女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。

数Ⅲ方式ガロアの理論と現代論理学(その5)

 現在2018年7月18日14時57分である。

「昨日、腕時計を買いたいと言ってきたけど」

 うん。

 やっぱり何でも、相談する習慣を付けようと思ってね。

「なぜ?」

 私の父も、家を買うときとか、スピーカーを買うときとか、パソコン買うときとか、必ず母に相談していたんだ。

 私の友達の家なんか、

『主人が勝手に、家、買っちゃって』

なんて、奥様が怒ったりしているのが当たり前の時代からのことなんだ。

「太郎さん。案外、お父様のこと、見習ってるのね」

 『数Ⅲ方式ガロアの理論』を、読んでいくと、第7章で、

『何によらず,臨機応変という事が肝要だ.』

という言葉に出会う。

 私は、硬直した思考を持たないように、いつもこの言葉をかみしめている。

「それで、腕時計は?」

 前回と、同じ時計にした。

 ただ、前回は、灰色のベルトだったんだけど、今回は、黒いベルトのモデルにした。

 黒いところに金色の文字が書いてある方が、綺麗に思えたんだ。

「まったく同じ時計だったら、またベルトが切れない?」

 切れてもいいんだ。1年半使えるなら、1,980円でも、高くないよ。

 この時計は、電波時計で、自動的に時刻が合う。デジタルで、秒の出る時計で、金属のベルトのものは、ひとつもなかったんだ。仕方ない。

「太郎さん、秒まで書くものね」

 そうなんだよ。

「秒を測れる時計って、いつ頃からあったか、知ってる?」

 カルダノのころなんだよね。16世紀後半。

 でも、江戸時代の『遠山の金さん』に、お鶴さんは出てくるけど、振り子時計は、出てこないね。

「鶴じゃないわよ」

 おかめさんだっけ?

「怒るわよ。おたねです」

 『いつかこの雨がやむ日まで』と、並行して撮影なんて、髪型とかどうするんだろう。と、思ってたら、かつらなんだってね。ヘアカラーをピンクにして、楽しんでますって、『SWEET』(8月号)読んだよ。

「黒い髪にこだわるのもいいけど、ピンクとかにする女の子の気持ちも少し分かったわ」

 うん。優等生ばかりやってないで、色々楽しんでごらん。

 この世界のすべての価値観を疑って、全部ゼロから築き直した方が、自信を持って生きられる。

 度胸を付けたいんでしょ。

 自信を持てば、度胸はつく。

「度胸を付けるには、価値観を疑って、全部築き直して、自信を持てばいいのか。太郎さんは、簡単に言うわね」

 これが、私からのアイディア。生かすのは、麻友さん。


「それじゃ、『アイディアの変遷を追って』始めますか」

 若菜と結弦、いらっしゃい。

若菜「私も、髪染めてみようかしら」

「あなた、中学2年生でしょう」

結弦「お母さん、中学2年の時、どんなだったの?」

 あの当時、一世を風靡した、AKB48(あきはばらフォーティーエイト)というアイドルグループで、デビューしたばかりだったんだ。

結弦「わーっ、カッケー」

若菜「学校はー?」

 成績も優秀だったんだよ。

若菜「アイドルやりながら、学校行ってたの?」

「そうだったのよ。だから、こうして数学の本のレポーターもできる」

結弦「ガロア理論の冒険か」

「さあ、始めるわよ」


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 第1章 ガロアの遺書を読む


 天正10年(1582年)6月2日は本能寺の変で,
1832年6月2日はガロア葬儀の日である.
 そこで,彼の遺書をひもとく事とする.



 ヘンな絵だナ.誰がかいたの,叔父さん───引っ越しの手伝いに来ている,与次郎である.静かだと思ったら,油を売っている.

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広田 どれどれ,ここにサインがあるだろう.
佐々木 それはワカッてる.でも,読めない.
広田 {\mathrm{EV.\ GALOIS}}───ガロア
佐々木 ガロアって,誰だい?
広田 20歳で死んだ,数学者.
佐々木 若いね.
広田 不滅の業績を残した,天才だ.
佐々木 僕と,三つしか違わない!
広田 この間,鹿児島大学へ行った.
 学生食堂がある.その名前を公募したそうだ.その結果「軽食堂ガロア」となっている.

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 学生活動家としても,有名なのだ.数学に通じない者も,ガロアだけは知っている.
佐々木 もっと詳しく話してくれよ.

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結弦「ちょっと、ストップ。ガロアは出てきたけど、数学の話が、全然ないじゃない」

「そうなのよ。この本、7ページまで行かないと、数式が出てこないの。しかも、本当に始まるのは、第2章からなのよ」

結弦「どういう本なの?」

 こういう本だから、冒険していくのが、楽しみかな? と、思うんだ。

 第1章は、ドラえもんの大長編の冒険で、今まさに冒険が始まろうとしているところなんだよ。

若菜「じゃあ、出来杉君が、出てきてるあたりね」

結弦「そういうことか。出来杉君は、いつも、冒険の最初だけ出てくるんだよね。そうすると、第1章には、難しくても、後で使わないから分からなくていいことも、出てくるのかな?」

 まさに、その通りなんだよ。麻友さん、分からなかったろ。

「後で出てくる、ガロアの遺書は、さっぱり分からなかったわ。でも、『専門の数学者にも,分からない事がある』というのを読んで、安心したわ」

 そう。そういう読み方で、いい。

 分からないことは、ゼミに出てから、みんなで考える。という姿勢も大切。

「ひとつ、調べたのよ。{\mathrm{EV.\ GALOIS}} の、{\mathrm{EV.}} が、何の略か。」

 おお、えらいね。

{\mathrm{\acute{E}variste\ Galois}} なのよ。しかも、フランス語での正確な発音は、エヴァリスト・ガロワみたいね」

 よく調べてきたね。

 実は、日本語の文献でも、ガロワって書いてある本もある。例えば、新しいのでは、

草場公邦『ガロワと方程式』(朝倉書店)

