女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。

整数環(その5)

 現在2018年4月7日15時06分である。

 麻友さん、昨日のダブミーのブログ読んだよ。

「私、忙しくて、本当に、余裕ないの」

 『アメリ』の準備で、大変なのは、分かる。

 5月から6月にかけて、渡辺麻友の名が、世の中に通るかどうかの勝負所なのは、確かだ。

 私からのオファーに、応えるかどうかは、『アメリ』が、完全に終わってから、返事をくれるので、もちろんいい。

「2カ月先まで、待ってくれる?」

 今まで、3年間待ったんだよ、2カ月くらい、どうってことないよ。

「あっ、3年前の今日ね」

 そう。私が、クロード・モネの『日傘をさす女』の前に、麻友さんを立たせて、写真を撮ったのを、ブログに張り、『ファンになった理由を書きました』と、URLをツイートしたのは、2015年4月7日21時36分。

「3年かー。そういえば、太郎さんが、冷蔵庫に2本だけ、取ってあるなんて書いたから、本当に、ワンダエクストショットなくなっちゃったわね」

 あれは、アサヒ飲料に、無理させないように、宣言したんだよね。

「無理って?」

 売れないもの、作り続けさせちゃ、悪いと思って。

「ほんと、正直っていうか、太郎さんは、自分が損させられることなんて、ないと思ってるのね」

 麻友さんの1月27日のフジテレビネクストの番組で、根本宗子(ねもと しゅうこ)さんとの対談で、

『すっごい運がいい人の役で、運が余りにも良すぎて、なんか毎回勧誘とかにあって、なんかお金とか払っちゃうけど、運がいいから絶対戻ってきて、悪いことにあったと思ってない。というような、コメディも、やってみて欲しい』

って、言われてたよね。

「太郎さん。本当に、スカパーに、お試しで入って、見てくれてたのね」

 スカパーの番組は、録画規制がかかっているから、ダビング10が、できないのね。だから、『麻友』のブルーレイ1枚にだけ、きちんと録画してある。

「私、あの取材の時、『お姫様の役ができる人少ないですから』なんて言われて、舞い上がっちゃって・・・」

 私、あの時、ふたりを見比べていて、麻友さんものすごく、手を振り回すなぁ、と気付いた。

「あっ、身振り手振りで話すってこと?」

 そう。

 実は、私も、そうなんだ。

 数学の話し始めると、手を振り回す。

 女の人と、男の人、ってことで、共通点って、なかなかなかったんだけど、やっとひとつ見つけたな。

「とんでもないこと、言い出すわね。それにしても、全部、プラスに考えるのね」


 今日は、マイナスの話。つまり、引き算の話をしようと思ってたんだけどね。

「『安浪京子VS松田太郎』の3回目ね。引き算で、どんな話ができるの?」

の本で、例えば、{8-6=} ならば、簡単だよね。

「もちろん、{8-6=2} よね」

 そう。

 これを、間違えるようじゃ、先に進めない。

 次に、{18-6=} というのは、どうだろう。

「これも、{18-6=12} となるのは、常識ね」

 うん。

 そこで、ちょっと、変化球。

 {12-7=}

というのは?

「ああ、繰り下がりの計算ね。でも、12から7を引いたら、5というのは、当たり前じゃないかしら?」

 そうか、特待生は、ここまで、常識になっているか。

 じゃあ、

 {51-3=}

としてみたら?

「段々、変化が、激しくなってくるわね。まず、51の1のくらいが、1で、3より小さいから、引けないのよね」

「こういう場合、10のくらいから、10をひとつ、借りてくるのよね。そうして、{10+1=11} から、{3} を引く」

{11-3=8} だから、1のくらいに、8がたつ。そして、10をひとつ借りてきているから、10のくらいは、4になる」

「よって、{51-3=48} となる」

 模範解答だね。

「太郎さん、これにいちゃもんつける気?」

 いちゃもんつけるつもり。

「えー、こんなのに、どうやって?」

 私が、小学校3年生の12月から、公文に通っていた、という話は、したよね。

「そうだったわね。お父様が、『たのしい算数』のクイズを続けるのが、困難になって、専門家に任せるといったのよね」

 そう。

 公文というのは、ひたすら問題を解いて、計算を空気のようにできるようになるのが、目標。

「空気のように?」

 数学の女王と、私達が呼んでいるオイラーは、

オイラーは、人が呼吸するように、またワシが風に身を任せるように、はた目には何の苦労もなく計算をした』

と言われた人で、公文もこれを、目指す。

「でも、太郎さんは、ちっとも計算が、速くならなかったのよね」

 その理由を、解明するんだ。

「理由?」

 数学の計算で、{51-3=48} のような計算をしなければならないことは、非常に多い。

 私は、公文で、このような計算をしているうちに、ある法則に気付いた。

「えっ、どんな?」

 1のくらいの1と3を見たとき、そこから8を思いつく、法則。

「全部の組み合わせ、この場合だったら、10かける10で、100通り、全部暗記したの?」

 オイラーなら、やったかも知れないけど、私は、覚えることは極力少なくが、モットーだ。

「じゃあ、どうするの?」

 51の1のくらいの1から、3を引こうとするから、難しいんだ。

 私は、3から1を引いた。

「そんなことして、意味があるの?」

 3から1を引くと、2だ。

「当たり前じゃない」

 あわてるな。この2を、10から引いてごらん。

「えっ、{10-2=8} だけど」

 その8、どこかで見なかった?

