女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

倒せツォルンの補題(その2)

 現在2023年8月21日11時37分である。(この投稿は、ほぼ5512文字)

麻友「昨日は、何時に寝たの?」

私「21時27分に、寝る前の薬のメールを、送っている。でも、眠ったのは、22時半頃だったんじゃないかな?」

若菜「はっきりしないのですか?」

私「人間、眠りに落ちた瞬間というのは、覚えていないものだろう」

結弦「そうかもね」

麻友「今日、起きたのは?」

私「8時57分に、一度起きている。朝の薬も飲んだが、また眠くて寝て、11時1分に、起きた」

麻友「太郎さんは、10時間以上、寝た方が、良いのかもね」

私「1日が、短くなっちゃうけどね」


結弦「それで、ツォルンの補題、倒すの?」

私「昨日の、順序と、全順序は、分かった?」

若菜「一応、分かったと思いますけど、まだ、定義があるのですか?」

私「あるんだ。


 定義 極大元 最大元 (maximal,maximum)

 ある順序集合 {a} で、元 {x} に、{x \prec b} となる、{b \in a} が、存在しないとき、{x} は、順序集合 {a} の極大元であるという。もし、任意の {b} について、{b \prec x} なら、{x} は、順序集合 {a} の、最大元であるという。


と、定める」

結弦「マキシマルっていうのと、マキシマムっていうのが、あるんだ。最大元は、分かるけど、極大元というのは?」

私「辞書を引いてみると、英語では、極大と最大が、ごっちゃになっていて、文脈で判断するみたい」

若菜「具体例を、見せて」

私「これくらいが、自分で具体例作れないと、困るんだが、昨日の、{\{1,2,3\}} の部分集合の話を、思い出してよ。これでは、

{\{1,2\} \subset \{1,2,3\}},{\{2,3\} \subset \{1,2,3\}},{\{1,3\} \subset \{1,2,3\}}

だったし、

{\{1\} \subset \{1,2\}},{\{2\} \subset \{2,3\}},{\{3\} \subset \{1,3\}}

だったから、{\emptyset \subset \{1,2,3\}} も含めて、{\{1,2,3\}} が、最大元だな」


麻友「それが、分からないのよ。なぜ、{\emptyset \subset \{1,2,3\}} なの?」

若菜「さすが、お母さん。一番聞きたかったことを、聞いてくれた」

私「えっ、ここで、躓いてる? そうなのか、そういうレヴェルなんだな。まず、『{A \subset B}』の定義は、

{A \subset B \Leftrightarrow \forall_x (x \in A \Rightarrow x \in B)}

なんだ」

麻友「{\emptyset \subset \{1,2,3\}} で、{\emptyset} に、元はありません」

私「{(x \in A \Rightarrow x \in B)} で、{\Rightarrow} の前件が、偽だったら?」

麻友「あっ、ならばの命題で、前件が偽だったら、その命題は、真なのだった」


若菜「お母さん、凄い。聞きにくかったことを、聞きだしてくれた」

結弦「そうすると、『{\emptyset \subset \{1,2,3\}} も含めて、{\{1,2,3\}} が、最大元だな』が、認められて、最大元が確定する。次は、極大元の例を欲しいけど」

私「今、{\{1,2,3\}} が、最大元だったな。この部分集合の集合から、{\{1,2,3\}} だけを、取り除いてご覧」

若菜「そうすると、{\emptyset,\{1\},\{2\},\{3\},\{1,2\},\{2,3\},\{1,3\}} ですが、これ、最大元あるんでしょうかね?」

結弦「{\{1\} \subset \{1,2\}} だったりするから、{\{1\}} は、極大元でもない」

若菜「一方、{\{1,2\},\{2,3\},\{1,3\}} の3つには、それより大きい元はない。だとすると、この3つが、極大元? 1つに確定しなくても良いんだ」

私「そうだ。極大元は、いくつも存在しうる」


結弦「これで、定義は、おしまい?」

私「まだあるんだ。上界集合(upper bound set)というのがある。順序集合 {(a,\prec)} があるとき、その部分集合、{S \subset a} を、考えよう。そして、{S} の上界集合を、


 定義 上界集合(じょうかいしゅうごう)(upper bound set)

{u.b.(S)=\{x \in a|\forall_s(s \in S \Rightarrow s \prec x \}}


と、定める」

麻友「順序の記号、{\prec} というのを、不等号の記号 {\leqq} と、同じで、右側が開いているから、右側が、大きいと、暗黙の了解があると思って良いの?」

私「それについて、右が開いているからと、断っている本を、見たことないけど、大学1年生向けの易しい本なら、書いてあるのかも知れない。いずれにせよ、右側が大きいというように、取っておいて、大丈夫だよ」

結弦「おお、この本でゼミをやった、甲斐があった」


私「もう、キャパシティ越えているかも知れないが、もうひとつ頑張って。全順序部分集合という長い名前を、鎖(くさり)というひと言で、呼ぶことにするんだ。今後、鎖、鎖、と、何度も出て来る。鎖と言ったら、順序集合の部分集合で、全順序(どの2つも、比べられる。つまり、1列に並んでいる)集合を、思い浮かべて欲しい」