ガロワと方程式 (すうがくぶっくす)

ガロワと方程式 (すうがくぶっくす)

結弦「古いのでは?」

 表紙には書いてないけど、

高木貞治『代数的整数論』(岩波書店

代数的整数論 第2版

代数的整数論 第2版

の中には、『「ガロワ」群』『「ガロワ」体』という言葉遣いが見られる。

若菜「カチャカチャ『高木貞治』。高木貞治(たかぎ ていじ)って、私達より150年くらい前の人なのね」

高木貞治って、何年生まれ?」

結弦「カチャカチャ。1875年生まれだ」

 若菜は、2028年生まれだから、確かに150年経ってる。

高木貞治って、すごいの?」

 うーん。私には、正確には評価できない。

 でも、少なくとも、明治、大正から、昭和35年(1960年)に死ぬまで、日本の数学を牽引していたことは、紛れもない事実。

結弦「2042年の世界にも、『初等整数論講義』って、あるよ』

 おお、そうか。さすがだなあ。

「これね」

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版

結弦「紙じゃないけど」

 高木貞治は、数学上の業績は、『クロネッカー青春の夢』という数学上の予想の解決のために類体論(るいたいろん)と呼ばれるものを建設したことなどであるが、一方日本のために、レヴェルの高い数学書をいくつも書いてくれたことが、或る意味最大の功績とも言える。

若菜「『クロネッカー青春の夢』って、何ですか?」

 若菜や結弦は、まだ群(ぐん)とか体(たい)というものを、習っていないことに、なってる。だが、この『数Ⅲ方式ガロアの理論』を読み終える頃、それらとお友達になっているだろう。そうなったとき、やっと意味の分かってくる、抽象代数学(ちゅうしょうだいすうがく)というものでの、クロネッカーという数学者の予想なんだ。

 『虚2次数体上(きょにじすうたいじょう)のアーベル方程式は虚数乗法(きょすうじょうほう)を持つ楕円関数(だえんかんすう)の変換方程式(へんかんほうていしき)で汲(く)み尽(つ)くされる』はずだ、と、30歳の若きクロネッカーが夢を描いた。と、数学者の間では、言い伝えられている。

結弦「30歳って、若いの?」

「そうねえ、小学生から見たら、おじさんよね。でも、私が恋をしたとき、太郎さんは、43歳だったのよ」

若菜「お母さん、どうして、お父さんのこと、好きになったの?」

「悪い中年男に、だまされちゃったのよね」

 中年って言えばねえ、

『クロッカワー中年の夢』

っていうのも、あるんだ。

結弦「何だそりゃー」

 黒川信重(くろかわ のぶしげ)という日本の数学者の言い出したことなんだ。

若菜「分かったー。お母さん、お父さんのこういう面白い数学の話に、丸め込まれて、好きになっちゃったんでしょ」

「数学だけじゃ、なかったのよね。物理学とか分子生物学とか音楽とか。私、四面楚歌だったのよね」

 よく言うよ。麻友さんのファンは、100万人もいたのに。

結弦「ファンが、100万って、すごいなー」


 100万は、いいけど、本能寺の変は、調べた?

若菜「調べた? って?」

「もちろんよ。天正(てんしょう)10年6月2日は、正しい。でも、西暦では、1582年6月21日なのよね」

結弦「6月21日なの? どうして?」

 特待生、答えてくれ。

「歴史をひもといてみると、何種類かの暦(こよみ)が、使われている」

「今、日本で使われている暦は、和暦の平成と、西暦。これらは、何年というところは違うけど、月日は同じよね」

若菜「ここは、平成なんだ」

 あっ、お前たちの時代、元号は、何になってる?

結弦「元号なんて、もうないよ。2019年に平成天皇が退位して、平成が終わったところで、元号は、廃止されたんだ」

若菜「あまりにも、煩わしいものだったようで、一部、文房具とかで、需要があったようですが、もうやめましょうということになったようです」

「うわー、私、最後の元号生まれ」

 私なんて、平成の前の昭和だ。

結弦「じゃあ、その元号の何年というところだけでなく、月日もずれてた頃が、あるんですか?」

「そうなのよ。だから、世界史をきちんと勉強してみると、色々勘違いが見つかったりするの」

 私、放送大学で、天文学の授業取ったことあるんだ。

 そのとき、木下宙(きのした ひろし)さん、という先生が、

レフ・トルストイの『戦争と平和』という小説の中で、ロシアとフランスの暦が違うので、同じ戦いのことを、双方が別の日付で呼んでる』

と、話してくれた。

若菜「『戦争と平和』って、映画を観たことあります。オードリー・ヘップバーン綺麗ですね」

 綺麗だよなあ。

「そうなのよ。この人は、いっちばん最初にURLをツイートしてきた、相対性理論のブログの『2人の素敵な女の人』という投稿の中で、私のことを、『マイフェアレディ』のオードリー・ヘップバーンのようだ。と書いてきたのよ」

結弦「それ、お世辞じゃないと思うけどなあ」

若菜「お父さんは、その『戦争と平和』という小説を、読んだことあるのですか?」

 600ページくらいの文庫本4冊だったから、大学時代に2巻の真ん中くらいまで、病気になって帰ってきてから、残りを2年くらいかけて読んだ。

 まあ、普通の小説と同じように、面白いところがあちらこちらあるから、そんなに飽きない。

 面白かったのは、主人公のアンドレイ公爵のお父さんが、数学が好きで、娘(アンドレイ公爵の妹)に、幾何学を教えるんだけど、マリヤ(妹)がさっぱり理解できないというくだり。

