女の人のところへ来たドラえもん

21歳の女の人と43歳の男の人が意気投合し、社会の矛盾に科学的に挑戦していく過程です。                    ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。                                   数式の変形。必ずひと言、添えてよ。それを守ってくれたら、今後も数学に付き合ってあげる。

持ち上がった卵(その5)

 現在2016年3月31日21時58分である。

「熱は、下がったの?」

 うん。やっとね。

「あの卵の実験、待ちくたびれたわよ。」

 アハハ。麻友さんと驚きを共有しようと思って、予備実験せずにやったから、手際が悪かったね。

「でも、太郎さんの顔は、唐揚げ持ってたときとか、ワンダエクストラショット持ってたときより、かっこよく見えたわ。」

 やっぱり、物理や数学やってるときの私って、輝いているんだ。

 以前、いずみ野で、芽生えという生活教室に行ってたとき、数学が好きだという人がいたんだよね。

 その人が、私も、まだ半分くらいしか読んでいない、

矢ヶ部巌『数Ⅲ方式ガロアの理論』(現代数学社

という本を、読もうと思っているというので、

『この本は、こうやって読むんだよ。』

って言って、ノート持って行って、実際にその場で、読み進めてみてあげたんだ。

 そしたら、その後少しして、その人が、

『あんな顔して読まなきゃならない本なんて、俺は無理だ。』

って言ってきたんだよね。

 多分、私、相当すごい顔して読んでたんだと思う。

「別に、恐い顔じゃあ、なかったのよ。」

 そうだけどね。気合いの入り方が、全然違うのよ。

「仕事自体にも、その気合いを入れたら、うまく行かないのかしらね。」

 うーん。私が、せっかくの才能を生かしてないのは、確かなんだけどね、私にも周囲にも、まだそれを改善できていないんだ。

「太郎さんは、これから何かするって言ってるけど、今までにもチャンスはなかったの?」

 例えば、妹は、国文科なんだけど、『徒然草』を勉強するっていうので、父の実家から、『徒然草』の本を持ってきたんだ。それを見て、私が、

『つれづれなるままにひぐらし、こころにうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなくかきつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。』

と暗唱したら、妹が、

『何それ』

って言って、最初のページを開いたら、そう書いてあったんだよね。それで、

『たろちゃん、その才能、何かに生かせないの?』

と嘆いたんだ。

 今、カンニングせず、上の一文を書いたので、1カ所間違っている。

『つれづれなるままにひぐらし、すずりにむかいて、こころにうつりゆくよしなしごとを・・・』

の『硯にむかいて』が抜けてしまった。

 でも、国文科の妹が見ても、絶対才能が眠っているはずの私なのに、なかなか活用できなかったんだよね。

 このブログを書いているのは、多分役に立つだろうと思って、一所懸命書いているんだけど、どうだろう。

「どこまで、世間に認められるのかしら。」

 このブログをそのまま出版するのは、無理だと思うのね。

 ただ、これを書くことを通して、私自身も、非常に勉強になるのよ。

 今回のことにしても、麻友さんに見せようと思わなかったら、実験してみようと思わなかったと思う。

「それで、あの実験で、何が分かったの?」

 あぁ、やっぱり、あれだけ見ても、分からないか。

「全然、分からなかったわ。」

 塩を加えていって、あるところで、卵が上に向かって上がりだしたら、一気に水面まで行くんじゃないかと、幼稚園の時の私は、考えたんだったよね。

「そう言ってたわね。」

 それを、母と、実験することになったのだった。

「そこまで、覚えてるわ。」

 母と、『どんなコップで実験したでしょう』というのを問題にしておいたけど、麻友さんは、柏木由紀さんのホイップクリームみたいな写真をリツイートした。つまり、生クリームを作る『ボウル』という答えで良いのかな?

「そういうつもりだった。」

 良かった。

 私と母は、結構大きいガラスのコップで実験したんだよ。

 でも、完全には卵が横に寝なくて、私は、不満だった。

「じゃあ、実験はうまく行かなかったの?」

 それで、済む私ではない。

 ずっと、どうすれば良いかなあって考えていて、お風呂に入るために、服を脱いでいたとき、父が使う大きなビールのジョッキを使ったら良いと思い付いたんだ。

「あぁ、なるほど、ジョッキね。」

「それで、次の日、実験したの?」

 それがねぇ、記憶が曖昧なんだ。

 確かに、翌日、幼稚園で、先生に、

『本当に、本に書いてあったように、卵が、ちょっとずつ浮き出して、ちょっとずつ持ち上がって、浮かぶところまで、あの通りでした。』

と報告したのは、覚えているんだけど、どんな実験をしたのか、思い出せないんだ。

「えーっ、肝心のところじゃない。」

 そこのところが、不安だったから、麻友さんに話す前に、実験することにしたんだよ。

「ああ、そういう実験だったのね。」

「たしかに、段々、卵は、浮いてきていたみたいだけど。」

 そうなんだ。動画では、分かりにくいけど、最終的に、卵は、底から浮かんでいるんだ。

「と、すると、上へ向かいだしたら、一気に水面まで行く、というのは、ウソね。」

 そう。あれは、間違った仮説だったんだ。

「ところで、塩を加えると、なんで浮くの?そういうものだってことは知ってるけど、なぜだか知りたいわ。」

 うん。これには、何通りもの答え方がある。

 まず、次のように、答えてみよう。

 塩を加えていくと、塩水になるわけだから、同じ体積の水の重さが重くなるというのは、いいかな?