「エッ、計算結果の48の8。ウソッ、偶然よ」

 私も、最初、偶然だと思った。

 だが、公文で、引き算をするたびに、これを、試していて、1度として、失敗したことはない。

「ちょっと待って。じゃあ、

 352
- 89
____

というのは、どうやるの?」

 まず、9から2を引く。7だ。これを、10から引く。すると、3だ。だから、1のくらいは、3だ。

 352
- 89
____
   3

 次は、8から5を引きたくなるだろうが、私は、繰り上がりや繰り下がりの1は、書かない主義だった。

 2より大きな9を引いたのだから、5からひとつ10が引かれていることを思い出し、10のくらいは4から8を引く。

 さっきの法則を使い、まず、8から4を引く。4だ。これを、10から引く。すると、6だ。だから、10のくらいは、6だ。

 352
- 89
____
  63

 10のくらいの計算で、3からひとつ100が引かれていることを思い出し、100のくらいは、2だと分かる。

 352
- 89
____
 263

「うわー。何よこれ。太郎さん、こんな必殺技、使ってるの? 太郎さん、引き算、ものすごく速いんでしょ」

 小学生の、まだ引き算、習いたての子よりは、速いけど、普通の人よりのろいよ。

「どうして?」

 私、引き算するとき、上より下の方が大きいときは、必ずこの方法使うけど、使った後、本当に大丈夫かな? って、普通の人と同じように上の桁から10借りてきてという計算をしてみて、ああ合ってるな、と確認するから、逆に他の人よりのろい。

「どうして、そんな、もったいないことするの? 太郎さん、本当なら、ものすごく計算速いはずなのに」

 正確さのためだよ。

「正確さ?」

 二通りの方法で、同じ答えが出たのなら、信頼できる。

「そんな、・・・。太郎さんは、実際には、どういう風に唱えてるの?」

 声には出さないけど、

 352
- 89
____
 263

の場合だったら、

『9 2 7 3 で、3』

『8 4 4 6 で、6』

というように、口ずさんでいる。

「『9 2 7 3』というのは?」

 『9 2』と、下から、読み上げて、9から2を引く。そうすると、7だよね。

 次に、10から7を引くところを思い浮かべて、3というわけ。

 口ずさんでるとおり書くと、

『きゅう、にー、なな、さん』

と言って、3を、解答欄に書く。上の桁も同じ。

「ちょっと待って、こういう場合どうするの?

 470
-  3
____

計算できる?」

 大丈夫だよ。

『3 0 3 7』とやって、1のくらいは7。上の桁から10引くことだけ、忘れなきゃいいんだ。

「じゃあ、

 108
-  6
____

は?」

 あはは、ひっかけようというの?

 上の方が、下より大きいときは、普通に、引き算していいんだよ。

 108
-  6
____
 102

 臨機応変にね。

「ウウッ、どうして、みんな太郎さんのような方法に気付かなかったのかしら?」

 気付いてるよ。

「いつもの太郎さんの、計算の得意な数学者は気付いてた?」

 いや、そういうことじゃなくて、そろばんって、これを利用して、計算してるんだよ。

「そろばん? 太郎さん、そろばんできるの?」

 いや、できないけどね。以前、お茶の水女子大卒で、東京大学大学院の工学部の修士にいた、さっちゃんという人に、この話をしたら、その人のお母様が、そろばんで同じことやってるって、教わったんだ。

「さっちゃん? 幼稚園の時の?」

 いや、別な人だよ。

 麻友さんの精神衛生上言っておくけど、ガールフレンドじゃないからね。その人には、彼氏がいたし。

「ほんっと、太郎さんの女の人好きは、どうしようもないわねぇ。それで、いつもの流れだと、この後、集合論とか出てくるんだけど」


 麻友さんと私は、自然数というものを作って、次に整数を作ったのだった。

「『1から始める数学』の最後のところね。あそこは、きちんと、定義をしなかった」

 少し、復習しようか。

「まず、座標を使い始めたのよね」

 そう。

 じゃあ、座標の定義から始めようか。



 定義 26 座標

 {A,B} を自然数とするとき、

 {(A,B)}

のように、括弧(かっこ)でくくって、2つの自然数を書いたものを、自然数に値(あたい)をとる座標(ざひょう)という。

 {(A,B)=(C,D)}

の時には、

 {A=C かつ B=D}

が成り立っているものと、約束する。

 定義 26 終わり



「『成り立っているものと、約束する』というのは?」

 つまり、{A=C かつ B=D} の場合以外は、{(A,B)=(C,D)} と書いてはいけないということだよ。

「なんか、当たり前ね」

 当たり前と思うことは、覚えなくていい。

「次は、傾き1の直線よね」

 それを、やるためには、どうしても、自然数全部の集合を、とらえなくてはならない。

自然数全部の集合って、考えちゃいけないの?」

 いけないかどうか、というより、問題なのは、自然数全部の集まりが、集合になるかという問題なんだ。

「そりゃ、集まりなんだから、集合でしょ」

 大学へ入学したての頃は、私もそうだった。

 若々しくて、いいねぇ。

 じゃあ、とりあえず、自然数全部の集まりは、集合だ。



 公理 27

 自然数全部の集まり、

{\mathbb{N}=\{X|\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) \} }

は、集合である。

 公理 27 終わり




「公理にしちゃうの?」

 だって、証明できないだろ。

「そういうものかしら?」

 私達は、とりあえず今、これが成り立っていることが、どうしても必要だが、証明はさしあたってできない、というとき、それをとりあえず、公理として取り入れ、後でそれが定理として証明できれば、その公理は、必要なかったとして、取り除くという立場を取る。

「で、なんか自然数なら、natural number で、{\mathbb{N}} っていうのも分かるけど、右辺のだらだらっというのは、何?」

 これ、自然数の集合のきちんとした表し方なんだ。

「どう読むの?」

 まず、

{\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) }

を、切り出し、さらに、その括弧の中を見ると、

{1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)}

と、なっている。

{\wedge}

というのは、『かつ』という記号だ。だから、{1 \in Y} かつ {\forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)} が、成り立つというわけだ。