 あれは、トルストイが数学で苦労してなければ、書けないと思う。

「ほら、また、いやみ。太郎さんの文章には、数学が分からなくて苦労する人の気持ちは、微塵も描かれてないものね」

結弦「2042年の世界では、数学で苦労する人は、いないよ」

若菜「それで、トルストイは、『戦争と平和』という長い小説で、何を描きたかったのですか?」

 それね、良く分からないんだ。少なくとも、

『平和がいい』

というような、単純なことを言いたかったわけではなさそう。

 この世界には、様々な人がいる、ということを、描きたかった。というのは、十分あり得る。

若菜「それで、いつ頃の世界を描いているんですか?」

 1805年から1813年頃。

若菜「えっ、じゃあ、ガロアの頃」

 そうだよ。1804年にナポレオンがフランス革命で皇帝になり、1812年ロシア遠征をするも失敗、敗退していくフランス兵を追撃して、捕らえられていたアンドレイ公爵が戻ってくるところまでの小説。

 トルストイがロシア人だから、ロシア側から描かれている。

 ガロアは、その中の、1811年に生まれる。激動の時代だ。

若菜「『学生活動家としても,有名』というのは、革命に参加した?」

 いわゆる『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネットを倒すフランス革命ではないけど、7月革命に参加する。

若菜「小説だったら、面白いですね」

結弦「でも、本当のことなんだろ。それで、本能寺の変との関係は?」

「矢ヶ部さんが、こじつけたのよ。ガロアは1832年の6月2日に死ぬのでしょう。本能寺の変は1582年の6月2日のはずだった。実際は天正10年6月2日だけど。だから、250年後なわけよね。織田信長も、ガロアも気性の荒い人だった。他人を傷つけて、逆に殺されてしまったガロアの遺書を、ひもときましょうと」

結弦「そういうことか」

若菜「どうでもいいことかも知れませんが、なぜ、鹿児島大学の食堂なんでしょう」

 ほー、面白いことに気付いたね。

 矢ヶ部巌さんって、九州大学理学部数学科卒で、九州大学の数学の先生なんだ。

若菜「あっ、だから、鹿児島」

ゆきりんが、喜ぶわ」

若菜「柏木由紀さんですね」

「あらっ、今から24年も経って、まだ結婚してないの?」

結弦「夫婦別姓は、2042年では、常識なんだよ」

 そうなのか。

 柏木由紀さん、幸せになってるかい?

若菜「安心してていいです。それでは、そろそろ進めませんか?」

「分かったわ。じゃあ、続き」



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広田 1811年10月25日,パリ郊外のブール・ラ・レーヌという村で生れた.

 1811年といえば,江戸時代も後期だな.

佐々木 翌年の1812年は,ナポレオンがロシヤ遠征に失敗した年だね.

広田 1815年には,座頭の高利貸禁止令が出ている.

佐々木 「必殺仕掛人」時代だね.

広田 お父さんは,そこの村長をした事もある教養人だ.お母さんも,有名な法律家の家柄の出身だ.独創的で探究心のはげしい,つよい性格の人だった───と,いわれている.

 ガロアの性格の一部は,この母親から受けついだものらしい.

 しかし,父方にも母方にも,数学方面にすぐれた人物がいたという記録は,ないそうだ.

佐々木 突然変異だね.何時頃から,数学的才能を発揮し出したの.

広田 1823年に,パリのルイ・ル・グランという中学校に入学している.ヴイクトル・ユーゴーも,この中学の出身だ.

 この時から,ガロアにとって初めての,学校生活が始まる.それまでは,お母さんの教育を受けていた.


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「この辺りで、止めましょうかね」

結弦「ガロアが、生まれた」

若菜「小学校、行かなかったのね」

 実は、ここから10ページくらい、たっぷりとガロアの話が、出てくる。

結弦「気前いい」

 そういうのを、ぬか喜びという。

 実を言うと、この本。第1章でガロアを出した後、いつまで経っても、ガロアが、活躍しない。

 大変な第8章を読んでも、群の出てくる第15章を読んでも、5次方程式の代数的非可解性の第18章を読んでも、出てこない。なんと、アーベルが第23章で力尽きて初めて、ガロア参上となる。全部で29章の本で、第24章まで主役が現れないなんて、あんまりなのだが、そこまで読者を引っ張るために、第1章で、ガロアの魅力を語ってるんだ。

結弦「わー、きたないな。そういうことなのか」

若菜「でも、第2章でも、第6章でも、第14章でも、ガロアガロア、って、いっぱい書いてありますけど」

 それは、つりなんだよ。

結弦「コマーシャルかい」

「えっ、じゃあ、太郎さん。第24章まで読まないと、ガロア理論自体に、触れられないの?」

 それどころか、最後の第29章が、『ガロア理論ここに始まる』という題になっていて、詐欺のような本なんだ。

若菜「じゃあ、ガロア理論の本じゃないんですか?」

 そんなことはないんだ。

 ちゃんと、ガロア理論を味わえる。

 ただ、ガロア理論は、小学生や中学生にはものすごく難しいから、準備が大変なんだね。

結弦「とりあえず、冒険は、続けてみるか」

若菜「本の中でも、ナポレオンのロシア遠征が、1812年とあるわね」

結弦「1811年って、何かあったけ?」

 実は、おおありなんだな。

若菜「インターネットでも、それほどのものは・・・」

 麻友さんと私の10回目のデート。ベートーヴェンピアノ三重奏曲『大公』の作曲された年なんだ。

「10回目のデートはまだしてないけど、近々やるわけね」

 そう。

ガロアの生まれた年なんだ」

 芸術の神様も、学問の神様も、大張りきりだね。

若菜「『大公』トリオって、素晴らしい曲ですよね。私も、コンサート行きたい」

♪誰かがここに参加しようたって

♪3人以上じゃ何も始まらない

「♪分けられないものがあること」

「♪人はいつかわかって来るものさ」

結弦「あ、お母さんとお父さん、デュエットやってる」

若菜「あー、お母さんがアイドルだったときの歌ね」

「でも、デートに子ども連れて行くって、子連れで結婚する夫婦の場合、あり得るのかもね」

 秋元さん、『分けられないものがあること』って、言ってるけど、そもそも、なんで、分けなきゃなんないんだろうな?