「塩が混ざるとは言っても、水と塩は、別々のものだから、水自体の重さは、重くならないんじゃないかしら。」

 いいんだよ。小学生の時、聞けなかった質問をしても。

 そうだねぇ。まず、塩が水に溶けるというのが、どういうことか、分からないといけない。

 ところが、塩が水に溶けるということだけでも、電気のプラス-マイナスとか、イオンとか、難しい言葉が出てきて、いっぺんには、無理だ。

 例えば、お風呂に入っているとき、上の方に熱いお湯が集まりやすいっていうのは、知ってるよね。

「もちろん。それくらいなら。」

 あれは、温度の高いお湯の方が、軽いからなんだよ。

「それくらいなら、知ってるけど。」

 つまり、水にも、軽い水や重い水があるんだ。

「重水(じゅうすい)っていうの?」

 ああ、それは違う。重水っていうのは、原子爆弾作るときに使う、特殊な水なんだ。そのうち、説明するね。

 今言っているのは、温度が違ったり、中にものが溶けてたりして、わずかに重さが異なる水のことなんだ。

 麻友さんが、泳げると、一番良かったんだけどな。

「どうして、泳げないと駄目なの?」

 海で泳ぐのって、プールより楽なんだ。

「えっ、そうなの?」

 うん。海は、塩水で、少し重いから、その分、身体が浮くんだ。

「知らなかった。」

 とにかく、色んな知識と関係させて、納得できるように持って行く。

「でも、何か、分からないのよ。なぜ、浮くのか、本当の力は、どこから出ているの?」

 こう考えたらどうだろう。水の中に塩があるよね。

「うん。」

 その塩の小さい塊が、上からも横からも下からも、卵にぶつかってきてる。

「それは、そうでしょうね。」

 その当たる量がね、下からの方が塩も濃くなっていて、たくさん当たるんだ。

「へっ、そうなの?」

 そう。

 だから、上へ持ち上げる力の方が大きくなって、浮くわけ。

「なんか、だまされたような。」

 確かに、ごまかしもある。

 これだと、なぜあの量まで入れないと、浮かないのか、分からない。

「そうよね。」

 ただ、そういう定量的なことができるほど、今はまだ進んでないし、実際、私は、幼稚園生だったからね。

「それを、忘れてたわ。」

 とにかく、この卵の実験が、私が、人生で最初にやった実験だった。

「実験は好きになった?」

 いや、私は、どんどん実験嫌いになっていく。

 私は、滅多に実験をしなかったが、

『これは、絶対確かめておかねば。』

という実験だけはやった。

 私の高校の頃の話をするとき触れるだろうけど、磁石を使って発電できるかどうか気になったときは、ちゃんとテスターもつないで、実験した。

「上手くいった?」

 いや、私の仮説が間違っていた。

「うまく行けば、どうなるはずだったの?」

 磁石さえあれば、電気をずっと作れるかもしれないと思ったんだけど、そんなにこの世界は甘くなかった。

「でも、発電所って、磁石で、電気作ってるんじゃなかったかしら。」

 磁石を動かさなければ、ならないんだよ。

「動かすことが、本質的なの?」

 そう。電気を流したい電線に対して相対的に磁石を動かすと、電気が流れるんだ。

「電池の中も、そうなってるの?」

 あっ、電池の中は、また別の構造なんだ。

 電池が、どうやって電気を作るかは、量子力学を学ぶときのお楽しみだ。

「卵の実験の話は、これでおしまい?」

 今、話せることは、ここまでだね。

「私、実験は、面白かったわ。」

 実験で、科学を好きになる子って、多いらしいね。

「また、そのうち何か、実験してよ。」

 麻友さんに『実験してよ。』って言われたら、やらないわけにいかないけど、簡単にはできないんだよ。

 実際、麻友さんを喜ばせようと思って、料理でできる実験なども文献読んで、一つは、バナナの皮に、絵を描くというのやってみたんだけど、余りうまく行かなかった。

「あっ、やってるんじゃない。見せてよ。」

 計算の間違いや、暗唱力の間違いは、平気で見せられるんだけど、実験の失敗は、余り見せられないというのは、それだけ実験に関して自分に自信がないのかもなあ。

「太郎さんの弱いところみっけ。」

 弱いと言えば、私の弱いところだった英語の勉強、進んでるよ。

「最近は、どんなことやった?」

 {\mathrm{poor\ Dick}}(かわいそうなディック)

 {\mathrm{the\ poor\ Dick}}(貧しいディック)

というように、意味によって、{\mathrm{the}}が付いたり付かなかったりすることを、知った。

「じゃあ、{\mathrm{the\ poor\ Taro}}だけど、{\mathrm{poor\ Taro}}ではないわね。」

 麻友さんが、そう言ってくれるのなら、幸せだ。

「じゃあ、おやすみ。」

 おやすみ。

 現在2016年4月1日0時53分である。おしまい。