若菜「もういい加減、ツォルンの補題の、ステートメントを、見たいですが」

私「まず、分かっているだろうが、選択公理、或いは、選出公理と呼ばれる公理を認めないと、ツォルンの補題は、証明できない。だから、まず、選択公理ステートメントから、持ってくる。私のリンク集の『NKとBGの要約』から、BGsummary.pdfの、元の {\TeX} ファイルから、コピペして、$ を tex に、置き換えて、さあ出るか」


 公理(XXI.選択公理)

{ \forall x \exists f [ \mathrm{Fnc}( f,x,\cup x) \wedge \forall y (y \in x \wedge y \neq \emptyset \Rightarrow f(y) \in y ) ] }

ただし、存在してただ一つと言うことを、

{ \exists ! w A(w) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \exists w ( A(w) \wedge \forall z ( A(z) \Rightarrow w=z ))}

と、表し、関数であるということは

{\mathrm{Fnc}(f,a,b) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} [ f \subset a \times b \wedge \forall u (u \in a \Rightarrow \exists ! w( (u,w) \in f ) ) ] }

と、定義する。


結弦「こういう風に、必要になったときに、自分の数学の基準を、持ってこられるように、{\TeX}化したんだね」

私「そう。ただ、このままでは、解読できないだろう」

若菜「記号が、3列も」

私「まず、一番下から、解読する。{\mathrm{Fnc}(f,a,b)}を、定義している。左辺は、{f \subset a \times b \wedge \forall u (u \in a \Rightarrow \exists ! w( (u,w) \in f ) )} だと言ってる。2段目で定義するのだが、{\exists ! w( (u,w) \in f )} というのは、{!} というビックリマークは、ただひとつというマークなのだ。だから、{\exists ! w} は、ただひとつだけ {w}が、存在するということなのだ。つまり、関数に {f(u)} と、{u} を、入れたとき、ひとつだけ、値が、決まりますよ。ということなんだ。記号の3列目は、そういう風に、{\mathrm{Fnc}(f,a,b)} という記号は、{f} は、{a} から {b} への、関数ですよ。と述べる記号を、定義したものなんだ」

結弦「これ、ちょっと、分からないよ。ここまで、記号だけにしないで、言葉で書いてよ」


私「『多様体テンソル解析とその応用』を、訳したのがあるから、使ってみようか?」


選択公理

{\mathit{S}}が、空集合でない集合の集まりとするとき、少なくとも1つの関数。
{\displaystyle \chi: \mathit{S} \rightarrow \bigcup_{\mathrm{S} \in \mathit{S}}\mathrm{S}}
が、あって、任意の{\mathrm{S} \in \mathit{S}}に対し、{\mathrm{\chi (S) \in S}}となるようにできる。


結弦「そうじゃなくて、お父さんの言葉で、説明してよ。記号を並べられても、分からない」

私「そうか、つまりね、自然数の集合とか、整数の集合とか、有理数の集合とか、あるだろう。それらの集合から、ひとつずつ、要素を持ってくる。例えば、{\displaystyle \{3,-2,\frac{4}{5}\}} みたいに」

結弦「それが、できるとか、できないとか、問題にしているの?」

私「まあ、有限個なら、ひとつずつ持ってくるのは、できて当たり前だよな」

若菜「無限個だと、できないんですか?」

私「自然数の集合と同じ量の、可算個なら、持って来ても、問題は起こらない。実際、数学者は、可算選択公理は、平気で使っている」

麻友「非可算個の集合から、1つずつ持ってくるというのが、問題なわけ?」

私「問題なんだな。それを、持ってこられるとすると、ルベーグ可測でない実数の部分集合が作れて、積分できなくなったり、バナッハ-タルスキのパラドックスが、産まれたりする。ただ、ここで、ひとつ重要なことを、言っておく。選択公理 {\mathbf{AC}} は、{\mathbf{ZF}} から独立なんだ。つまり、{\mathbf{ZF}} が、無矛盾なら、{\mathbf{AC}} を、公理に加えても、無矛盾だし、{\mathbf{ZF}} が、無矛盾なら、{\mathbf{AC}} の否定を加えても、無矛盾なんだ。だから、パラドックスみたいなものは、起きるけど、{\mathbf{ZFC}} を、使ってても、矛盾は起きないんだよ」

若菜「矛盾がおきると?」

私「{\mathbf{AC}} を、加えたために、矛盾が起きたとすると、論理学として、{\mathbf{AC}} は、偽な命題となってしまう。準背理法というものの結果だ。それから、{\mathbf{AC}} の否定を加えたために、矛盾したら、純粋に背理法で、{\mathbf{AC}} は、真となる」

結弦「そうすると?」

私「いずれにしても、矛盾が、公理から導かれたら、その公理系では、あらゆるものが、証明できてしまうので、数学を築くことは、できなくなるんだ」

麻友「太郎さんは、{\mathbf{ZF}} の、立場? {\mathbf{ZFC}} の立場?」

私「真理のカメさんの存在を、言うには、ツォルンの補題が、必要だから、{\mathbf{ZFC}} の立場にならざるを得ない。ただ、常に揺れている」

麻友「そうなのね。今日は、18時頃から、マックへ夕食食べに行って、小さい発見が、あったんでしょう。結弦に、話してあげて」

私「じゃあ、いったん解散」

 現在2023年8月21日22時20分である。おしまい。