 恋愛が、愛を分かつものだという発想じゃ駄目。何人いたって恋愛は恋愛。それで、いいじゃん。

若菜「じゃあ、次のデート、私達も行っていいのね」

 なんだか、賑やかなデートになりそうだな。

結弦「さっきのは、なんていう歌?」

「『最初のジャック』という歌よ」


若菜「でも、パリ郊外のブール・ラ・レーヌって、東京郊外の埼玉とか横浜というのと、同じよね。芸術の都パリか」

 麻友さん。新婚旅行は、パリにしようか。

「時間かかるわねー。ルーブル美術館とか。オルセー美術館とか」

 お互い、アウトドアは、苦手だから、いいんじゃない?

結弦「1815年の、『必殺仕掛人』って?」

 ああ、座頭(ざとう)の高利貸禁止令(こうりかしきんしれい)か。

「1600年に関ヶ原の戦い。そして、1603年に江戸時代が、始まるわね。そして、ひとつやろうやで、1868年に明治維新を向かえるまで、続くのだけど、1815年じゃ、もう残り40年くらいで、かなり後期よね。だから、社会も腐敗して、賄賂だ賭博だとなる。こうなると、お金がどんどん必要になり、お金を持っていないものが、お金を持っているものに、借りに行くことになる。江戸時代には、目の見えない人が、『座頭(ざとう)』という位をもらって、お金を稼いでいたんだけど、目が見えないから、お金をあまり使わないでしょ。それで、余ったお金を、人に高利で貸して、ものすごく財産を築くような人も現れたの。それで、座頭を取り締まったらしいけど、私かなり調べたけど、1815年に『高利貸禁止令』というものが出たという証拠は、見つけられなかったわ」

 そうだね。『高利貸禁止令』というのは、AKB48の『恋愛禁止令』と同じで、名前ばっかり有名になったけど、本当は、『恋愛禁止条例』という題の歌があっただけで、『恋愛禁止令』なんて、そんなもの明文化されてなかった、というようなものなのかも知れない。

若菜「そういう場合、どうするの?」

 百科事典も、Wikipediaも、インターネット中も、探してもないんじゃ、これは、分からないこと第1号として、私達のゼミで、残しておこう。

「とにかく、世の中お金がすべての時代に、お金をもらって、世のため人のためにならない悪いやつを、斬る。という『必殺仕掛人(ひっさつしかけにん)』という時代劇が、1972年から1973年にすごく流行ったらしいのよ。『数Ⅲ方式ガロアの理論』の連載があった頃、その話で、持ちきりだったのだと思うわ」

結弦「『必殺仕掛人』って、ドラマなのか」

「そうよ。本当に、そういう人達が、いたわけではないの」

結弦「なーんだ」

若菜「ガロアのお父様、村長さんなのね」

「そこにも、ナポレオンが関係してるの」

結弦「どういうこと?」

ガロアのお父様、ニコラ=ガブリエル・ガロアは、18世紀の人で、つまり、フランス革命気質があったのね。教養もあり、哲学を愛し、王制を強く憎んでたのね」

「ナポレオンは、ロシア遠征に失敗して、1814年失脚、エルバ島に流される。でも、1815年3月、エルバ島を脱出、パリに戻って、皇帝に返り咲く。でも、周り、敵だらけよ。よくこんなこと、できるわねぇ」

 そんなこと言ったら、この高度情報化時代に、北朝鮮なんていう天然記念物みたいな国のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が生きてる方が、よっぽど信じられないよ。

「まあ、そうかも知れないけど、このナポレオンが戻ってきたとき、革命を愛するガロアのお父様は、村長に選ばれたのよね」

 その通り。

「でも、ナポレオンの皇位は、百日天下で終わってしまう。正確には95日天下。ガロアのお父様は、ワーテルローの戦いで、ナポレオンが敗れ、今度はセント・ヘレナ島に流された後も、村長を続けていた。これが、後で、問題になるのよね」

 よく調べてきたね。さすが、特待生。

若菜「お母様は、なんという名前だったの?」

「アデライード=マリ・ドマントよ」

結弦「ガロアは、パリの中学校へ行ってるのか」

 ここなんだけど、テキストには、

ヴイクトル・ユーゴー

と、あるけど、

ヴィクトル・ユーゴー

の方が、口の動きに合うと思う。

若菜「えっ、どこが違うの? ああ、イィ か」

{\mathrm{Victor}} は、ヴィクトルだわね」

結弦「じゃあ、誤植第1号としよう」

若菜「ユーゴーって、どんな人?」

 『ああ無情』って、知らないかな?

若菜「ああ、あれ書いた人」

結弦「あれ、変な題だよね」

 原題は、『レ・ミゼラブル』で、…。あと、麻友さんの方が、よく知ってるね。

「『レ・ミゼラブル』は、悲惨な人々というような意味なんだけど、日本語に最初に訳した黒岩涙香(くろいわ るいこう)が『噫無情(ああむじょう)』と訳したから、そう呼ばれてるの。日本でもカタカナで、『レ・ミゼラブル』とした本や、ミュージカルもあるのよ」

 麻友さんは、ミュージカルの『レ・ミゼラブル』が、とても好きなんだよ。

「太郎さんは、原作、読んだことあるの?」

 いや、あれも、『戦争と平和』と同じくらい長いから、手を付けてない。

「太郎さんも、同じか」

 ユーゴーが、『レ・ミゼラブル』を出版したとき、売れ行きはどうかと、出版社へ、『?』という手紙を送ったらしい。それに対する返事は、『!』だった。これが、歴史上、一番短い手紙だそうだ。