「つまり、{Y} には、{1} が入っていて、全部の {Z} について、{Z \in Y} ならば、{Z+1 \in Y} が、成り立つということ」

「あっ、そうか。1が入ってて、1が入ってれば、1+1も入ってて、1+1が入ってれば、1+1+1も入ってて、というように、自然数全部が、入ってることになるのか」

 実は、細工はそれだけではない。

「他に何か?」

 {Y} についての条件は、 {\forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y)} だから、いきなり誰かが、{Y} に、{\pi} も加えろといって、加えた場合、{\{\pi ,\pi+1,\pi+2,\pi+3, \cdots \}} というのも加えると、条件を満たしてしまう。

「あっ、そんな無茶な」

 無茶でも、可能だ。

「でも、自然数に、そんなのが入ると困る」

 そこで、

{\mathbb{N}=\{X|\forall Y(1 \in Y \wedge \forall Z(Z \in Y \Rightarrow Z+1 \in Y) \Rightarrow X \in Y) \} }

では、外側に、{\forall Y (\cdots  \Rightarrow X \in Y)} というのがある。

 {\mathbb{N}} の元、{X} というのは、1を含んでいて、その中の元に1足した元を含んでいるような集合を、{Y} とするとき、すべての {Y} に含まれているような元だけである。

となる。

「つまり、全部の、{Y} の可能性の共通な部分ということかしら?」

 そういうことだね。

 集合論の、『{\forall} (エニ)』や、『{\in} (要素)』や、『{\Rightarrow} (ならば)』など、良く覚えていたね。

「太郎さん、手加減しないものね」


 さて、自然数の集合を考えることで、傾き1の直線上の点を、表したいのだった。

 麻友さんには、もうできるよ。

「じゃあ、例えば、{(3,1)}{(4,2)}{(5,3)},・・・、という線だったら」

{\{(X+2,X)|X \in \mathbb{N}\}} という感じかしら」

 素晴らしいねぇ。

「私達は、この集合を、整数の2として、扱うのよね」

 そうだ。

 一気に、定義を書くと、



 定義 28 正の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X+n,X)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数の {n} と呼び、混乱の恐れのないときは、これも、{n} と書く。

 定義 28 終わり



「一応、聞いておきたいんだけど、集合を表す、{\{\ |\cdots \} } というのは、{\cdots} の部分に条件を書いて、その条件を満たす、{X} とかなんかの集合という意味よね」

 良く分かっているね。

 条件が、具体的なときは、分かるけど、抽象的になると、分からなくなる、という声は、よく耳にする。

 例えば、

{\{x|3 \leqq x \leqq 5\} }

という集合は、3以上5以下の数の集合だ。

「それは、自然数で、考えてるの? それとも実数?」

 おー、特待生の冴え、バッチリじゃない。

 実は、上の書き方では、自然数なのか実数なのか、はたまた有理数なのか、曖昧なんだ。

 実数の場合には、正確には、

{ \{ x \in \mathbb{R} | 3 \leqq x \leqq 5 \} }

とするか、

{ \{x| x \in \mathbb{R} \wedge (3 \leqq x \leqq 5) \} }

としなければ、ならない。

「正解が、2つあったりして、いいの?」

 数学も、このレヴェルになると、正解が何通りもある、なんてのが、ざらにある。

 あまり、神経質にならないで。


「ところで、座標と言っているのに、前回のように、座標が表す平面が、出てこないわね」

 あっ、そうだね。実は、あの平面に相当するのは、座標 {(A,B)} の {A} と {B} に、自然数の全部の組み合わせを入れたものなんだ。それを、自然数全部の集合 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)という。



 定義 29 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)

{\mathbb{N \times N}:= \{(m,n)|m \in \mathbb{N} \wedge n \in \mathbb{N} \} }

と、定義して、左辺を、自然数 {\mathbb{N}} の直積(ちょくせき)という。{\mathbb{N}^2} とも書く。

 定義 29 終わり



 この前の写真を持ってくると、

f:id:PASTORALE:20160908001508j:plain


f:id:PASTORALE:20160909231249j:plain


f:id:PASTORALE:20160910000807j:plain


などだね。

「まだ、ゼロを定義してない」

 そうだ、そうだ。



 定義 30 整数のゼロ

 以下の集合を、整数のゼロと呼ぶ。

{0:=\{ (X,X) |X \in \mathbb{N} \}}

 定義 30 終わり



「まだ聞いてなかったと思うんだけど、{:=} というのは、左辺を右辺が表すもので定義するという記号?」

 そう。

 分かってるじゃん。

「高校までだと、これをどう表したらいいんだろう、みたいに思ってたものが、集合論の記号を使うと、少しクリアーになるわね」

 そのために、麻友さんを、公理的集合論の門くぐらせてあげた。

「じゃあ、やってみるわよ」

「負の整数の定義、



 定義 31 負の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X,X+n)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数のマイナスエヌと呼び、混乱の恐れのないときは、これを、{-n} と書く。

 定義 31 終わり



どうかしら?」

 一応、整数の定義は、できたね。

 でも、足し算ができなきゃ、何にもならない。

「あっ、そうだったわね。こんな集合を、整数にしたのは、これだと足し算の定義が、ウェルデファインドになるからだった」

 良く覚えてたね。

「これだと、足し算が、簡単なのよ。




 定義 32 整数の加法

{(X,\cdots}


 上手く書けないわ」

 うん。麻友さんの語彙では、それは、無理だね。

 あの時、言葉だけ教えた、『同値類(どうちるい)』という概念を使わないと、書けない。

 まず、自然数の直積、{\mathbb{N \times N}} のうち、例えば、{(4,2)} という座標の点は、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } という集合に属している。そして、同時に2つのこういう集合に属していると言うことはないね。

「傾き1の直線が交わることはないから、確かにそうね」

 そういうとき、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } のような集合のひとつひとつを、同値類と言って、{(4,2)} は、{ \{ (3,1),(4,2),(5,3),\cdots \} } の同値類に属すという。

