 終わり



 意味分かるかな?

「ちょっと、ひどすぎるわよ。これを、私に分かれって言うの?」

 そうだろうね。分からなくて当然。

 ちょっとずつ説明するよ。

 まず、

{m(X)}

と、書いてあるのは、

{X}が集合である』

ということが、正しいよ、という主張なんだ。

「ぜーんぜん、分かりましぇん。先生、なんとかして~」

 そんなふうに、小学校の頃、駄目な生徒みたいに、質問したかったでしょ。

「太郎さんは、どうだったの?」

 そういう質問の仕方があるって、知らなかった。

「で、教えてよ」

 うん。

 実際にやってみせる。

 たとえば、さっき私達は、

{ \{ 1,1+1 \} }

が、集合だと認めたよね。

「そうだったわね」

 だから、

{m( \{ 1,1+1 \} )}

なんだよ。

「えっ、ただそれだけのこと?」

 そう。

「集合だと主張するってそういうこと?」

 うん。

「なーんだ、馬鹿馬鹿しい。公理的集合論なんていっても、全然難しくないじゃない。

{m( \{ 1+1,1+1+1 \} )}

{m( \{ 1,1 \} )}

{m( \{ 1,1+1+1+1+1 \} )}

だというだけね」

 まあ、具体例をつくっちゃうと、大抵分かる。

「ところで、なんで、{m}なの?集合なら、{\mathrm{set}}でしょう」

 これは、集合論の始祖が、カントールというロシア生まれだがドイツで活躍した人なので、ドイツ語で集合『{\mathrm{Menge}}』なんだ。フランス人なら、『{\mathrm{ensemble}}』が使われてたところだ。

「やっぱり、理由があるのか」

 そうなんだ。


 次に

{X \in Y}

というのは、{X}{Y}の要素だという記号。

「要素?」

 つまり、{1+1+1+1+1}は、{\{ 1,1+1+1+1+1 \} }の要素だから、

{1+1+1+1+1 \in \{ 1,1+1+1+1+1 \} }

と、なるわけ。

「ああ、袋の中身ってこと。じゃあ、

{1 \in \{ 1 \} }

ってこと?」

 飲み込みが、速いね。


 実は、麻友さんが今覚えた、

{m(\ )}

と、

{\in}

が、私達の公理的集合論で使われる記号の中の最も重要なものなんだ。

 特に、要素であるという記号の方は、いたるところに現れるよ。

「でも、これで、説明が、終わりではないわよね」

 うん。


 次に、矢印の説明をしなきゃならない。

 数学で出てくる矢印というのは、何種類もあって、ひとつには統一できない。

 私達は、

{A}が、成り立てば、{B}も、成り立つ』

ということを表すのに、

{A \Longrightarrow B}

という矢印を使うことにする。

 ここまで、説明すると、上の式がかなり分かる。

{\forall X \forall Y ( X \in Y \Longrightarrow m(X))}

の式で、分からないのは、もう、{\forall}だけで、

{ X \in Y \Longrightarrow m(X)}

は、

{X \in Y}

が、成り立てば、

{m(X)}

が、成り立つ。

と、読める。

「へー、この分からないの、そうやって読むんだ。暗号って、こうやって、解読するのねー」

 最後の説明するよ。

「はーい」

 この『{\forall}』という記号は、『エニ』と読んで、『任意の』という意味を表す。

「『エニ』ってことは、{\mathrm{Any}}ね。{\mathrm{A}}をひっくり返したのね」

 そう。そして、この場合、次のように、カッコの外側から読んでいく。

{\forall X \forall Y ( X \in Y \Longrightarrow m(X))}

は、

『エニ、エックス、エニ、ワイ、エックスがワイの要素なら、エックスは集合』

と読む。

 でも、これでは、麻友さんは、意味が分からないので、意味を込めると、

『任意の{X}について、任意の{Y}について、{X}が、{Y}の要素ならば、{X}は、集合である』

となる。

「わー、すごい。解読できた!」

 任意の{X}{Y}について、これが、成り立つのだから、{X \in Y}なら、{X}は、集合だ。

「だから、太郎さん。公理を書いたとき、『何かの要素になれば、集合である』って言ってたのね」

 そうだよ。

「えっと、でも、あれっ?」

 どうした?