「太郎さんのブログ、長すぎるのよ」

若菜「あっ、夫婦げんか始めた」

 してない、してない。

「でも、かなり長くなったわね。今、何字くらい?」

 10,526文字だ。

「じゃあ、今日の獲物を、リストアップして」

若菜「分からないこと第1号『1815年に、座頭の高利貸禁止令が本当にあったかどうか』(p.2 下からl.12)」

結弦「誤植第1号『○ヴィクトル・ユーゴー、✕ヴイクトル・ユーゴー(p.2 下からl.3)」

「ページのPは、大文字じゃなくていいの?」

 英文では、P.と書くと、人の名前かと思われるのかも知れない。p.と、小文字で書くようだ。

「l.は?」

 何行目か、つまり、{\mathrm{line}} だよ。

 複数書くときは、

pp. {\mathrm{pages}}と読む。

ll. {\mathrm{lines}}と読む。

を使う。

「いきなりそんな、太郎さんの習慣を…。」

 段々慣れるよ。

 これ、便利なんだ。

若菜「獲物なんて、そんなにどんどんあるのですか?」

 ないない。この本は、多くの人が読んでるから、誤植も初期に潰されてるし、このインターネットの世の中で、分からないことなんて、滅多にない。

結弦「獲物のない冒険なんて、つまんないなぁ」

 まあ、この冒険の恐ろしさは、もっと進んでから、語ってくれ。

 じゃあ、今日は、これで解散。




「なんか、楽しくなったわね」

 やっぱり、子供達、連れてきて、良かったね。

「でも、1日かかって、2ページよ」

 数学の本というのは、そういうものだよ。

 小説みたいに、1日に50ページとか読めたら、ブルバキだって2年くらいで、終わるとこだけど、そんなの絶対無理。

「じゃあ、想定通りに、事が運んでるのね」

 本当は、『現代論理学』もやりたかったけど、ちょっと無理だった。

「そういうことか」

 麻友さん、犬飼いたいのかい?

「ああ、Q&Aのね」

 でも、麻友さんは、飼ったとしても、散歩に連れて行かれないだろうからなあ。

「いや、あのQ&Aで、一番知りたかったのは、太郎さんが、犬派か猫派かということだったの」

 それなら、バッサリ、私は犬派だよ。

 2015年の情熱大陸で、生まれ変わったら猫になりたい、なんて言ってたけど、私は、麻友さんは犬好きだと思って、接してきた。

「えっ、どうして? どうして?」

 だって、ポムポムプリン君だって、犬じゃない。

「あっ、そうか。ポムポムまゆゆさん…。」

 ああ、2017年10月20日に、がんで亡くなられた美咲さんね。10月31日の卒業コンサート、席を用意してあげたんだよね。

 あっ、…。

 麻友さんが、最近、ポムポムプリン君の話題をしないのは、アイドルで、なくなったからでなく、ポムポムプリンって言うたんびに、美咲さんのこと思い出して、辛いからなのか。

「うっ、でも、太郎さん。人は、生き返らせられるって。そうなのよね」

 ドラえもんが、麻友さんのところへ来たのは、そのためじゃない。

 麻友さんに取って、飼いたい犬は、ポムポムプリン君。

 それは、ポムポムまゆゆさんで、美咲さんなんだね。

「普通の犬を、飼いたかったんじゃないのよ」

 ところで、今年(2018年)の2月17日にカルッツ川崎で行われた、ソロライブは、どうしてネット上に情報がほとんど見つからないの?

 いや、そもそも、出会った年、2015年のクルージング・ライブも、麻友さんが、『眠っててもいいですよ』と言ったほど、盛り上がらなかったとか聞くし、私が行かないと、麻友さん、ダメダメになっちゃうということ?

 大アイドルって言われてるけど、この世界、どこまで信じていいの?

「大丈夫よ。太郎さんは、自分で思っているより、常識があるわ。だから、24年前、気が狂うなんてことになったのよ。正常だったからこそ、気が狂ったのよ。このブログで、常識をひとつずつ増やしていくんでしょ。続けましょ」

 どっちが、しゃべってるのか、おかしくなったけど、とりあえず、今日は、もう寝よう。

「それがいいわ。太郎さん、おやすみ」

 おやすみ。

 現在2018年7月21日21時28分である。おしまい。

数Ⅲ方式ガロアの理論と現代論理学(その4)

 現在2018年7月11日15時49分である。

 昨日、スタッフの人が、慌てて書いてきたね。

「何を書きたかったか、分かってるの?」

 麻友さんが、すっごく忙しいから、ブログをどんどん読めなくても、許して下さい。ということかな?

「分かってないんじゃない。私の事務所の社長の許しが出なかったら、太郎さんとの数学の動画なんて作れないってことよ」

 つまり、私の側も、マネージャーとか用意しなければならないわけ?

「有名人の私と、契約を結ぶには、何かそちら側にも用意してもらわなければ、話にもならない、というわけね」

 そういうことか。

「私のスタッフが、青くなってブログ更新したのは、それだけじゃないと思うわよ」

 麻友さんを、『アイドル』と書いたことか?

「そう。相対性理論のブログの『コメディを演ずる君へ』という投稿で、2カ所で、私をアイドルと書いている。AKB48を卒業して、AKB色から抜けだそうと頑張っている私を見ているスタッフとしては、援護射撃せずにはいられなかったのね」

 そうねえ。脱AKBか。

 でも、麻友さん、AKBから抜け出そうと、無理しなくてもいいんじゃないかな?

 麻友さんに取って、AKBって、青春なんだよ。

 この前、紹介してあげた、立花隆の『青春漂流』のプロローグに、

『青春というものは、それが過ぎ去ったときにはじめて、ああ、あれがオレの青春だったのかと気が付くものなのである。』

とある。

 AKB48を抜け出すということは、青春の終わりを急ぐことにも、なりかねないよ。

青春漂流 (講談社文庫)

青春漂流 (講談社文庫)

「太郎さん。意地悪なこと、いうわねえ」


 さて、ゼミ2回目、始めよう。

結弦「こんにちわ」

若菜「お父さん! お母さんのこと、いじめちゃだめじゃないですか」

 オイオイ、私達、まだ、結婚してないよ。

若菜「なら、なおさら、いけません」

 いや、いじめてたわけじゃないんだ。青春を生き急ぐな、という話をしてたんだ。

結弦「青春って、僕たちには、まだ分かんないなあ」

「そうね。いずれ分かるわ」

若菜「前回は、『現代論理学』が、時間切れでした」

 じゃあ、『現代論理学』から、やろうか?