 そして、これが重要なんだけど、{(4,2)} の属す同値類のことを、大括弧でくくって、{[(4,2)]} と、表すんだ。

「代表だけで、全体を、表しちゃうの?」

 これはねぇ、最初は、すっごく気持ち悪いと思う。

 私も、大学に入学したばかりの頃、川口周君の『代数概論』のゼミに出ていて、どうしても分からず、困っていたとき、川口君が、

{\mathbb{Z}/n \mathbb{Z}} というのは、{ \{ \overline{0},\overline{1},\overline{2},\cdots,\overline{n-1} \} } みたいなものなんですよ』

と、書いてくれて、

『ああ、代表だけ取ってきたようなものですか』

と、分かったというわけなんだ。

「太郎さんでも、分からなかったのなら、安心ね」

 これは、実際に使ってみると、納得できるんだ。

 麻友さんが、書きかけた、加法の定義を書こう。



 定義 32 整数の加法

 2つの整数、{[(A,B)]} と {[(C,D)]} に対し、それらの和を、

{[(A,B)]+[(C,D)]:=[(A+C,B+D)]}

によって、定義する。これを求める算法を、加法という。

 定義 32 終わり



「ここまでくると、何が定義なのか、分からないわ」

 {A} や、{B} に、実際に、数字を入れてみれば、いいんだよ。

{[(7,2)]+[(3,6)]=[(7+3,2+6)]} としてみたわ」

「左辺は、5と-3だわね。だとすると、足して2になればいい」

「右辺は、{[(10,8)]} だから、おっ、確かに2になってる。ウェルデファインドの霊験あらたか」

 ほらね。具体的に数字を入れると、分かるんだ。

「でも、さっきは、ひとつの代表で、計算したでしょ、他の代表だったら、同じ答えになったのかしら?」

 特待生は、そういう質問しなきゃね。

 まず、同じ集合の代表だと、どういう共通点がある?

「正の整数でも負の整数でも、座標の前と後ろに同じ数が足してあると、共通の集合のはずなのよね。例えば、



 例 ***************************

 定義 28 正の整数

 {n \in \mathbb{N}} を、自然数とするとき、集合、

{\{(X+n,X)|X \in \mathbb{N}\}}

を、整数の {n} と呼び、混乱の恐れのないときは、これも、{n} と書く。

 定義 28 終わり

 *****************************



というのでも、そうなってる」

 そうだ。

 だから、他の代表に代えると言うことは、座標の前と後ろに、同じ数を足すか、座標の前と後ろから、同じ数を引くということだ。

「そっか、そっか、他の代表に代えたとき、例えば、座標の前と後ろから、3引いたのなら、2つの整数を足した結果の座標でも、前と後ろから、3ずつ引かれてるんだ。だから、結果の数自体は、変化しないんだ」

 良く分かったね。そうなるように、うまく仕組んであったんだよ。


「今日は、引き算の話だったけど」

 最後に、整数の引き算を、定義しよう。

「もう、簡単ね」

「まず、プラス、マイナスを反転させることを、定義しなきゃね。



 定義 33 マイナス

 整数、{n=[(A,B)]} に対し、

{-n:=[(B,A)]}

によって、マイナスエヌを定義する。

 定義 33 終わり



 これで、いいわね」

 マイナス1をかけた数を、数学では『加法の逆元』という。

「かほうのぎゃくげん?」

 そう。だから、{-n} は、{n} の加法の逆元だ。

「そうすると、




 定義 34 減法

 整数 {m,n} に対し、

{m-n:=m+(-n)}

を、エム引くエヌといい、この演算を減法という。引き算ともいう。

 定義 34 終わり




 この場合も、引き算がウェルデファインドかどうか、確かめなければダメ?」

 加法の逆元が、ちゃんと定まることだけチェックすればいい。

「どうして?」

 だって、麻友さん、もうウェルデファインドであること、確かめてある、足し算使って、引き算を定義したから。

「あっ、そうか」

 小学校では、{4-8=} など、計算できない引き算もあった。

 だが、私達は、0を作るとき、同時に整数全体も作った。

 計算できないことはない。

「整数全体は、なんと表すの?」

 {Z} と、表すんだけど、これは、昔、『解析入門Ⅰ』の問題解いていたとき話したように、ドイツ語のZahlen(数)から、来ている。

「あの『解析入門Ⅰ』の問題、まだ解いてないわよ」

 うん。そろそろ、麻友さんに説明できるかなあ。

「聞くところによると、ものすごい難しい問題だったそうじゃない」

 高校生には、難しいけど、数学の中で、めちゃくちゃ難しい問題ではない。

「じゃあ、そのうちやってね」

 もちろん。

「それにしても、今日の引き算は、びっくりよ」

 これも、一度書いてみたい話題だったんだ。

「『安浪京子VS松田太郎』は、まだあるの?」

 あと、もう1回、小数のかけ算をやろうと思ってる。

「今日は、長かったわね」

 3日くらい書きためたから。

「ちゃんと、寝てる?」

 薬を飲む理由が分かったから、ちゃんと飲んで寝てる。

「太郎さんと、授業の動画作るの、楽しみにしてるわよ」

 こちらこそ。

「おやすみ」

 おやすみ。

 現在2018年4月9日21時28分である。おしまい。

整数環(その4)

 現在2018年2月6日12時47分である。

 『安浪京子VS松田太郎』の2回目だよ。

「太郎さん。インスタグラム、始めたのよ」

 うん。今、ツイッター、チェックして気付いた。

「インスタグラムで、新しい記事のURLをコメントすると、他の人にもクリックされちゃうわね」

 もう、麻友さんからのクリックをカウントするのは、やめるよ。

 だって、麻友さんが、私のブログを見てるのは、ほとんど確かだもん。


「それで、小学校の計算は?」

 3桁の数の足し算に進む。

『計算の教え方』の本での話題だけど、『AKB48小学算数』から、問題を持ってこよう。

 第1番

AKB48劇場のお客さんは,おとといが248人,昨日が241人,今日が239人でした。3日間合計は何人ですか?


 麻友さんなら、どう計算する?

