現在2016年3月31日21時58分である。
「熱は、下がったの?」
うん。やっとね。
「あの卵の実験、待ちくたびれたわよ。」
アハハ。麻友さんと驚きを共有しようと思って、予備実験せずにやったから、手際が悪かったね。
「でも、太郎さんの顔は、唐揚げ持ってたときとか、ワンダエクストラショット持ってたときより、かっこよく見えたわ。」
やっぱり、物理や数学やってるときの私って、輝いているんだ。
以前、いずみ野で、芽生えという生活教室に行ってたとき、数学が好きだという人がいたんだよね。
その人が、私も、まだ半分くらいしか読んでいない、
という本を、読もうと思っているというので、
『この本は、こうやって読むんだよ。』
って言って、ノート持って行って、実際にその場で、読み進めてみてあげたんだ。
そしたら、その後少しして、その人が、
『あんな顔して読まなきゃならない本なんて、俺は無理だ。』
って言ってきたんだよね。
多分、私、相当すごい顔して読んでたんだと思う。
「別に、恐い顔じゃあ、なかったのよ。」
そうだけどね。気合いの入り方が、全然違うのよ。
「仕事自体にも、その気合いを入れたら、うまく行かないのかしらね。」
うーん。私が、せっかくの才能を生かしてないのは、確かなんだけどね、私にも周囲にも、まだそれを改善できていないんだ。
「太郎さんは、これから何かするって言ってるけど、今までにもチャンスはなかったの?」
例えば、妹は、国文科なんだけど、『徒然草』を勉強するっていうので、父の実家から、『徒然草』の本を持ってきたんだ。それを見て、私が、
『つれづれなるままにひぐらし、こころにうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなくかきつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。』
と暗唱したら、妹が、
『何それ』
って言って、最初のページを開いたら、そう書いてあったんだよね。それで、
『たろちゃん、その才能、何かに生かせないの?』
と嘆いたんだ。
今、カンニングせず、上の一文を書いたので、1カ所間違っている。
『つれづれなるままにひぐらし、すずりにむかいて、こころにうつりゆくよしなしごとを・・・』
の『硯にむかいて』が抜けてしまった。
でも、国文科の妹が見ても、絶対才能が眠っているはずの私なのに、なかなか活用できなかったんだよね。
このブログを書いているのは、多分役に立つだろうと思って、一所懸命書いているんだけど、どうだろう。
「どこまで、世間に認められるのかしら。」
このブログをそのまま出版するのは、無理だと思うのね。
ただ、これを書くことを通して、私自身も、非常に勉強になるのよ。
今回のことにしても、麻友さんに見せようと思わなかったら、実験してみようと思わなかったと思う。
「それで、あの実験で、何が分かったの?」
あぁ、やっぱり、あれだけ見ても、分からないか。
「全然、分からなかったわ。」
塩を加えていって、あるところで、卵が上に向かって上がりだしたら、一気に水面まで行くんじゃないかと、幼稚園の時の私は、考えたんだったよね。
「そう言ってたわね。」
それを、母と、実験することになったのだった。
「そこまで、覚えてるわ。」
母と、『どんなコップで実験したでしょう』というのを問題にしておいたけど、麻友さんは、柏木由紀さんのホイップクリームみたいな写真をリツイートした。つまり、生クリームを作る『ボウル』という答えで良いのかな?
「そういうつもりだった。」
良かった。
私と母は、結構大きいガラスのコップで実験したんだよ。
でも、完全には卵が横に寝なくて、私は、不満だった。
「じゃあ、実験はうまく行かなかったの?」
それで、済む私ではない。
ずっと、どうすれば良いかなあって考えていて、お風呂に入るために、服を脱いでいたとき、父が使う大きなビールのジョッキを使ったら良いと思い付いたんだ。
「あぁ、なるほど、ジョッキね。」
「それで、次の日、実験したの?」
それがねぇ、記憶が曖昧なんだ。
確かに、翌日、幼稚園で、先生に、
『本当に、本に書いてあったように、卵が、ちょっとずつ浮き出して、ちょっとずつ持ち上がって、浮かぶところまで、あの通りでした。』
と報告したのは、覚えているんだけど、どんな実験をしたのか、思い出せないんだ。
「えーっ、肝心のところじゃない。」
そこのところが、不安だったから、麻友さんに話す前に、実験することにしたんだよ。
「ああ、そういう実験だったのね。」
「たしかに、段々、卵は、浮いてきていたみたいだけど。」
そうなんだ。動画では、分かりにくいけど、最終的に、卵は、底から浮かんでいるんだ。
「と、すると、上へ向かいだしたら、一気に水面まで行く、というのは、ウソね。」
そう。あれは、間違った仮説だったんだ。
「ところで、塩を加えると、なんで浮くの?そういうものだってことは知ってるけど、なぜだか知りたいわ。」
うん。これには、何通りもの答え方がある。
まず、次のように、答えてみよう。
塩を加えていくと、塩水になるわけだから、同じ体積の水の重さが重くなるというのは、いいかな?