結弦「どうして、2冊並行なのですか?」

 これはねえ、麻友さん、お前達のお母さんから、以前、『手加減しないで!』という投稿で、私が考えてるとおりそのままを、説明してくれ、と言われてて、それを、実現するためなんだ。

結弦「お父さんが、考えてるとおりって、どういうことですか?」

 私が、数学を考えるとき、どういうものを、正しいと認めるか、全部オープンにするということだな。

結弦「オープンソースということですか?」

 難しい言葉、知ってるんだねぇ。

若菜「小学校入る前から、パソコン触っている世代ですから」

 私が、どういうものを正しいと認めるか、完全にオープンにするからね。

「始めてちょうだい」


 じゃあ、序から。



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            現代論理学

             安井邦夫


            世界思想社





              序

 論理学は今日、内容的にも方法的にも大きな変貌をとげ,哲学や数学基礎論といった原理的な学問領域においてのみでなく,情報理論,計算機科学,電子工学,数理言語学といった具体的,実際的な諸科学においても重要で不可欠な役割を演じている.ともすれば迂遠で非実際的な学問の典型のようにも見られる論理学であるが,それが一方で,こうした現代を象徴する諸科学に結びつき,その基礎を支えるものとなっているということは,何か示唆的で興味深いものを感じさせる.アリストテレス以来の古い伝統をもつ論理学は,一方ですぐれて今日的な学問と言うことができよう.

 本書は現代論理学における基本的なトピックをえらび,それを概説したもので,内容的には {\mathrm{G \ddot{o}del}}不完全性定理までを含んでいる.全体の構成については目次に見られるとおりであるが,概ね一般的と思われる形式にしたがっている.第Ⅰ章は全体への導入の章という意味をもち,トートロジーの体系,自然推論,公理系という,論理の体系を構成する際の三つの代表的な方法をとりあげ,それを命題論理という比較的単純な体系に即して例示するといった狙いをもつ.第Ⅱ章は同じ三つの方法により述語論理の体系を展開したものであり,{\mathrm{Gentzen}} 型述語算,{\mathrm{Hilbert}} 型述語算,恒真式の体系という,それぞれ特色ある体系がとりあげられる.とくに結びの節では述語算の完全性定理( {\mathrm{G \ddot{o}del}} の完全性定理)が証明され,こうした述語論理が,様々な理論体系のうちに現れる論理的推論を表現するのに十分なシステムであることが示される.そこで論理学の重要な応用の一つとして,述語論理を用いて種々の理論(とくに数学の諸理論)を形式化するということが考えられるが,第Ⅲ章ではその一例が示される.つまり,ここでは最も基礎的な理論として自然数論がえらばれ,それを形式的体系 {\mathrm{Z}} として展開することが試みられる.一方,こうした形式的数論と通常の直観的な数論との関連が問題となり,数論的関数(ないしは関係)のうち,どのようなものが {\mathrm{Z}} で表現可能となるかといった問題が生じるが,それに関連して第Ⅳ章では帰納的関数の理論が考察される.そして,この帰納的関数はまた,いわゆる計算の理論や決定問題においても基礎的な役割を果たす概念にほかならない.最後の第Ⅴ章では,以上をまとめるかたちで {\mathrm{G \ddot{o}del}}不完全性定理がとりあげられ,さらに決定問題や {\mathrm{Church}} のテーゼが考察される. {\mathrm{G \ddot{o}del}} の定理は直接には第Ⅲ章の自然数論(ないしはそれに準じる体系)の不完全性にかかわるものであるが,同時に論理学全般の原理的な問題に通じるような深い内容をもっており,結びの章でとりあげるのにふさわしい話題と言えよう.

 現代論理学におけるトピックとしては,このほかに,高階の述語論理,多値論理,様相論理,直観主義論理,公理的集合論といった項目があり,それぞれに重要で興味深い内容を含んでいるが,本書では紙数の関係もあり,これらは割愛した.機会があれば逐次補ってゆきたい.

 本書を刊行するに際して多くの方々の御支援を受けたが,とくに世界思想社編集部の久保民夫氏には終始お世話になった.記して厚く御礼を申し上げたい.

  1990年10月
                           著者


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結弦「解読できないほど、難しいね」

若菜「お父さん、良く読めるわね」

{\mathrm{G \ddot{o}del}} は、ゲーデル{\mathrm{Gentzen}} は、ゲンツェン、{\mathrm{Hilbert}} は、ヒルベルト{\mathrm{Church}} は、チャーチと読んでたわね。人の名前のようね」

結弦「人の名前の読み方は、どうやって調べてるんですか?」

 今の時代は、インターネットで、Wikipediaを見れば分かるけど、以前は、

日本数学会『数学辞典(第3版)』(岩波書店

岩波 数学辞典 第3版

岩波 数学辞典 第3版

や、

小松勇作『数学 英和・和英辞典』(共立出版

数学英和・和英辞典

数学英和・和英辞典

などや、読んでる本の分野の専門書で、調べたものだった。

 読み方を、盗めるという点でも、ゼミというのは、重要なんだ。

 私が、大学の4回生で、天体核物理学のゼミにいたとき、一般相対性理論に関係して、{\mathrm{Dicke}} という人がいるのね。それを、普通に、『ディッケ』と発音したら、チューターとして付いてくれていた、中尾憲一さんが、