「まず、

  248
 +241
_____
  489

次に、

  489
 +239
_____
  728

とやって、答えのところに、728人、と、書くわ」

 合格だね。

 ただ、安浪京子さんは、下の桁から繰り上がりがあったとき、小さく1を書いて、計算すると良い、と書いている。

「あっ、それは、そうよ。私も1を書くようにしてる。パソコンだから、書けなかったの」

 そうなのか。

 私は、繰り上がりしたときは、覚えておいて、あえて1を書かないんだ。

 これには、小学校の時の授業風景が、重なる。

「どういうこと?」

 私が、小学校2年生の時、先生に当てられて、前に出て黒板でこういう計算を、書いたんだ。

 そうしたら、先生が、

『一カ所間違ってますね。繰り上がりの1が、書いてありません』

と言ったのだ。

 自分の計算に自信のあった私は、それ以来、

『絶対に1を書かないぞ』

と誓って、今日に至っている。

「あっはっは、太郎さん、根に持つタイプなのね。振ったら、一生恨まれそう(恐)」

 いや、それは、冗談じゃなく、恨むよ。

 あっ、恨むって言うか、悲しいというか、そんなこと、起こらないよね。

「どうだか。それで、太郎さんの解答は?」

 AKB48小学算数のその問題を、私は、暗算でやって、答えだけ書いている。

「そんなの模範解答じゃないわよ」

 よく、『数学のできる人の答案ほど省略が多い』、と言われるよね。

 ちょっと話は飛躍するけど、麻友さん因数分解って、得意だった?

「高校の初め頃に、出てくるのよね。公式が多いから、苦手だった」

 そうか。高校の数学で、つまずく最初の石なんだろうな。

 実は、大学受験を描いた、林真理子の『下流の宴』という小説があるんだけどね。その中に、因数分解の話が出てくるんだ。

下流の宴 (文春文庫)

下流の宴 (文春文庫)

「どんな風に、出てくるの?」

 第十章にね、


 珠緒は今、因数分解をしている。

{6x^2+11xy+4y^2}

 これはまず{y}を取り除いて考えていくのだ。

{6x^2+11x+4}」を、

{(3x+4)(2x+1)}」にし、最後に{y}をつけ加えていく。



下流の宴』単行本306ページより、数式を{\TeX}で打ったことのみ異なる。



とあるんだ。

 これ読んだとき、笑っちゃった。

「えっ、でも定石通りよ?」

 そりゃ、最初は、そう習うのかも知れないけど、すぐに、

{6x^2+11xy+4y^2=(2x+~~)(3x+~~)}

{6x^2+11xy+4y^2=(2x+y)(3x+4y)}

というように、穴埋め問題のようにして、1行で解けるじゃない。

「だって、太郎さんだって、2行、書いてるじゃない」

 私は、あらかじめ上の式のように、空白を残しておいて、暗算でそこに入るものを計算して、そこを埋めるから、計算は1行なんだよ。

「そんなの減点されない?」

 実際、減点されたことある。

 京都から戻ってきた後、東京大学受けるって言って、Z会やってたって言ったでしょう。

「3回、受験した話は、聞いたわ」

 その時、こんな因数分解の問題があった。

{2x^2-5xy-3y^2+x+11y-6=}

 解ける?

「あー、これ、一番いやなタイプだわ。こうやるのよ。

 まず、{x}でそろえるのよ。

{2x^2+x(-5y+1)-3y^2+11y-6}

 次に、{y}で、因数分解する。

{2x^2+x(-5y+1)+(-3y+2)(y-3)}

 ここからが、大変なのよ。{2x}{x}の組と、{-3y+2}{y-3}の組を、たすきがけっていうのやって、

{x~~~~~~~~~~~~~~~~-3y+2~~~~~\Rightarrow ~~~~x(-6y+4)}
   ✕             +
{2x~~~~~~~~~~~~~~~~~~~y-3~~~~~~\Rightarrow ~~~~~x(y-3)}

{~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x(-5y+1)}

と、ピタッと決めるのよ。そうすれば、

{2x^2-5xy-3y^2+x+11y-6=\{x+(-3y+2)\}\{2x+(y-3)\}}
{~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~=(x-3y+2)(2x+y-3)}