「塩が混ざるとは言っても、水と塩は、別々のものだから、水自体の重さは、重くならないんじゃないかしら。」
いいんだよ。小学生の時、聞けなかった質問をしても。
そうだねぇ。まず、塩が水に溶けるというのが、どういうことか、分からないといけない。
ところが、塩が水に溶けるということだけでも、電気のプラス-マイナスとか、イオンとか、難しい言葉が出てきて、いっぺんには、無理だ。
例えば、お風呂に入っているとき、上の方に熱いお湯が集まりやすいっていうのは、知ってるよね。
「もちろん。それくらいなら。」
あれは、温度の高いお湯の方が、軽いからなんだよ。
「それくらいなら、知ってるけど。」
つまり、水にも、軽い水や重い水があるんだ。
「重水(じゅうすい)っていうの?」
ああ、それは違う。重水っていうのは、原子爆弾作るときに使う、特殊な水なんだ。そのうち、説明するね。
今言っているのは、温度が違ったり、中にものが溶けてたりして、わずかに重さが異なる水のことなんだ。
麻友さんが、泳げると、一番良かったんだけどな。
「どうして、泳げないと駄目なの?」
海で泳ぐのって、プールより楽なんだ。
「えっ、そうなの?」
うん。海は、塩水で、少し重いから、その分、身体が浮くんだ。
「知らなかった。」
とにかく、色んな知識と関係させて、納得できるように持って行く。
「でも、何か、分からないのよ。なぜ、浮くのか、本当の力は、どこから出ているの?」
こう考えたらどうだろう。水の中に塩があるよね。
「うん。」
その塩の小さい塊が、上からも横からも下からも、卵にぶつかってきてる。
「それは、そうでしょうね。」
その当たる量がね、下からの方が塩も濃くなっていて、たくさん当たるんだ。
「へっ、そうなの?」
そう。
だから、上へ持ち上げる力の方が大きくなって、浮くわけ。
「なんか、だまされたような。」
確かに、ごまかしもある。
これだと、なぜあの量まで入れないと、浮かないのか、分からない。
「そうよね。」
ただ、そういう定量的なことができるほど、今はまだ進んでないし、実際、私は、幼稚園生だったからね。
「それを、忘れてたわ。」
とにかく、この卵の実験が、私が、人生で最初にやった実験だった。
「実験は好きになった?」
いや、私は、どんどん実験嫌いになっていく。
私は、滅多に実験をしなかったが、
『これは、絶対確かめておかねば。』
という実験だけはやった。
私の高校の頃の話をするとき触れるだろうけど、磁石を使って発電できるかどうか気になったときは、ちゃんとテスターもつないで、実験した。
「上手くいった?」
いや、私の仮説が間違っていた。
「うまく行けば、どうなるはずだったの?」
磁石さえあれば、電気をずっと作れるかもしれないと思ったんだけど、そんなにこの世界は甘くなかった。
「でも、発電所って、磁石で、電気作ってるんじゃなかったかしら。」
磁石を動かさなければ、ならないんだよ。
「動かすことが、本質的なの?」
そう。電気を流したい電線に対して相対的に磁石を動かすと、電気が流れるんだ。
「電池の中も、そうなってるの?」
あっ、電池の中は、また別の構造なんだ。
電池が、どうやって電気を作るかは、量子力学を学ぶときのお楽しみだ。
「卵の実験の話は、これでおしまい?」
今、話せることは、ここまでだね。
「私、実験は、面白かったわ。」
実験で、科学を好きになる子って、多いらしいね。
「また、そのうち何か、実験してよ。」
麻友さんに『実験してよ。』って言われたら、やらないわけにいかないけど、簡単にはできないんだよ。
実際、麻友さんを喜ばせようと思って、料理でできる実験なども文献読んで、一つは、バナナの皮に、絵を描くというのやってみたんだけど、余りうまく行かなかった。
「あっ、やってるんじゃない。見せてよ。」
計算の間違いや、暗唱力の間違いは、平気で見せられるんだけど、実験の失敗は、余り見せられないというのは、それだけ実験に関して自分に自信がないのかもなあ。
「太郎さんの弱いところみっけ。」
弱いと言えば、私の弱いところだった英語の勉強、進んでるよ。
「最近は、どんなことやった?」
(かわいそうなディック)
(貧しいディック)
というように、意味によって、が付いたり付かなかったりすることを、知った。
「じゃあ、だけど、ではないわね。」
麻友さんが、そう言ってくれるのなら、幸せだ。
「じゃあ、おやすみ。」
おやすみ。
現在2016年4月1日0時53分である。おしまい。