『ディッケの正確な発音は、ディッキに近いらしいですね』

と、教えてくれた。

結弦「お母さん、4つ盗んだ!」

若菜「論理学って、ロジックですけど、論理的に正しいって、どういうとき言えるんですか?」

 いいこと聞くねぇ。まさに、その問いに答えを出すのが、この本の前半だよ。

若菜「じゃあ、今はまだ、分かってなくてもいいんですか?」

 そう。

 楽しみにしてて。

「それにしても、難しい言葉ばかりね」

 少し、そういうのにも、慣れてもらおうと思って、持ってきたんだ。

 大学レヴェルの数学の本のほとんどは、最初の15ページくらいが、ものすごく読みにくいことが、多い。

 そこを、通過すると、著者と呼吸も合ってきて、面白く読めるようになることが、多いんだ。

結弦「本を、渡してくれないんですか?」

 今回どうしようか、考え中なんだ。

「考え中って?」

 ガロアは、バンバン進めるけど、論理学は、ちょっとずつにしようと思ってる。

若菜「じゃあ、ガロアを、一所懸命読んでくればいいということですか?」

 そういうことだね。

 論理学の方は、読んで来てなくても分かるくらい、丁寧に説明する。

 そもそも、私、この安井邦夫さんの授業受けたことあるんだ。

 1990年10月の日付になってるだろう。

 私は、1991年4月に、京都大学に入学している。

 先生が、本を完成できたことを、喜んでいたと、友達から聞いて、翌年授業に顔を出した。

 26年前のことなんだなあ。

結弦「ガロアも、読んでなくても分かるくらい、丁寧にやって欲しいなぁ」

 分かったよ。

 じゃあ、今日は、解散。


「太郎さん。ファンクラブイベントの、曲のリクエスト、出してくれたみたいね」

 いつもは、他のファンの邪魔をしないように、と思って、要望とかリクエストとか、あまり出さないんだけど、今回は、高額のチケットを買って行くんだから、リクエストしてみようと思ったんだ。

「そうだったの。遠慮してたのね。考えてみるわ」

 じゃあ、暑いけど、気をつけて。

「太郎さんもね」

 バイバイ

「バイバイ」

 現在2018年7月13日21時00分である。おしまい。

数Ⅲ方式ガロアの理論と現代論理学(その3)

 現在2018年7月8日7時15分である。

「朝早くから、張り切ってる~」

 前置きが、長すぎると、挫折するから、一気にゼミ始めよう。

 若菜にもらったスマートフォンの電源を入れて。スピーカーから声を出す設定にしよう。

結弦「おはようございます」

 おはよう。

若菜「おはようございます。昨日の千葉県沖の地震は、大丈夫でしたか?」

「最大震度は、震度5弱だったけど、横浜は、震度3だったわ」

「お二人とも、おはよう」

結弦「僕たち、若いお母様や、若いお父様を、なんと呼んだらいいでしょう」

 私達も、『若菜』『結弦』と呼ぶから、『お母さん』『お父さん』としてしまったら、どうだろう。

若菜「お父さん。どんな、冒険をするのですか?」

「ああ、違和感ないわね。じゃあ、『お母さん』で、いいわ」


 それでは、早速なんだけどね。今回は、矢ヶ部巌(やかべ いわお)『数Ⅲ方式ガロアの理論』(現代数学社)という本を中心として、数学の冒険をしたいんだ。

結弦「『数Ⅲ』って、なんですか?」

「あっ、そうよ。結弦は、小学校6年生なのよ」

 そうだったね。この本の書かれた時代の高校では、1年生、2年生、3年生、と上がるにつれて、数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲと、名前が付いていた。

『数Ⅲ方式』

とは、高校3年生の教科書レヴェルで書いてある。という意味なんだよ。

結弦「じゃあ、僕は、6年分、飛び級ですね」

若菜「私も、4年分飛び級。すごい冒険に、なりそうですね」

「太郎さんが言うには、ゼミとかゼミナールという形式で、議論したら良いということなの」

若菜・結弦「Googleで、カチャカチャ『ゼミ』ポンッ。ゼミって、専門分野のゼミナールという意味と、『代々木ゼミナール』とか『進研ゼミ』という使い方がありますけど、前者ですね?」

 あっ、確かに、『早稲田ゼミナール』とかそういう使い方もあるな。そう、前者だよ。


 普通、大学で、ゼミをやる場合、途中で挫折することも考えて、問題の本を図書館で借りて、前半20ページ位を、人数分コピーするのが、よくある姿だ。

 だが、人間というものは、どうしても、先が知りたくなるもので、熱心な人ほど、その本自体を、購入することになる。

「太郎さん。私も、コピーでは嫌だわ」

 全員分、本、用意してある。

 特に、レポーターの麻友さんには、改めて新装版を、購入してある。

矢ヶ部巌『新装版 数Ⅲ方式ガロアの理論』(現代数学社

数III方式 ガロアの理論

数III方式 ガロアの理論

 若菜と結弦には、私と同じ旧版のこちらを、渡しておこう。

f:id:PASTORALE:20180708135937j:plain

若菜「内容は、同じなのですか?」

 誤植も、そのままなんだ。だから、私達で、誤植リスト作ろう。

結弦「内容が同じなら、古い版でもいいか」


 あらかじめ言っておくけど、数Ⅲ方式なんて言ってるけど、この本は高校3年生には難し過ぎるほど難しい。

 ゼミという形式を取るのだから、気になったところがあったら、バンバン質問して欲しい。

 分からないところだけでなく、

『これで、いいんだよね』

という発言も、歓迎する。

結弦「レポーターは、お母さんだけなの?」

 実は、小学生の結弦と、中学生の若菜には、これを読むことすら、無理に思える。

 それから、私が、レポーターをやらないのは、3人に、論理のトレーニングをするために、『現代論理学』という本のレポーターをするためだ。

若菜「論理学って、ロジックでしょ。2042年の世界では、面白い教材がいっぱいあって、みんな楽しんでるのよ」

 昔は、大学では、論理学、心理学、倫理学、と、哲学は、単位を取るのが難しいから、科目登録しない方がいい。

『三理一哲は、取るな』

なんていう言葉も、あったほど。

 時代は、変わったなあ。

 『現代論理学』は、この本ね。

安井邦夫『現代論理学』(世界思想社

現代論理学

現代論理学

「じゃあ、太郎さんの本を借りて、私が読んできたところを、レポーターとして、やってみるわ」

「太郎さん、ものすごく書き込みがあるわね。一体何回読んだの?」

 2回は、通読している。

 読み始めるのは、14回目かな?