と、因数分解できるのよ」

 さすが、特待生だねぇ。解けるんだ。

「これは、疲れるから、余りやりたくないのよ。でも、配点が高いから、一問解くと、大きいのよね」

 Z会でさあ、この因数分解、暗算でやって、一発で答え書いたら、

『途中式を書きなさい』

って言って、5点くらい、減点された。

「暗算でできるわけないじゃないの、こんなもの! 本当は、どこかで、計算したんでしょ!」

 朝日新聞の星5つの数独くらいなら、まったく消しゴムを使わず、可能性を書き上げもせずに、1時間くらいで、きれいに解けるのと同じように、私には、因数分解できるんだ。

「どうやるのか見てるから、ちょっとやりなさいよ」

 やってみせようか。

{2x^2-5xy-3y^2+x+11y-6=}

だね。

 まず、解答欄に、括弧を2組書く。あいだは、かなり空けて。

{(~~~~~~~~~~~~~~~~~~)(~~~~~~~~~~~~~~~~~)}

 次に、2次の式の部分を因数分解する。

{2x^2-5xy-3y^2}

の部分。この部分が2通りに因数分解できるときは、後のことを良く考える。でも、ここが2通りに分かれる問題は滅多にない。

 問題文をにらみながら、

{(2x~~~~~~~~~~~~~~~~)(~~~~~~~~~~~~~~~~~~)}

と書く。

 頭を使いながら、

{(2x+y~~~~~~~~~)(x-3y~~~~~~~~~)}

と書く。

 後は、定数をどう分けるか。

 やってることは、たすきがけみたいだけど、分解するのは、ただの{-6}だから、ちょっと頭を回転させて、

{x}{11y}になるように、{-2}{3}かな?{2}{-3}かな?{1}{-6}かな?と、試して行けば、

{(2x+y-3)(x-3y+2)}

と、周りで計算しなくても、暗算で、できる。

「ウッ、本当に、暗算で、できる。信じられない。トライ式高等学院の一番優秀な先生も、こんな技、教えてくれなかった」

 それは、そうだよ。だって、横浜翠嵐高校で、この解き方したとき、京都大学の大学院の博士課程出てる数学の先生が、

『こんな解き方が、自分で思い浮かぶのか?』

と聞いてきたので、

『はい』

と言ったら、

『危険だな』

と言ってたくらいだもの。

「エッ、そんなレヴェルなの? 太郎さん、本当に、思い浮かんだの? いつなの?」

 この方法は、中学3年の時、思い浮かんだんだ。というより、実は、私は、この問題は、私がやったようにして解くものだと、思ってたんだよね。

「なんで、中学3年で?」

 私、数学を、ものすごく、自分のペースで、勉強してきたんだ。

 例えば、天体望遠鏡のレンズの倍率を知りたいから、入射光と屈折して入っていく光の角度を知りたくて、そのために光学の本を見たら、

{\displaystyle n=\frac{\sin{\theta_i}}{\sin{\theta_r}}}

みたいな式が、書いてあって、母に、

『なぜこのシンっていうのは、約分できないの?』

と聞いたけど、

『そのうち、習うわよ』

と、教えてくれなかったので、色々調べた。

 そのうち、三角関数というものだと分かったけど、例えば、60度とかじゃなくて、37度みたいな角度のサインが、どうやって求められるのか、知りたくなった。

 そんな中学3年生のある日、本屋さんで、高校1年生向けの、数学の問題集を、見つけたんだ。

 薄い問題集だったけど、高校の問題集だから、三角関数の加法定理とか、余弦定理とか、載ってるわけ。

 それを見た私は、この問題集やっていけば、37度のサインの値とか、求められるんじゃないか?と、期待したわけ。

 だから、母に頼んで、その問題集、3ランクあったんだけど、一番上のレヴェルのものを買ってもらったんだ。

「その問題集も、今でもあるの?」

 いや、さすがに、あれまではない。でも、赤いカヴァーの『特選級』とかいうレヴェルのだった。

「それで、37度のサインを、求められた?」

 原理的には、求められたんだろうけど、高校1年生で、私は、テイラー展開というものを知ってしまったので、加法定理をあえて使うことはなかったんだ。

「あれっ、中学3年生って、受験じゃなかったの?」

 私は、高校受験に関しては、ものすごく余裕があったの。だから、一応、鎌倉学園という滑り止めを受けさせてもらったのに、冬休みの頃、父が買ったNECのPC-9801VM21というパソコンと、当時はインクリボンなんてもので印刷してた熱転写プリンターを使って、『一太郎』のVer.2.1で、

『不合格通知』

なんてものを印刷して、封筒に入れていき、合格発表の日に、帰ってきて、

鎌倉学園、落ちたよ』

なんて母に言ったほどだったのだ。

「それは、悪趣味ねぇ。ドッキリなんて、あんな前からあったの?」

 ドッキリ番組なんて、ほとんど見たことないから、分からない。

 とにかく、暇だったので、高校1年の問題集で、まず『式の展開』、次に『因数分解』、と進んだ。

「解けるの?」

 問題集だから、説明はないから、解き方は、あまり分からない。

 でも、式の展開は、とにかく分配法則で、粉々にするだけだから、全部、解ける。

 因数分解は、その逆をやるだけなんだよね。

 そして、さっきの『危険だな』の問題に、出くわしたわけ。

{2x^2-5xy-3y^2+x+11y-6=}

 この順番に式が並んでるんだもの、最初の3つを因数分解するのが、道理だよ。

{2x^2-5xy-3y^2+x+11y-6=(2x+y)(x-3y)+x+11y-6}

 はて、ここからどうしたものか?

 ここで、私は、思い切って、{-6}を2つに分けて、{(2x+y)}{(x-3y)}に、それぞれかけて、うまいこと{x+11y}になるものを、見つけられることに、気付いたんだ。

「最初から、暗算で?」

 そんなことはない。初めは、いっぱい書いてた。

 ただ、特選級だから、難しいのが多くて、時間はあるからゆっくりだけど確実に解いて、いつの間にか、暗算でできるようになった。

「でも、その方法、他の人は、誰も知らないの?」

 そんなこと、あるわけないじゃん。

「えっ、知ってる人いるの?」

 計算の得意な数学者は、こうやってるはずだよ。

 だって、あのアーベルが、麻友さんみたいな、あっち行ったり、こっち行ったり、の見通しの悪い計算してたわけないじゃん。ガウスだって、オイラーだって、モチのロンだよ。

「あっ、そうか。でも、それは、やっぱり、才能なのかしら?」

 まず、計算が好きでないと、良い方法には、気付かないだろうね。

「太郎さん。計算好き?」

 興に乗って、巫女さんが神がかりの状態になったみたいになって、バーッと、ノート30ページくらい計算した後が、一番、

『生きてて良かったなあ』

と思えるほど、気持ちが良いんだよね。

 今までの人生で、10回は、ないんじゃないかなあ。そんなこと。

「太郎さんにとって、私と数学とどっちを選ぶ?となったとき、数学を選んだ方が、その後の人生幸せなんじゃないかしら?」

 麻友さん。そういう男の人の方が、いいんじゃない?

 麻友さんも、私を好きなのと同じくらい、お芝居のことが好き。

 私も、麻友さんと同じくらい、数学が好き。

 でも、お互い相手がそばにいてくれると、安心。

 それくらい、おしば・・・、思い出した!