「これ、おかしいわよ。たとえば、

{1 \in \{ 1 \} }

でしょ。そうすると、『{1}』が、集合になっちゃう」

 さすが、特待生。もう気付いたね。

「いや、これ深刻よ」

 私が、『1から始める数学』というものをやって、1からついに0をつくったよね。

「そうだったわね」

 実は、あれは、いずれここへ来ることを頭に置いてのものだったんだ。

「どういうこと?」

 麻友さんに、自然数や整数というものを、色んなとらえ方ができるということを、知ってもらいたかったんだ。

「どうして、そんな回り道を?」

 麻友さんは、すでに小学校中学校で、整数を習った。

 そして、私と一緒に、整数をつくった。

 そして今、公理的集合論を、用いて、新しく整数を構成する。

 今後、二人で冒険していく上で、この3種類の整数が、あるときは、一方が他方に、助けを求め、またあるときは、他の方のために、一方が助け船を出したり、というようなことを、繰り返しながら、成長していくことになるんだ。

「太郎さん、それが分かってたから、前回、ゼロをつくったところで、これで、おしまいって言って、打ち切ったの?」

 いや、麻友さんに、こんなに早く、公理的集合論の話をするつもりは、なかったんだ。

 グーグルクロームが、フリーズして、書き直しているうちに、麻友さんに、本気で、現代数学、話たろか。という気になったの。

「これが、現代数学なの?」

 上の『集合になるための十分条件』という公理は、現代数学で、本当に使われてる条件だよ。麻友さんのためにまったく易しくしてない。

「その『じゅうぶんじょうけん』というのは?」

 ちょっと、長くなりすぎたね。また、フリーズすると嫌だから、今日は、ここまでにしよう。

 整数をつくるのは、もうちょっと先にしよう。

「じゃあ、『環』は、当分おあずけね」

 そんなことない。いまやっちゃおう。

「えっ、できるの?」

 集合というものが、定義できたと仮定して、以下の定義を読んでみて。



 定義 23

 集合{R}が、空集合でないとする。

 このとき、{R}の2つの要素、{x,y}に対し、{R}の新しい要素を決める約束事が決まっていて、その新しい要素を、{x+y}と、表すことになっていたとしよう。

 次に、{R}の2つの要素、{x,y}に対し、{R}の新しい要素を決める先ほどとは違う約束事が決まっていて、その新しい要素を、今回は、{xy}と、表すことになっていたとしよう。

 さて、上のような約束事を演算(えんざん)といい、{+}の方の演算を、加法(かほう)といい、もう一方を、乗法(じょうほう)とよぶ。

 そして、演算が、次の3条件を満たすような集合{R}を、環(かん)であるという。環をつくる。環をなす。ともいう。

(1){R}は、加法に関し、可換群(かかんぐん)である。

    可換群とは、次のA,B,C,Dが成り立つもののことである。

    A.{(x+y)+z=x+(y+z) \ \ \ \ (\forall x,y,z \in R)}(加法の結合法則

    B.{Rの要素zで、任意のxに対し、x+z=x}
        {となるものが、存在する。}(零元の存在)

    C.{Rの任意の要素xに対し、上で存在するといわれているzについて、}
        {x+x'=zとなるようなx'が、存在する。}(加法の逆元の存在)

    D.{x+y=y+x \ \ \ \ (\forall x,y \in R)}(加法の交換法則)


(2)乗法に関する結合法則が、成り立つ。すなわち、

    {(xy)z=x(yz) \ \ \ \ (\forall x,y,z \in R)}

   が成り立つ。


(3)加法と乗法の間に分配法則が、成り立つ。すなわち、

    {x(y+z)=xy+xz \ ,\ (x+y)z=xz+yz \ \ \ \ (\forall x,y,z \in R)}

   が成り立つ。

 以上です。

 定義 23 終わり



 お疲れ様でした。

「わー、何、この中途半端に分からないの。結合法則とか、交換法則とか、零とか、分配法則とか、言葉はみんな知ってるのに、ものすごく難しい」

 誰だってそうだよ。

「誰でも、そうなの?」

 うん。歴史上最高の数学者で物理学者も、最初は、

『こんなもの考えたから、5次方程式が、解けないなんてことになったんだ!』

って勝手に思い込んだほど。

「あっ、そうだった。じゃあ、今は、分からなくて、良いのね?」

 うん。

『本当は、難しくないのに、説明が不親切だから、分からなかったんだ』

とはいうものの、やっぱり最初ぶつかったときは、難しく感じる。

 それを、ちゃんとフォローしていくからね。

「じゃあ、次回以降、この分からなかったのが、氷解していくのね?」

 あまり、急がないでね。

 さっきの大変だった公理にしても、1個であんなに苦労していて、それが、22個もあるんだからね。

「あっ、そうだった。公理的集合論を、教えるっていうのは、遠大な計画なのね」

 麻友さんに、少しでも、私のそばに、おいでよって、言ってるんだからね。

「分かった。今日は、おやすみ」

 おやすみ。

 現在2017年1月21日3時41分である。おしまい。