結弦「うわー」

「じゃあ、はしがきから始めるわね」



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 数Ⅲ方式ガロアの理論

 アイデアの変遷を追って


  矢ヶ部 巌


  現代数学社






  はしがき

 活きてる数学を,死んだ教科書で封じ込めちゃ,助からない──この本を貫くスローガンである.

「建築が落成した後に足場が残るようでは見っともない」と,ガウスはいう.積極的に足場を見せ,どのように建築されたかを再現しよう,というのが,この本の立脚点なのである.

 この本の内容は,雑誌『現代数学』で連載したものに筆を加え,新しく二つの話題を付け加えたものである.この連載は,九州大学における《一般数学》の講義が基となっている.だから,予備知識としては,高校の数Ⅱまでしか,仮定していない.

 代数方程式に関する,ガロアの理論を主題とする.ガロアは,どのようにして彼の理論を建設したのか──それを演出してみよう,というものである.

 3次方程式・4次方程式の根の公式にさかのぼり,ラグランジュの思想へと到達する.そこから,ルフィニ=アーベルの結果,すなわち,「5次以上の方程式には、代数的解法による,根の公式は存在しない」という歴史的な業績へと導かれる.

 根の公式は存在しないが,具体的に係数を与えると,代数的に解けるものはある.そこで,複素係数方程式の代数的可解性を,どのように判定するか,が問題となる.その判定法を,ガロアは達成する.それが,ガロアの理論である.

 ガロアの理論は,彼以前の方程式論の集大成の上に立つもので,とくに,ラグランジュの理論の類比として得られること,を明らかにする.

 ガロアの理論は、デデキントの手を経て,現在の「ガロア理論」へと成長する.その様を,最後の話題として,取り上げている.

 可能な限り,原典にあたっている.それらの論文には「足場」は残されていない.演出者が代われば,別のドラマが展開されよう.著者の意図が,どの程度まで成功しているかは,大方の批判を待つしかない.

 現代数学社の方々には,大変にお世話になった.心から,お礼を申し述べたい.

  1976年1月
                            矢ヶ部 巌




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「とりあえず、読んでみたけど、太郎さんが、『封じ込めちゃ,助からない』に、『封(ふう)じ込(こ)めちゃ,助からない』と、ふりがなを振ってるわね」

 読み方を辞書で確かめた字には、ふりがなを振っているんだ。

結弦「建築とか、足場って?」

「私も、何言ってるか、良く分からないのよ。数学の話なのにね」

 それは、この本のメインテーマなんだよ。

 読んでいくうちに、分かってくると思う。

「太郎さんが、『新しく二つの話題を付け加えた』というところに、

『どの二つだろう』

と、疑問を呈してるわね。

 これは、確認が取れなかったんだ。

『現代数学』という雑誌は、1968年5月に発刊されてるんだけど、横浜市の図書館にそんな古いバックナンバーは、なかったんだ。

 大学の図書館にでも行かないとね。

若菜「ルフィニ=アーベルという人が、5次以上の方程式に、代数的解法による根の公式はない、ということを、証明したの?」

「読んでいくと、分かるけど、ルフィニという人と、アーベルという人が、いたらしいの」

 おっ、準備してきたな。

 そういう風に、自分の疑問点や、聴衆が疑問に思いそうなところを、できる限り、調べてきて。

結弦「今日は、はしがき、だけですか?」

 あまり、最初から飛ばすと、息切れするからな。そんなところで、止めておこうか。

若菜「あっ、原典って、何ですか?」

 この場合、著者の矢ヶ部巌さんが、出てくるひとつひとつの定理の、最初にその定理の発見を報告した論文や本を、実際に読んでいる、ということなんだ。

若菜「それって、当たり前じゃないんですか?」

 普通数学者だって、教科書などで勉強する。元の論文で勉強するなんてのは、最先端のことの場合だけだ。19世紀のガロア理論の原論文を読むなんて、矢ヶ部巌さんはやる気があるね。

若菜「そういうことですか」

結弦「次は、『現代論理学』?」

 時間になっちゃった。今日は、許して。

「太郎さん。この試み、上手く行くかしらね」

 継続できるかどうかに、すべてがかかっている。

 じゃあ、今日は、解散。

結弦「バイバイ」

若菜「またね」

 スマートフォン止めてと。

「不思議な雰囲気になったわね。どうして、こんな形で、数学の冒険思い切って始めたの?」

 つい最近、『まゆゆきりん「往復書簡」』の8通目で、


 (ゆきりんの)羨ましいと思うところ?

 そうだなぁ。

 先輩との壁はあったけど、後輩とはその壁を取り払って、オープンにしているところかな。羨ましいっていうか、わたしにはできないから。

 向こうから距離を縮めてくれない後輩とは、どこまでいっても、その距離は変わらぬままで・・・・・・。

 それはそれで、やりにくさを感じているんだけど、でも、こればっかりは、どうにもならない。

 わたしはそういう性格なので・・・・・・。


と、書いているのに気付いた。

『太郎さんも、自分から私との距離を縮めてくれないと、距離は変わらぬままよ』

とも取れるなと思った。

 それでかな。

「私、太郎さんには、近づこうとしてる」

 分かってるよ。

 今日は、もう寝よ。

「おやすみ、太郎さん」

 おやすみ、麻友さん。

 現在2018年7月9日1時54分である。おしまい。