「エッ、何? なに?」

 今日、TSUTAYAで、『アメリ』借りてきたんだよ。

「それはそうと、1月27日は、見られなかったの?」

 見られなかった、どころか、22時まで、リアルタイムで、見ましたよ。

「見てくれたんなら、伝わってるわね」

 麻友さんらしさ、というものが、さらにはっきり分かってきました。

「太郎さん、安浪京子さんじゃなくて、私と、戦ってたじゃない」

 一度、この因数分解の話を書いてみたかったんだ。

「じゃ、『アメリ』見てね。おやすみ」

 もちろん見るよ。おやすみ。

 現在2018年2月7日0時01分である。おしまい。

整数環(その3)

 現在2018年1月9日16時30分ある。

「えっ、整数についてやったときのことって、ほとんど、忘れちゃってる」

 そうだろうね。私も、良く覚えていない。

「説明してる、太郎さんからして、そうなの?」

 例え数学であっても、全部の証明を覚えているなんてことは、できない。

 いくつか、鍵になることだけ、覚えているんだよ。

「どれが、鍵で、どれが、鍵じゃないか、教えてよ」

 もちろん、教えるようにしている。

 『定義』とか、『定理』とか言って、まとめたものは、鍵のことが多い。

「でも、忘れちゃった」

 いいんだよ。1回で、覚えようとするより、何度もやって、当たり前になっていった方が良い。

「それで、今日の話は、どこから、始めるの?」

 『整数環(その2)』では、麻友さんにせがまれて、公理的集合論の説明を、始めた。

「どんなこと、やったっけ?」

 『{\forall}(エニ)』とか『{\in}(要素)』とかやったの、覚えてない?

「やったかしら?」

 まあ、いいや。

 公理的集合論の話をするのは、私は楽しいが、麻友さんに負担が大きい。

 それより、数学の基礎になってる小学校の算数で、いくつか話しておきたいことがある。

「どうして?」

 『AKB48小学算数』をやっていて、公理的集合論やっても、この問題集、解けるようにならないな、と思ったからなんだ。


 具体的に言うとね、このテキストを見つけて、私の算数と比較してたんだ。

安浪京子『小学校6年間の計算の教え方』(すばる舎

「比較してどうだったの?」

 この本の方が、より良い方法のこともあるけど、私の方が、計算しやすいな、ということも、いくつかあったんだ。

「それは、聞いてみたいわねぇ」

 でしょ。だから、『安浪京子VS松田太郎』をやってみようというわけ。

「うん。それなら、面白そう。やって、やって」


 小学校の場合、まず、正の整数の足し算から。

 例えば、{3+5=} なら、いくつだっけ?

「もちろん、{8} ね」

 そう。両手の指で数えられる数ならば、指を折って数えられる。

 そもそも、10本の指を折るところまで、1,2,3,4,5,6,7,8,9と、数字を知っていないと算数は、始まらない。

「それは、そうね。でも、小学校に入る前から、それは、もう知ってたわ」

 うん。幼稚園でも教えるし、NHKの教育テレビ、今のEテレでも、何度も教えている。

「9の次、10なんだけど、0をどう習ったのかしら?」

 私も、『0』というのは、昔、インドで発見されたんだ、とか言われながら、いつの間にか、10と書けるようになった。幼稚園に入る前だ。

「幼稚園に入る前?」

 うん。幼稚園の頃、大好きな蒸気機関車の絵をクレヨンで描いていたとき、母に、

『光の速さってどれくらい?』

と聞いたら、

『37万キロだったかしら?』

と言われたので、蒸気機関車の上に、

『370000キロ』

と書いたのを、覚えているんだ。

「えっ、37万キロだっけ?」

 いや、もちろん、秒速30万キロなんだけど、母の科学の知識って、あんまり当てにならないんだ。

「そうやって、370000キロなんて書けるということから、10くらいの数は、とっくに使ってたのね」


 光の速さにたとえるのは、誰でもおんなじだね。

「あの絵のことでしょ」

 うん。この絵、笑っちゃった。

f:id:PASTORALE:20160419081112j:plain

「光の速さに到達することは、できないのよね、相対性理論によると」

 一応、そういうことになっている。『相対論への招待』も、次を書かなきゃね。

「太郎さん、書かなきゃいけないこと、いっぱいあるのよ」

 そうだね。


 さて、足して10以下の足し算なら、問題ない。

 次に、十指に余る計算。

 例えば、{7+9=} というようなのは、どうする?

「それは、9に1を足すと10だから、7から1引いて6としたものと合わせて、16とするわ」

 それが、正解だね。

 安浪京子さんも、同じように、10を作って、計算する。と、書いてる。


 こういう計算ができる、ということの根拠は、なんだろう?

「根拠? どういうこと?」

 つまり、

{7+9=6+1+9=6+10=16}

と、計算できることを保証してるのは、何?

「あー、分かった。

{7+9=(6+1)+9=6+(1+9)=6+10=16}

の、

{(6+1)+9=6+(1+9)}

の部分ね。これは、足し算の結合法則ね」

 ここは、使っても良いでしょう。さすが、特待生!

「えー、でも、この計算に、足し算の結合法則を使ってるなんて、考えたこともなかった」

 そもそも、足し算をうんと習った後、結合法則を習うからね。

「そういえば、私たちが作っていた自然数で、足し算の交換法則は証明したけど、結合法則って証明したっけ?」

 いや、まだ証明してない。

 やっちゃおうか。

「できるなら」


 まず、私たちの自然数の足し算というものは、

{A=1+1+\cdots+1+1}

{B=1+1+\cdots+1+1}

が、自然数の時、

{A+B=(1+1+\cdots+1+1)+(1+1+\cdots+1+1)}

{A+B=1+1+\cdots+1+1+1+1+\cdots+1+1}

というように、1の列を継ぎ足すというものだった。



 これを用いて、次のように、証明を行う。



 定理 25    足し算の結合法則

 自然数{A,B,C} について、

{(A+B)+C=A+(B+C)}

が成り立つ。

 証明

 今、3つの自然数を、次のようなものとしよう。

{A=1+1+1}

{B=1+1+1+1}

{C=1+1}

 この時、

{A+B+C}

として、

{(1+1+1)+(1+1+1+1)+(1+1)=1+1+1+1+1+1+1+1+1}

を結果として与えることに定義すると、これは、

{(A+B)+C= \bigl((1+1+1)+(1+1+1+1)\bigr)+(1+1)}

と、同じであり、

{A+(B+C)=(1+1+1)+\bigl((1+1+1+1)+(1+1)\bigr)}

とも同じである。

 ここで、同じであるとは、つまり、1の並んでいる絵が、模様として同じであるということである。

 ただし、括弧『()』は、見る人のためにつけてあるだけで、自然数の絵としては、そんなものはないとする。

 そうすると、

{(A+B)+C=A+(B+C)}

であり、足し算の結合法則が、成り立つ。

 そこで、以後、

{A+B+C=(A+B)+C=A+(B+C)}

を、{A+B+C}の定義とする。

 定理 25 証明終わり



「これで、証明になっているの?」

 多分、麻友さんに取って、何が定義されていることで、何を証明しなければならないか、が、ごっちゃになっているんだと思う。

 今は、証明が分からなくても、悲観せず進んだ方が良い。数学が本当に面白くなるのは、大学に入ってからだから。

「えっ、数学って、大学行ってから面白くなるの?」

 それは、本当だよ。私は、高校時代から大学の数学をやってたってだけで。

「じゃあ、まず算数を片付けましょう」

 さしあたって、足し算の結合法則を、片付けた。


「あの、聞きにくいんだけどね、足し算の結合法則というのは、習うでしょ。でも、引き算の結合法則というのは、ないの?」

 うん。さすが特待生、聞きにくいことも、質問してくる。それでいいんだよ。

 まず、引き算というものは、私たちは、まだ定義してないけど、とりあえず知っているものとしよう。

「例えば、引き算だったら、{(9-3)-2=} みたいなのかしら?」

 結合法則が成り立つとすると?

「うーんと、{(9(-3-2)=} かしら?」

 計算してみて?

「えっと、

{(9-3)-2=6-2=4}

 もう一つは、

{9(-3-2)=9(-5)=4}

だから、引き算でも結合法則は成り立つんだわ」

 特待生だけあって、論理は一貫している。

 でも、引き算の結合法則は、成り立たないんだ。

「どこが、いけないの?」

 麻友さんが、一瞬戸惑った部分。

{9(-3-2)=}

の部分で、間違った推論をしてしまった。

「えー、あっ、でも、{9}{(-3-2)}の間に、足すも引くもないわね」

 そう。結合法則の括弧を動かすときに、

{(9-3)-2=9-(3-2)}

と、しなければならなかったんだ。

{9-(3-2)=9-1=8} だから、答えが違ってくる。だから、引き算の結合法則は、成り立たないのね」


 小学校の頃からの宿題、1つ片付けた?

「うん。すっきりしたわ」


 麻友さんが、AKB48を卒業してしまったから、動いている麻友さんを見ることは激減したね。

「前から気になってるんだけど、私、絶対太郎さんと結婚しなければ、ならないの?」

 そりゃ、絶対私と結婚してくれなきゃ駄目だよ。

「どうして? 独裁者でもないのに」

 だって、結婚してくれなきゃ、私、悲しむもの。

「でも、そういうファンの人達は、大勢いるのよ。私が、他の人を選ぶ自由は持てないのかしら?」

 高橋みなみさんが、その著書『リーダー論』の『おわりに』で、ファンの人『みんな』でなく、『ひとりひとり』をイメージできたから、今までやってこられた。と、書いている。

 麻友さんが、ファンの人ひとりひとりを大切にしたい気持ちは、良く分かる。

 ただ、他のファンの人と私とでは、1つ違いがある。

「えっ、違い?」

 他のファンの人と結婚した場合、よほどのことがない限り、その人は、麻友さんを独占しようとするだろう。

 それが、通常の結婚の意味だ。

「ああ、太郎さんは、以前の、ファンの人とデートする、という話をしてるのね」

 そう。

「でも、現実問題として、そんなことは無理よ。お金も稼がなきゃならないし」

 その根本の価値観が揺らごうとしているんだ。

「どういう風に?」

 以前から話している小林りんさんに勧められて『日経ビジネス』という雑誌を時々読んでるんだ。

「それで?」

 去年日本でも大幅な予算が付いて、量子コンピューターというものの開発がどんどん進んでいる。

 そして、ある試算によると、8年半後には、量子コンピューターのスピードがあまりにも速くなって、解けない暗号というものがなくなり、あらゆる仮想通貨が使えなくなるという。

「どうして、暗号が解けると、仮想通貨が使えなくなるの?」

 簡単に言うと、パスワードを管理しているパソコンをハッキングすることもできて、パスワードをかけることができなくなるからだと言ったら分かりやすいだろう。

「じゃあ、ビットコインとか、アマゾンギフト券とか、駄目になるのね」

 それですむと思う?

「えっ、クレジットカードも駄目?」

 銀行預金していたって、下ろされちゃうってことでしょ。

「そんな、現金持ち歩くの?」

 ところが、その一方で、たんす預金を減らすために、日銀が、5千円札と1万円札を、廃止しようと言い出している。

「それ、本当なの?」

 朝日新聞に載っているくらいだよ。

「じゃあ、経済は、どうなるの?」

 私が、前から言っているように、お金という概念が、本当になくなると思うね。

「お金という概念がなくなったら、本当に、ファンの人全員とデートする、なんてことが、可能になるというの?」

 それぞれの人が、もっと自分にとって本当に大切なものを守ろうとすれば、そういうことも、実現できると思う。

「結局、私の百万人以上いるファンの中で、それを説明してくれたのは、太郎さんだけだったのね」

 私たちにとっての結婚の意味は、こういうことだったというわけだ。

「他のファンの人達がどう思っているのか、知りたくもあるわね」

 ゆっくり、眺めてみたら?

「今日は、ありがとう。バイバイ」

 次回も、安浪京子さんとの対決を続けるよ。バイバイ。